一目惚れから始まった俺のアオハルは全部キミだった

キミと駆け抜けたアオハルDays
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バイト

バイト

公開日時: 2021年5月31日(月) 00:55
文字数:1,990

放課後、ついて行くと言って聞かないそうちゃんをなんとか振り切り、バイトさせてもらうライブハウスの入り口へと繋がる、薄暗い階段を降りていた...

ここはこの街の老舗のライブハウスで、今現在デビューして活躍しているいくつかのロックバンドが、インディーズ時代の下積みをしていたこともあるスゴいライブハウスなのだ。

地下特有の湿気とカビ臭さ、昔から嫌いじゃない....

最近のわたしの分不相応な扱いには、少し疲れていたから、薄暗いここの雰囲気は、妙に落ち着くものがあった。

ライブハウスの重い防音扉を開くと、Pearlのドラムセットと、マーシャルのギターアンプ、アンペグのベースアンプが置かれたステージが目の前に広がった。

「お、来たか?来蘭ちゃんかい?」

「はい!赤井 来蘭です!よろしくお願いします!」

「ここのオーナーの大森です。

吉井から聞いてるよ!

あいつも訳ありな生い立ちだからさ、来蘭ちゃんのことすごい気にかけてるみたいで、どうか使ってやってくれって大騒ぎでさー」

そう言って大柄な身体を揺らして豪快に笑った。

「吉井先輩の紹介がなかったら、こんな有名なライブハウスでバイトなんか出来なかったですから、もう足向けて眠れないです!」

「まぁでも、裏方のバイト足りてなかったから助かるよ!

来蘭ちゃんもバンドやってるんだって?

吉井が面白そうに言ってたよ、めちゃくちゃ歌上手いくせに、ボーカリストになろうとしないんだって?」

「え?吉井先輩そんなことをオーナーさんに?

わたしはベーシストですから!」

「おぉ、ベース弾くのかー、俺も元々はベース弾きなんだよ!

まーいろんな雑用頼むだろうけど、よろしく頼むね!」

「はい!よろしくお願いします!」


バイトは今週末からということになり、オーナーさんにご挨拶をして、ライブハウスを後にした。

学校に戻り、部室に向かう。

先輩たちのリハーサルの真っ最中だ。

少し前から、先輩たちのバンドに鍵盤のサポートで優輝くんが参加するようになった。

鍵盤が入ることによって、先輩たちの楽曲は格段に良くなった。

今週末、わたしがバイトを始めるライブハウスが主催する若手バンドを集めたフェスに、先輩たちも出演することになっていて、その為の熱の入ったリハーサルが続いていた。

スイッチの入った時の吉井先輩は、何かが憑依したように別人になる。

バンドのフロントマンというのは、吉井先輩のように華があってカリスマ性のある人間がやるものだとつくづく感じさせられる。

しかし、吉井先輩の女癖の悪さは増すばかりで、登下校時に連れてる女が同じだった試しがない...

そうちゃんと陽介くんが、奥の方で先輩たちの演奏を真剣に見ていた。

演奏の妨げにならないようにそーっと、そうちゃんたちの側に近寄る。

わたしに気がついたそうちゃんは、片手で抱き寄せて髪にチュっとkissして、首筋の匂いをかぐ...

んもぅ、すぐそれするんだから...

「バイトの面接どうだった?」

耳元でそうちゃんが聞く

「今週末から使ってもらうことになったよ」

わたしもそうちゃんの耳元で答えた。

リハーサルが一段落した先輩たちが楽器を置く。


「来蘭!大森さんに会ってきた?」

マイクを通して吉井先輩が言う。

もう最近じゃ、吉井先輩もわたしのことを来蘭と呼び捨てにする。

「挨拶してきました!

今週末から使ってもらうことになりました!」

「おー!良かったねー!」

マイク通さなくてもいいんじゃないかと思うんだけど、ずっとマイク通して話す吉井先輩...

「うるせーよ吉井!」

ライブが近づくと廣瀬先輩は人が変わる。

いつものようにわしゃわしゃしてくれなくなる...

それはそれでちょっと寂しい...

でも、ピリピリモードの廣瀬先輩も、カッコイイんだよな...

廣瀬先輩に怒られた吉井先輩は、マイクスタンドにマイクを戻し、ミネラルウォーターを飲みながらわたしの近くにやって来て

「大森さんすごいいい人だからさ、安心してかわいがってもらいな」

そう言ってまたゴクリとミネラルウォーターを飲んだ。

「大森さんにわたしを使ってやってくれってすごいお願いしてくれたんだってね、先輩...

先輩も訳ありな生い立ちだから、わたしのことすごい心配してくれてたって...

ありがとう、吉井先輩。」

「あのオッサン、余計なこと言うなよー」

ちょっと照れて困る吉井先輩

「俺んちは俺が小さい頃に親父が死んでんだよ」

「そうゆうこと、そんなあっけらかんと言う?」

ちょっと笑ってしまったわたしに釣られるように先輩も笑いながら

「俺もひとりっ子だし、なんか来蘭のことちょっと妹みたいな気になったんだよね」

西日を眩しそうにしながら、今まで見たことないような優しい顔をした吉井先輩の横顔を、わたしはこっそり見つめていた...

「ありがと、おにーちゃん」

って小声で言ったら、予想外に吉井先輩は照れて

「おまっ、やめろよー」

とか言いながら、あっちへ行ってしまった。



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