〈来蘭side〉
「そうちゃん!ねぇ、そうちゃんってば!」
何度声をかけても、こちらを向かない。
完全にむくれてる...
悲しくなって立ちすくむわたしを、ちらっとそうちゃんが振り返った。
「ほらもう帰るぞ!」
陽介くんに促される。
「お腹空いたー!なんか食べてこーよー」
優輝くんがみんなを誘う。
「ごめん優輝、俺と来蘭パス!」
そう言って、そうちゃんはわたしの手を掴んで引き寄せた。
「はいはい、ほら行こ行こ」
加奈が笑いながら陽介くんと優輝くんを促した。
三人揃ってこちらを向きもせずに手を振って行ってしまう後ろ姿を、そうちゃんに片腕で抱きしめられながら見送ると、彼らが角を曲がった途端にあごをグイッと持ち上げられ、唇を奪われた...
(角を曲がったと思った三人が、影から見守ってたこと。そして優輝くんがそのkissシーンを激写し、それをWebスタッフ伊集院さんによって加工してSNSにアップされ、伝説化することを、二人はまだ知らない...)
「覚悟して? 今夜は『奏太』って言わすから...」
雄の目をしながら、口元だけニヤリとするそうちゃんにゾクゾクして、身体の奥が熱を帯びる...
「そうちゃん...」
そのままそうちゃんはわたしの手を引いて、ずんずん歩きながら、少し不機嫌そうに
「俺のことはずっと『そうちゃん』なのに、あいつのことは『蓮』って呼ぶんだな」
「もしかしてそれで怒ってるの?」
「......」
「そっか...そうだよね...」
「......」
「でもね、わたし『そうちゃん』って呼ぶの気に入ってるんだよ...だって『そうちゃん』って呼ぶのはわたしだけでしょ?みんな『奏太』って呼ぶじゃない?『そうちゃん』って呼ぶのは、彼女であるわたしの特権かなって思ってるんだけどな...
みんなの前でわたしが『奏太』って呼ばないのは、彼氏であるそうちゃんだけにしか聞けない特権だからだよ?」
繋いでた手が腰に回され、顔は向こう側に背け、小さな声で
「あーもうヤバい...」
そうちゃんが呟く。
「ごめん来蘭、今日俺ライブ後でアドレナリン出ちゃってるし、来蘭もそうやって煽るし、ちょっと抑えられる自信ないや...」
「...うん...いいよ...わたしは奏太のものだもん...好きにしていいよ...」
「あーもう」
そう言っていきなりしゃがみ込んだそうちゃんは
「そんなのここで言うなよ...」
って地面を叩いて立ち上がり、おもむろにわたしを抱き上げ、そこにあったガードレールにストンと降ろしkissをしながら
「それはベッドで言うセリフだろ...」
と言ってもう一度kissをした。
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