女子校の百合小説屋さん【第1章完結まで毎日更新】

〜貴女が主人公の夢小説、お書きします〜
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素敵な小説を書くために必要なことはなんだと思いますか?

公開日時: 2020年9月5日(土) 00:00
文字数:1,510

「……大丈夫です。……じゃあ、小説の内容についてもう少し希望を出してもいいですか?」

「構いませんよ」

「私と皐月先輩が付き合うことになった、って設定で書いてほしくて……」

「ああ、そのくらい全然大丈夫ですよ? 分かりました、そういう風に書きますね。貴方と皐月先輩の日常の延長線として、恋愛に発展していく。こんな感じでよろしかったですか?」

「はい、それでお願いします」

「たくさんご回答ありがとうございました。ヒアリングは以上になります。完成は……二週間後を一旦の目安としてください」

「分かりました」

「何らかの事情があれば締切を引き伸ばすかもしれませんが、その場合は二週間後にお知らせしますので。また、放課後にここに来てください」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 そうして初めての依頼者のヒアリングは終了した。依頼者が席を立ち、教室を出て遠ざかる足音を確認して私はひとつ息をつく。


「ふう……こんなものかしら」

「蛍、おつかれ! ヒアリング、プロのなんとかセラピストみたいだったよ!」


 眞矢はぴょんと机を飛び降り、私の席の脇にしゃがみ込んだ。腕を伸ばして机上のルーズリーフを手に取って眺め回す眞矢を見ていると、人懐っこい動物のように思えてきてなんとなく頭を撫でた。私の手に撫でられて、眞矢はくすぐったそうに笑っている。


「なんとかセラピストね……実際叶わぬ恋のセラピストたりえるかも知れないけれど」

「かっこいい~! 蛍先生の次回作、楽しみにしてます!」

「次回作って……まだ実績ないわよ」

「私に書いくれたじゃーん! 蛍の処女作はまやちーに捧げてくれたんでしょ?」

「ああ、あれね……作品にカウントしていいのかしら」

「しといてしといて! いずれ大成する茅切蛍大先生の記念すべき処女作……! 数年後には高値がついているかも!」


 眞矢は茶化すように言うけれど、きっと高値がつく日が来ても彼女は私の小説を売ったりはしないと思う。眞矢はそういう子だ。


「さて……私はこの後作戦を練る予定だけど、眞矢はどうする?」

「お供します! 場所はスタボでいい? 新作ドリンク飲みたい! 期間限定ストロベリー味だって!」

「はいはい」




 私と眞矢は学校からカフェスターボックスへ場所を移し、作戦会議を開いた。運良く階段を上がって二階の一番奥の席が空いていたのでそこへ陣取る。普段抹茶ドリンク派の私も今回は眞矢につられてストロベリー味を選んだ。


「眞矢さん、素敵な小説を書くために必要なことはなんだと思いますか?」

「文才!」

「身も蓋もないこと言うのね……まあ文才ゼロじゃ厳しいでしょうけれど。素敵な小説を書くために必要なことの一つとして、取材というものがあります。小説の舞台が現代日本なら尚更ね」

「ほうほう?」

「そこで今回のターゲットである皐月先輩とやらについて調べようと思います。情報は充分に出揃ってるしね」

「そうだねぇ。まず学年は高二だっけ?」

「私たちまで皐月先輩って呼んでるけれど年下なのよね。そして吹奏楽部所属、パートはフルート。人数からして恐らくパートリーダー」

「それだけ分かってたらパート練を見に行けば特定できそうだよね、皐月先輩金髪らしいし」

「おまけに依頼者も当てられる気がするわ。中三なんでしょう?」

「依頼者も調べるの? せっかく本人が隠したがってるのに」

「隠そうとしてるのなんて建前よ、これだけ包み隠さず説明してくれたんだから。『貴方のこと調べさせてもらいました』は流石にまずいけれど、『想像で補ってみました、当たっていると嬉しいのですが』って言えば大丈夫よ」

「蛍ったらあくど~い」

「クオリティは妥協したくないの。そういう訳だから、早速明日の放課後はパート練の調査よ」



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