翌朝、改札口でわたしのイニシャル〈R〉のキーホルダーとバースデーのストラップを鞄に付けたそうちゃんが待ってた。もちろんわたしの鞄には、そうちゃんの〈S〉のキーホルダーとバースデーストラップが揺れている。
お互いの彼氏彼女です。って証みたいで嬉しいのはわたしだけじゃないよね?
「おはよ、そうちゃん!昨日は絆創膏ありがと。」
「おはよ、来蘭!足大丈夫?お風呂でしみなかった?」
「...しみた...」
「しみたかぁ...」
かわいそうに...って顔して、よしよしされた...
昨日はお互い私服だったから、制服でのそうちゃんに、なんだかドキッとする...
私服のそうちゃんもかっこよかったけど、やっぱり制服のそうちゃんもかっこいいなぁって見上げる...
「どした?」
ってわたしを見下ろして、その大きな手で髪を撫でるのは、そうちゃんのクセみたい...
今日数学あるね、やだね、とか
球技大会がそろそろあるね、とか
話しながら歩いていると、後ろを歩く子たちの声が聞こえてきた。
「あのスヌーピーのイニシャルキーホルダーかわいいー!」
「あれ2組の赤井来蘭ちゃんだよー!うちのクラスの男子に大人気の!」
「あ、ほんとだ!ゆるふわでかわいいよねー」
「え?ってことはあのキーホルダー、彼氏が来蘭ちゃんのを、来蘭ちゃんが彼氏のをつけてるってこと?」
「キャー!」
いや...あのぅ...全部丸聞こえなんですけど...
嬉しいんだけど、めちゃくちゃ恥ずかしい...
これ、そうちゃん嫌じゃないかな...
「そうちゃん...ごめんね...恥ずかしいよね...」
「なにが?別に恥ずかしくないよ?」
って笑ってる。
「こうゆうことで冷やかされるの、男の子って1番嫌なんじゃないの?」
中学の頃、似たようなことがあったことを思い出す...
席が隣だったから、ちょっと仲良しの男の子が居た。ある日、なんとなく一緒に帰っていたら、冷やかされるようなことがあって、次の日から全然口を利いてくれなくなった...
「来蘭?」
そうちゃんがわたしの顔を見て、察した顔をする
「こうゆう冷やかしを嫌がったりするのはガキがすることだよ、俺は全然嫌じゃないよ。ってゆーかさっきの会話聞いてた?
男子に人気の来蘭ちゃんだー!
って言ってたろ?
そろそろ自覚して?来蘭を狙ってる男がいっぱいいるの!しかも女の子たちにも人気じゃんよ来蘭。
来蘭ちゃんの彼氏だー!って言われるのは、むしろ光栄なんですけど?」
そう言って、後ろの子たちに見せつけるようにわたしの腰を抱き寄せた...
後ろからキャーという悲鳴が聞こえると、そうちゃんはしてやったり顔をした。
「来蘭ー、今日のHR、球技大会のこと決めるんだったよな?」
「うん...そう...」
「ん?どした?」
「わたし運動全然ダメだから...すごい憂鬱...」
って沈んでたら、そうちゃんが笑う。
「よし、練習しよ!俺と陽介で教えてやるから心配しなくていいよ」
そうだった!
そうちゃんと陽介くんは、元バレー部だった!しかもキャプテンと副キャプテン!
うちの学校は、元女子校だからなのかグラウンドがないのだ。体育館は校舎内と校舎外にひとつづつと、人工芝のテニスコートがあるだけなので、体育祭というイベントがないかわりに、球技大会が毎年行われる。
バレーボールとバスケットボールとドッチボールのチームをクラスの男女別に1チームづつ作り、1年から3年まで分け隔てなく対戦して行く。3年に1年は歯が立たないと思いきや、結構番狂わせが起こって、なかなか盛り上がる一大イベントなのだ。
ん?そうちゃんと陽介くんが教えてやるってことは...わたし、バレーボールチームに入れってこと?
確かにバスケットボールやドッチボールよりかはましだけど...
