それからいよいよライブ会場となる、校舎内の体育館へ場所を移し、リハーサルが始まった。
コロラドミュージックから、プロの機材スタッフやPAさん、照明スタッフも来てくれていて、本格的なライブ会場のようだった。生配信の方のWebスタッフの方々も、忙しそうにセッティング作業を行っていた。
わたしたち『Re Light』の方がトップバッターで、その後に先輩たちの『Jaguar』という順番のため、逆リハと言って出演順番の逆からリハーサルを行うため、先に先輩たちがリハーサルに入った。
さすが先輩たち、ライブ慣れしている。1曲軽く流す程度に音を出すと、先輩たちのリハーサルは終わった。
次はわたしたちの番だ。
緊張でガクガクしてる…
そうちゃんも陽介くんも優輝くんも加奈も、それぞれ自分楽器のセッティングで精一杯な様子…
落ち着け、落ち着け、と言い聞かせながら深呼吸をしていたら、後ろから両肩に手が置かれ、振り返ると、瀬名さんが立っていた。
「緊張するなって言ったって無理な話しだよな」
なんて言って笑ってる。
「思い出すよ、俺も初めてのライブは緊張しすぎて口ん中カラッカラだったよ」
「え?瀬名さんもバンドを?」
「うん、ボーカルやってた。高校の時にね…
あの時のドキドキワクワクが忘れられなくて、この仕事やってるんだろうなぁ…俺…」
瀬名さんと話していたら、ちょっと落ち着いてきた。
「1曲弾き語りするんだろ?その手で、頑張ったんだな…楽しみにしてるよ、その曲…ん?そのギター…」
「ギター?」
「あ、いや、なんでもない…さぁほら、リハーサル行ってこい!」
リハーサルは、セットリストの1曲目の曲をやった。うん、悪くない。大丈夫だ!行ける!
開場になった!
すごい勢いで観客が入って来る。
先輩たちのコアファンのお姉様方の面々は、今日もしっかり御来場です。
「あのメガネの子、SNSで宣伝してくれたみたいだな!この観客の数はすごいぞ!」
そうちゃんが興奮して言う。
「それ、うちのクラスの伊集院さんじゃない?メガネかけてる地味ーな子でしょ?」
優輝くんが話しに入って来た。
「そう!メガネの子!優輝くんのクラスの子なんだ?」
「あの子、お前たち〈奏太来蘭〉とか〈来蘭加奈〉とかのファンアカウントを作ってるみたいで、俺にレア情報ないか?とか、盗撮してくれとか、無茶なお願いしてきて困ってるんだよー」
「盗撮…さっきもされた…」
カーテン越しの甘々シーンを、がっつりと撮影されてた…
「まじで?それきっとSNSにアップされてるよ?」
「うん、目の前でアップしてた…」
「だからそれ逆手に取って、このライブの宣伝しとけって言ったんだよ!だから見てみろ!この観客の数!」
そうちゃんがドヤる
「なるほど、この観客はそうゆうことか!
伊集院は、もしかしたら今後の俺たちに必要なやつかもしれないぞ?
俺たちの公式サイトとか公式アカウントが必要だと思っていたんだよ!あいつ俺たちのWebスタッフにしないか?」
「それいいかも!!!」
「なに3人で盛り上がってんだよ」
ゾンビ陽介くんと、イケメン執事加奈の2人がやって来た
「見ろよこの観客!」
そうちゃんが、ステージ脇のから会場をちらっと見せる
「うわ!すごいな!予想以上の数じゃん!」
驚く陽介くん
「優輝くんのクラスの伊集院さんって子がね、SNSで宣伝してくれたの!
これだけの人が見に来てくれたんだから、ライブ頑張らなきゃね!」
4人が急に少し心配そうな顔をしてわたしを見る
「来蘭?大丈夫?怖くない?」
加奈がわたしに問う
「今日は、コロラドミュージックさん側が、ステージと観客の間に警備の人を何人も配置してくれてあるからね!心配しなくていいからね!」
優輝くんが言う
「うん…実はちょっと怖い気持ちはあった…でも、これだけのスタッフさんたちが、今日のライブに関わってくれてるのを知ったら、そんな気持ち吹き飛んじゃったよ!大丈夫!わたし歌える!」
「よし!じゃあみんな右手出せ!」
そうちゃんがみんなに右手を出させると、それぞれの腕に〈Re Light〉とロゴが入ったブラックのパイル地のリストバンドを装着させて行き…
最後わたしのやつだけちょっと違う?
「これはな来蘭、全部紫音先生からのプレゼントだよ…来蘭のやつは特別なやつ。ギター弾くのに、よりホールドするように紫音先生が、試行錯誤しながら作ってくれたそうだ。裏側には、俺たち4人の名前が入ってる。俺たちが来蘭の右手になるから、自信もって弾け!」
そう言って、4人でそのリストバンドを装着してくれた。
「はい、ほら、泣かない!化粧崩れるから泣かない!」
加奈にティッシュで涙を吸い取られる。
そうちゃんが右手を差し出し、陽介くん、優輝くん、加奈と重なり、最後にわたしのこの動かぬ右手を置いた。
「行くぞ!!!!!」
それぞれの立ち位置へと進み、楽器を携える。
わたしは静かにマイクスタンドの前に立つ。
ステージには、シルエットだけを映す幕。
優輝くんのピアノが響き始める。
1曲目は、わたしたちが始めて作り上げたあの曲から…
とてつもなく暗く重いスタートに、静まり返る観客たち…
幕のこちら側で姿も見せずに演奏をするわたしたちに、観客は目を凝らしている…
静かにわたしは歌い始める。
救いの欠片もなかったあの頃の感情を歌に込める…
2コーラス目に入るドラムを合図に幕は振り落とされる!!
眩い照明に照らされ、『暗から明』へとスイッチが入る!
加奈のベースが子宮に響き、陽介くんのギターで覚醒する!!
破れた網タイツを纏った卑猥な片足を、モニターアンプに乗せ、観客を見据え、ひとこと
〈『Re Light』の世界へようこそ〉
そのまま2曲目へ突入、わたしはステージ狭しと走り回る!
加奈に駆け寄り、背中を合わせ身体を預け、振り返りざまに加奈の唇を奪う…
〈来蘭加奈〉推しの女子たちの悲鳴が響く
今度はギター側に寄り、ゾンビと絡む…
アドレナリン全開のゾンビに首を噛まれる…
あぁ…脳天がシビレる…
3曲ノンストップでやりきった!
照明が一旦消え、水を一口飲む…
スタッフさんが、ステージ脇からアコースティックギターを持ってくる。
わたしは、紫音先生のGibsonのビンテージギターを抱え、マイクスタンドの前に立った。
照明がわたしだけを照らした。
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