「加奈…ほんとにこれ着なきゃダメ?」
「当たり前でしょ?当日になって何言ってるのよ来蘭!」
文化祭当日の朝、わたしはメイド服を着るのを渋っていた…
なぜならこのメイド服、既製品に加奈がしなくていい手を加えて作ってくれたやつで、大きな胸がより強調されるように、重ね着するビスチェでウエストをぎゅうぎゅうに絞り上げるようになってるし、ミニ丈だし、ほんとにこんなの着て大丈夫?ってやつだからだ。
加奈の方は、高身長で細身で足長なスタイルが映えるイケメン執事の衣装の準備は万端のようだ。
今回この文化祭は、陽介くんのクラスはお化け屋敷でゾンビコスプレを、うちのクラスはコスプレカフェでわたしはメイド、加奈は執事、そうちゃんはパイレーツを、優輝くんのクラスは幕末喫茶で沖田総司のコスプレをする。午前中はそれぞれ自分のクラスの仕事、そして午後はいよいよライブ本番!もう分刻みのスケジュールだから、着替えてる暇などないので、ライブはこのそれぞれのコスプレ衣装のままやることになってる。コロラドミュージック側も、文化祭ライブっぽくていい!と大賛成だったらしい…だからもう一日中このメイド服で居なきゃならない…
「さぁ!もう行くよ来蘭!」
コスプレ衣装の大荷物を持って、わたしと加奈は家を出た。
さぁ、文化祭の始まりだ!!
教室に着くと、もうみんなそれぞれの気合いの入ったコスプレ衣装に着替え始めていた。
ポリス、ナース、不思議の国のアリス、海賊王のアニメのやつ、鬼を滅するアニメのやつ、チャイナ服に、ゾンビ…
「ねぇ加奈、メイドコスプレってわたし…だけ…かな…?もっとメイド服の子居ると思ってたのに…」
「早いうちにクラス中の女子達に来蘭にはメイド服着させるって言っておいたからね、来蘭には勝てるわけないってみんなメイド服は避けたんじゃない?さぁほら、ビスチェ締め上げるからその壁にに手をついて!」
「うぅ…苦しいよ加奈…」
「このくらいは我慢して!」
壁に手をついてちょっと前屈みになってビスチェを締め上げられ、強調される大きな胸と、苦しくて歪む顔のわたしの姿に、クラス中の男子が釘付けになっていた…数人はちょっと不自然に前傾姿勢になって股間を抑えている…その様子に気が付いたパイレーツ姿のそうちゃんが、私の前に立ちはだかって隠した。
「ちょっとマジかよこの衣装…」
わたしはそのままそうちゃんに壁ドンされ…
見上げたそうちゃんは、高揚して今にも食べられてしまいそうな雄の顔して見下ろしてる。
「今日一日、ずっとその格好してるつもりなの?俺を殺す気?」
そうちゃんの顔が近づいて来て、kissされるー!って思って目を瞑ったその瞬間
「はい!そこまでー!」
加奈がそうちゃんをわたしから剥がした…
目を開けると、わたしの右の足元にジョニーデップさながらのパイレーツが背を向けて床に指で『の』の字を書きながら、いじけてしゃがんでいた…
メイド姿のわたしと執事姿の加奈は、たちまち1番人気になり、あちこちから接客指名がかかり、てんてこ舞いだった。
近くの公立中学から来たという女子グループの子がSNSに写真をアップしたらしく、その途端に集客は爆発的に増えた。今更ながらネットの力に驚く…
人気No.2は、そうちゃんのパイレーツだった。かわいらしい女子中学生やら、他高校の女子に囲まれてるそうちゃんの姿にモヤモヤが止まらない…
あ、そうちゃんに触れてる…
そんなにくっついて写真撮らないで…
他の子にそんな風に笑いかけたりしないで…
やだ…わたしってこんなにヤキモチ妬く子だったの?
ちょっと気持ち切り替えに行ってこよう
「加奈、ちょっとわたしトイレ行ってくるね」
ひと声かけて教室を出た。
そうちゃんがモテるってこと忘れてたな…
そりゃそうだよな、あんなにカッコイイそうちゃんがモテないわけがないもんな...
ため息をつきながらトイレに向かっていると
「ねえ君?」
と肩を叩かれた。
振り返ると、そこには見知らぬ大人の男性。
「はい…なんですか?」
「校舎内の体育館ってどの階段で行けばいいの?4階だって聞いたんだけど…」
「あ、それなら、この廊下を真っ直ぐ行った突き当たりを左に曲がってすぐの階段で上がって頂ければ…」
会話の途中で、もう1人男性が駆け寄って来た
「ちょっと瀬名さーん、待ってくださいよー、こっちであってるんすかー?」
「この先の階段だって」
わたしは軽く会釈をして立ち去ろうとすると
「ありがとね!」
〈瀬名〉と呼ばれた彼は、そう言ってもう1人の男性と体育館へ向かって行った。
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