女子校の百合小説屋さん【第1章完結まで毎日更新】

〜貴女が主人公の夢小説、お書きします〜
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初めて書いた夢小説

公開日時: 2020年9月2日(水) 00:00
文字数:1,137

 翌日早めに登校した私は、まだ人の居ない静かな教室で待つ眞矢に迎えられた。いつもはばっちりツインテールの髪型を決めてくる眞矢は窓際の棚の上に行儀悪く腰掛け、ヘアゴムで結っている最中だった。ヘアセットを後回しにするくらい楽しみにしてくれていたらしい。


「おはよ、蛍! 例のやつ書けた?」

「おはよう。今出すから待ってて」


 鞄の中からA4用紙に印刷した小説を取り出し、眞矢に渡す。わくわくした顔で読み始める眞矢を横目に、私はタオルで汗を拭く。残暑厳しい九月の教室、窓を開けていても蒸し暑い。すぐ側の城跡公園の方面から蝉の鳴き声が聞こえていた。

 小説の内容は、私と眞矢の日常風景を切り取った……という体で書かれた架空のストーリー。放課後に期間限定のドリンクを飲みに行く、なんて実際に起こりそうなワンシーンを書いた。

 たった2000字程度の小説をあっという間に読み終わり、眞矢は溜息を漏らす。お気に召さなかっただろうか? すると眞矢はばっと顔を上げ、私の方へ身を乗り出した。


「すっごい! 蛍って文才あったんだね! 全然知らなかった!」

「面白かった?」

「面白い……っていうか綺麗だった! 情景が浮かんでくるというか……! 回りくどい言い回しをしないのも読みやすくていいね! 私蛍の小説好きかも!」

「そんなに褒められると照れるじゃない……」


 眞矢は私に対してお世辞を言うような性質ではないので、その賛辞がまっすぐ胸に届く。それがとても嬉しいと思う。


「これだったらみんな喜んでくれると思うよ! 早速ビラを撒かなきゃね!」

「そう、それが問題なのよ。大っぴらにやることじゃないでしょう、実在の人物をそのまま描写した小説なんて」


 誰かに知ってもらわないと始まらない、けれど明るみに出るのはまずい。計画段階からこの匙加減が難しいと想定していた。しかし眞矢はぽんと手を叩いて破顔する。


「それならいいところ知ってるよ!」




 眞矢に連れられてやってきたのは校舎裏だった。そこには小さな泉と、かつて中庭に設置されていたという旧マリア像が置かれている。ここは願いが叶う泉として一部の生徒の中で噂になっていた。


「願いの泉……確かにここならちょうどいいかもね」

「でしょでしょ? 叶わない恋をしている人が来る可能性はけっこう高いんじゃないかな!」


 どこに隠し持っていたのか眞矢は真新しい封筒を取り出す。


「てれれ~! 用意のいいまやちーはなんとお洒落なレースの封筒を用意しました」


 眞矢は私の手の中からビラを取り上げ、さっと畳んで封筒の中に入れる。シーリング風のシールで封を閉じ、旧マリア像の足元にそれを置いた。


「これで誰かが気づいてくれるはずだよ!」

「お客様になり得る人が拾ってくれるといいのだけれどね」


 私と眞矢は誰かに見つかる前にそそくさと教室へ戻った。



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