〈来蘭side〉
ざわつく心を抱えたまま、家に帰った。
案の定、加奈は心配して起きて待っていてくれた。時計の針は12時を回っていた。
様子がおかしいわたしに加奈はすぐに気がついた。
「どうしたの?なんかあった?」
「...あった...」
加奈はハチミツを入れたホットミルクを2つ、お揃いのマグカップに入れて、持ってきてくれた。
「それで? なにがあったの?話してごらん?」
優しく聞く加奈に、わたしは今日出会った蓮のことを話し始めた。
ひと通り話し終わると、加奈は深いため息をついた。
「そんな人に出会ってしまったのか...」
ラグの上にペタんと座っていたわたしを、ソファに座っていた加奈が、ソファとわたしの間に降りて来て、後ろから抱きしめられた。
「分からなくはないよ...同じ痛みを抱えている者同士、その痛みを分かち合えるような気になるその気持ちはね...
それを恋愛感情なのかと思ってしまい易いけど、多分それは違うと思う」
「違うの?」
「それを恋愛感情だと思い込んで始まった関係は、お互いの傷を舐め合うばかりになる」
「......」
「狭い世界で2人で抱き合って、お互いばかりを見つめあっているのと、広い世界の先に2人が見えてる物、目指すべき場所は同じで、手を取り合ってそこに一緒に歩んで行くのと、どっちがいい?」
その加奈の言葉にハッとする...
「それ、そうちゃんが言ってたやつだ...」
「青木が?」
「抱きしめて、見つめ合って愛の言葉を囁き合ってるだけじゃ未来は見えない、お互いに見えてる物が同じならば、一緒に歩いて行ける。そう言われたことがある」
「さすが青木だな...
そんな言葉をくれた青木を裏切りたくないって思って、その人のkissを拒んだんでしょ?もうそれが答えじゃない?」
あぁそうかと、ぐちゃぐちゃだった感情が、たちまち整ってゆく...
だけど蓮を、やっぱり蓮を救いたい...
「わたしは、そうちゃんや加奈に救い出してもらったけど、彼はまだ暗闇の中に居る...救い出してあげたいと思う...
今度の土曜日のライブを見に来てって言ったんだ。気が向いたらね、とか言われたから来るか分からないけど、わたしは歌で彼を救いたい!」
「来蘭なら出来る、いや、それは来蘭にしか出来ないことだよ。彼のみならず、来蘭は歌でこれから沢山の人を救って行く使命を担っているのだから...」
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