来蘭は順調に回復し、リハビリも頑張った甲斐があって、右手が不自由でも、どうにか日常生活を送れるようになってきつつあり、退院も見えて来ていた。
いつしか季節は夏を過ぎ、秋の気配を感じるようになって来ていた...
今日も俺たちはガレージで、優輝の作ってきた新曲を作りあげていた。だいぶオリジナル持ち曲も増えてきた。
加奈のベースの腕はメキメキと上がって来ていて、俺たち演奏陣の演奏の腕前は、なかなかのものになりつつあった。
「早く来蘭ちゃんの歌入りで演奏したいよなぁ...やっぱり歌入らないとテンション上がらないよ...」
陽介の呟きに、みんな頷く。
「それなんですけど!
なんと!
退院決まりましたー!!」
ドラムスティックを両手に掲げて、みんなに発表した。
「まじで?!」
「いつ?」
「うわー!良かったなー」
明るい声が飛び交う
「長かったな...」
「来蘭ちゃん、頑張ったな...」
いつしかみんな涙声...
泣き崩れた加奈の背中をさすりながら、優輝も泣いていた。
「ほら!湿っぽいのはやめやめー!よし!まずは文化祭だ!文化祭でライブやって、ぶちかまそうぜ!!」
それから俺たちは、文化祭ライブに向けたセットリストを、あーでもないこーでもないと話し合っていると、先輩たちが4人揃ってやって来た。
「やぁやぁ君たち!頑張っているかな?」
ちょっとワケの分からないテンションの廣瀬先輩...
「頭が高いよ?君たち」
さらによく分からないテンションの吉井先輩
「なんなんすか、そのテンション」
めんどくさそうに陽介が言うと
「レコード会社と契約の話しが来たんだよ!」
英二先輩が嬉しそうに言った。
英昭先輩もいつになく嬉しそうに
「デビュー出来るかもしれないんだ!」
そう言って、誇らしげな顔をした。
「まじっすか!!!!すげー!!!!」
あのライブハウスのオーナーでもある大森さんの肝入りでもあった先輩たちのバンドは、大森さんが地道に色々なレコード会社にデモ音源を持って行ってくれた甲斐があって、ある大手のレコード会社が興味を持ってくれたのだそうだ。
「それでな、俺たち現役の高校生バンドって言うのがひとつのウリだってのもあって、今度の文化祭でのライブが、勝負の場になりそうなんだ!そのレコード会社の人が、見に来てくれることになったんだよ!」
興奮ぎみに廣瀬先輩が言う
「ほんとですか?!すごいじゃないですか!!」
陽介も大興奮だ
「んでね、俺たちの音源と一緒にお前らの音源も大森さん渡したみたいでね、お前らのバンドにも興味持ってくれてるんだって。だから、俺たちとお前らで、文化祭ライブぶちかましちゃおーぜ!!って話なの」
吉井先輩のテンションは更に意味不明だったが、まあそれはいつものことだ。
「お互いのセットリストとか、ライブの構成とか考えましょう!!
お互いのバンドのボーカルを交換して1曲やってみるとか、ちょっと誰もやらないだろって曲をカバーしてやってみるとか、エンターテインメント性のあるライブにしてみたら面白くないですか?
ただ普通のライブやるんじゃ玄人の〈ここ〉には響かないっすよ!」
そう言って優輝は自らの拳で胸の辺りを叩いた。
「よし!優輝のプロデュース力に乗っかるぞ!全面的に乗っかってくぞ!!」
廣瀬先輩が、悪代官みたいな悪そうな顔して言った。
「来蘭にも伝えなきゃ...
ここに〈来蘭〉というピースが揃えば、向かうとこ敵無しだ!」
全員静かに頷いた。
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