〈紫音side〉
「お前またギターばっかり弾いてて、右手のリハビリいい加減にやって!」
「やってるもん!このリハビリのメニューなら、もうちゃんとやったよ?」
「やったよ? じゃねーんだよ、このやろ」
と言いながらヘッドロックすると、来蘭はキャーキャー言って暴れた。
「まったくもう、紫音先生と来蘭ちゃんは兄弟みたいに仲良しねぇ」
ベテラン理学療法士の中野さんが冷やかす
「冗談じゃねぇ!こんな生意気なの妹になんか欲しくねぇ!」
「あー!そうゆうこと言うんだ?わたしだって紫音先生がお兄ちゃんなんてやだよーだ!」
「なんだとー!」
再びヘッドロック!
最近毎日こんな風に来蘭とじゃれあってる。
まぁ確かに...毎日楽しい...
アイツと一緒に居ればずっと笑ってるし、一緒に居ない時も、思い出し笑いしてる始末だ...
来蘭は15、俺は28だぞ?
ひと回り以上違うんだよな...
そんな感じがしないのは、来蘭がどこか大人びてるからだろうか...
今日も午後イチからアイツの世話か...
食堂の定食に付いてた桃ゼリーを、ポケットに入れて席を立った。
リハビリルームに戻り、午後の準備の作業をしようとすると、窓際の机で左手の文字書きトレーニングをしながら眠ってしまってる来蘭の姿が目に入った。
「ったくもう...お前は...頑張りすぎなんだよ...」
顔にかかったふわふわの髪をかき上げると、そこには、滲んだ文字と濡れた頬...
俺が最初に泣くな!って言ったから、泣けなくなっちゃったんだな、ごめんな...
眠る彼女の濡れた目元を、そっと拭った。
「そうちゃん...」
来蘭が呟く
「そうちゃん...か...」
ふふっと笑って、ポケットから桃ゼリーを出して来蘭のほっぺにピトっと付けた。
「ひゃっ!冷たっ!
あ!わたしの好きな桃ゼリー!」
「やる」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!