HRが始まり、わたしとそうちゃんは前に出て、チーム分けの進行をした。
運動が苦手な部類の人たちは、ドッチボールチームを希望する傾向があり、バレー、バスケを希望する人が足りなくて困ったけど、そこはそうちゃんのさすがの采配で、キレイに男女共にチーム分けが出来た。
長谷川先生の出番など全くなく、居眠りしてるくらいだった...
昼休みとなり、わたしとそうちゃんは屋上で一緒にお弁当を食べていた。
こないだ買ったスヌーピーのお弁当箱に、そうちゃんの好きなおかずを沢山詰め込んできた。やっぱりそうちゃんは玉子焼が大好きで、そればっかり食べてる。いっぱい入れてきて良かった。
食べ終わると、わたしの膝枕で寝るのが〈至福のとき〉なんだとか言って、膝枕をねだるそうちゃん。わたしの膝に頭を乗せると、本当に幸せそうな顔をするんだ...
目を閉じてるから寝てるのかと思ったら、そうちゃんが話し出した
「俺ん家さ、母親が看護師だって言ったろ?」
「うん、こないだ言ってたね」
「今も看護師やってるらしいんだけどさ...
あぁ、うちの両親、離婚してんだよ、俺が5才の時にね。
だからさ、遠足とか運動会とかはもちろん、こうゆうなんでもない日も、手作りのお弁当とかって食べた記憶がないんだよ...
それがさ、来蘭と出会って付き合うようになって、毎日大好きな来蘭のお弁当食べれるのがね、来蘭が思ってる以上に幸せなんだよ俺...ありがとな...」
わたしの頬には、知らないうちに涙が溢れていて、わたしの膝枕で寝ているそうちゃんの頬にぽたりと落ちた。
目を瞑っていたそうちゃんが、目を開けてわたしを見る
「泣くなよ来蘭」
って笑うそうちゃん
「だって...わたしなんかより、そうちゃんのがよっぽど寂しい思いしてきたんじゃないかと思ったら...
わたしたち、もっと早く出会いたかったね...」
そうちゃんは起き上がると、わたしを抱き寄せた。
「こうして出会えたんだからいいさ」
そう言って、そうちゃんのブレザーの中に隠されて、そっとkissされた...
「今度うちにおいで来蘭」
「え?行ってもいいの?」
「当たり前だろ?オヤジにも紹介したいし!」
「お、お父さんに?」
「サーフショップやってんだよ、うちのオヤジ。まぁそんな好きなことやってるオヤジだから母親は愛想つかしたんだろうけどね」
「お父さんと2人暮らしってこと?」
「うん、今はオヤジと2人。
アニキが居るんだけどね、5つ上のアニキが。一応大学生なんだけど、今はバックパッカーっつぅの?一人で世界中放浪してるよ」
って笑った。
「こうゆうこと話すの初めてだね...」
そうちゃんが、家族のことを話してくれたのは、すごく嬉しかった。
なんとなく、わたしのこともそうちゃんに知って欲しくて私の家族のことを少し話した。
「わたしは一人っ子なんだ...」
「そうだろうなと思ってた」
いつのまにかそうちゃんの脚の間にわたしはすっぽりと収められてて、後ろから抱きしめながらそうちゃんは笑った。
「えっ?一人っ子だと思ってた?なんで?自分勝手とかワガママとかだったりする?わたし?
一人っ子のイメージってだいたいそう言われるから嫌なんだ...」
「自分勝手とかワガママだなんて思ったことはないよ?
ただこう、芯が強いのは来蘭から感じる。
今一人っ子って聞いて腑に落ちた。
多分生まれた時から一人だから、一人で切り開いてくるしかなかったんだろうなって思ったら、もっと来蘭のことが愛しくなった...」
って耳にkissするそうちゃん...
「んんっ...」
声が出てしまったわたしをそうちゃんがブレザーで隠す...
「そんな声出しちゃダメでしょ」
とわたしを叱る...
「だってそうちゃんが...」
いつもとちがう口調にゾクッとする...
「ここ学校だよ?悪い子だなぁ...」
さらに叱るそうちゃんに、身体が熱くなる。
なにこれ...わたしどうしちゃったの?
「来蘭、うなじがピンク色に染まってる...すごい甘い匂いがする...」
そう言ってそうちゃんは私のうなじに唇を添わせた...
吐息と共に声が漏れる...
わたしはたまらずに振り返り、唇を求めた...
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