〈奏太side〉
リハビリルームで話そうと、あいつが言うから、言われるがままやってきた。
ここで来蘭は、必死で毎日リハビリしているのかと思ったら、胸を締め付けられる思いがした...
「軽率なことをした。申し訳なかった。」
いきなり紫音は俺に頭を下げた。
一、二発殴ってやろうと思ってたのに、拍子抜けしたわ...くそっ...
「俺にも、俺の事を『そうちゃん』って呼ぶ彼女が居てな..」
「え?あんたの名前って...紫音...」
「創一(そういち)と言うんだ」
「だったらその彼女とよろしくやってろよ!来蘭に手ぇ出すんじゃねぇよ!」
「出来ることなら、よろしくやっていたかったよ俺だって...彼女はね、もうこの世には居ないんだよ...」
そう言って寂しげに微笑んだ。
そして、彼女との美しくも悲しい思い出話を俺にしてくれた...
「その彼女が、さっきあの自販機でうとうとしていたら夢に出てきたんだ」
部屋の片隅に置かれた、リハビリ用の鍵盤キーボードを指差し
「彼女はあそこに座って、懐かしい曲を弾いていた...」
じっと紫音は、その残像を見つめているようだった...そしてゆっくり俺の方を向いて
「彼女...咲がな、『あの子が無理して笑ってるの、気が付いているんでしょう?』って俺に言ったんだ...きっと、『私の二の舞にしたらダメよ』って言いたかったんだろうな...
それと...『もうその十字架を降ろして幸せになって』と...」
言葉に詰まり、俺に背を向けて、肩を少し震わせていた...
「来蘭の声で目が覚めたら自販機横のベンチだった...夢と現実を混同してしまって、来蘭にkissしてしまったんだと自分に言い聞かせようとしたが、それは逆効果のようだよ...言い聞かせる度に来蘭への想いが募る...
正々堂々と君に言うよ、俺は来蘭のことが好きだ。」
あまりにも真っ直ぐに言うから
「本気で言ってんのかよ」
と返すのがやっとだった。
「もちろん本気だよ。
君以上に彼女を幸せにしてやれる自信が俺にはある。」
「ふざけるな!!来蘭を幸せにするのは俺なんだよ!!」
「その君の熱さと根拠の無い自信が、彼女を追い詰めていることに気が付いていないようじゃ、君に勝ち目はない!
本当に彼女のことが大切なら!本当に彼女とこの先の人生を一緒に歩いて行くつもりなら!彼女に掛ける言葉ひとつからよく考えろ!!
いいか?俺は容赦しないで行く!本気で来蘭を奪いに行くからそのつもりで!」
言い切った紫音は、荒々しくドアを開けて部屋を出て行った。
取り残された俺は、怒りと悔しさに1人発狂した。
「ち、ちょっと何事?!」
そう言って入って来たのは春子さんだった。
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