トイレの手洗いで、浮かない顔して手を洗いながらため息をつくと、隣でメイク直しをしていた子がわたしに向かって
「今更奏太がモテるのを目の当たりにして、ため息ついてるの?」
マスカラを付け直しながら鼻で笑った。
「白石さん?!」
それはセクシーチャイナ服を着た白石綾さんだった!
「すっごいセクシーだね、そのチャイナ服!」
「いや、そのメイド服着たあなたに言われてもねぇ…」
ビューラーでまつ毛をカールさせながら笑われた。
「そうだった!……」
「どうせ井澤さんに着させられたんでしょ?
しっかしその胸すごいわね!半分くらい分けて欲しいわよ…」
「分けれるものなら分けたいわよ、わたしも」
鏡越しに視線が合って、2人でたまらずに吹き出した。
「自信持ちなさいよ!あなたあたしが3年かかっても落とせなかった男を一目惚れさせた上に、あれだけメロメロにさせてるのよ?
あんなジャリガキやら、他校のブスたちが100人束になったところで、相手にもならないわよ」
「白石さんに言われると、なんか自信出てくる…すごい…」
「言っとくけど中学のバレー部時代のモテ方なんか、こんなもんじゃなかったんだからね?下駄箱開ければ毎日のようにバサバサとラブレターが落ちてくるし、バレー部の練習見たさに体育館にはギャラリーが溢れていたし、毎日のように昼休みは呼び出されて告白されてたから、ゆっくりお昼ご飯食べたことなんかあんまりないんじゃないかな」
あまりにすごいモテ話に、クラクラしてきた…
「それだけモテるのに、誰にもなびかなかったんだから、奏太の目にはあなたしか写ってないわよ!だからそんなため息つくのよしなさい?」
「なんか…うん…ありがとう…」
ちょっと涙でてきた
「わたしずっと白石さんともっと話がしたかったんだ…思った通りの人だった…」
「なによ、思った通りの人って」
そう言って彼女は笑った。
「まぁいいわ、何かあったら言いなさいよ?あたしに出来ることならするから」
「うん!ありがとう!」
白石さんと一緒に、教室に戻る廊下を歩いていると、大奥の廊下か!ってくらいに、人が両脇に避けて行く…
「ねぇ、なんでこんなにみんな避けてくの?」
「そりゃ、あたしとあなたが2人並んで歩いていれば、みんな避けてくわよ」
「どうして?」
「この学校のNo.1とNo.2の人気女子が、セクシーな格好して並んでるからに決まってるでしょ!言っとくけど、No.1はあたしであなたはNo.2だからね?」
こうゆうところは白石さんらしくて笑ってしまった。
教室に戻ると、パイレーツなそうちゃんの人気っぷりは更に増してて、群がる女子の数はさっきの倍にはなっていた...
「うわぁ…増えてる…」
思わずつぶやいてしまったわたしに
「恐ろしいくらいブスばっかりね!見てみなさいよ、あの奏太の引きつった顔!」
なんてわたしの耳元で言うと、白石さんは行ってしまった。
結局午前中の売り上げトップは、パイレーツのそうちゃんで、執事とメイドのわたしと加奈は僅差で2位だった。
午後からは、わたしたちはライブの方に行ってしまうから、白石さんに頑張ってもらわないと!
「ふぅ、やっとここから逃れられる…」
女子達にもみくちゃにされ続けたそうちゃんは、ヨレヨレになっていた。
「随分とモテモテでしたね!」
ちょっと口を尖らせて、プイっとしてやった。
「あれ?なに?来蘭ヤキモチ妬いてるの?」
嬉しそうにそうちゃんが言う。
「妬いてないっ!」
あんまりにもそうちゃんが嬉しそうに言うから、余計に悔しくなった。
「はい、ほら、おいで」
両手を広げてわたしを待つそうちゃんに、抱きつきたいのに、なんか素直になれない…
「は、や、く」
そうちゃんが急かす…
あぁもぅ無理っ!
意地を張るのも、たった数秒しかもたないよ…
そうちゃんの胸にぽすっと収まるわたしを
「よく出来ました♡」
って言いながら、ぎゅっとするそうちゃん…
ぎゅっとされてたかと思ったら、ふわっと身体が宙に浮いて、窓際に寄せて並べてあった机の上にトンと座らされ、そこにあったカーテンで2人の身体を隠した。
「ヤキモチ妬く来蘭、すげーかわいい…」
恥ずかしくて下向くわたしに
「来蘭…こっち見て…」
ゆっくり顔を上げると、そうちゃんの顔が近づいて来て重なる唇…
kissひとつで、トゲトゲした気持ちが溶けて行く…
「ご機嫌ななめは直りましたか?」
なんて意地悪に聞くそうちゃんに
「もう1回してくれたら直るかも…」
って言ったら、そうちゃんはニヤリと雄の顔して
「煽るの好きだなぁ…」
って呟きながら、さっきよりもちょっと強引に唇を奪われた…
「この後のライブの栄養補給になったね、そうちゃん♡…ってあれ?このカーテン…透け透け…」
そうちゃんがカーテンをめくると、そこには、大人しそうな女の子や、男の子たちが沢山スマホを向けてる…
「映画みたいでした…」
「その薄いカーテン越しのシルエットが素敵でした…」
「尊い…」
キャーとかギャーとか声も出さず、ただうっとりとした顔をして、口々にそんなことを言う彼女や彼ら…な、泣いてる子も居るっ?!
「わたしたち〈奏太来蘭カップル〉推しなんで…」
「『お2人の』ファンなんです」
メガネをかけた、ちょっと地味目な子がスマホの画面をわたしとそうちゃんに向けて見せてきた。
「〈奏太来蘭カップル〉のアカウントのフォロワー数は、今や1万人に迫る勢いなんです!あ、今の動画アップした途端にフォロワー数がすごい増えて行ってる!」
そうちゃんの2人で顔を見合わす…
「すごいな!!あ、待って、それにこの後のライブの宣伝出来る?」
「もちろんです!!」
「この後2時からライブするから宣伝しておいて!」
そうちゃんはそう言うと
「さぁ、ライブ行くぞ!!」
わたしの手を取った。
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