〈来蘭side〉
タピオカ屋さんでみんなと別れて、わたしは改札口へと1人で歩いていた。他のみんなはバス組、それぞれの家路に向かうバス乗り場に散って行った。
「今日はパパ仕事で泊まりって言ってたな...」
なんとなく重い足取りで歩くわたしの肩を叩く背の高いシルエット
「来蘭...」
振り返ると、そこに居たのは加奈ちゃんだった。
「加奈ちゃん!帰ったんじゃないの?」
「バス乗り場から来蘭の後ろ姿見てたら、なんだか1人で帰らせちゃいけない気がしてさ...」
その言葉にひとすじの涙がわたしの頬を伝って落ちた...
加奈ちゃんに手を引かれて、人のまばらな北口の公園に来た。
黙り込むわたしに加奈ちゃんが口を開く
「来蘭はさ、あたしと似た匂いがするんだよね...」
「えっ?」
わたしは咄嗟に自分の匂いをくんくんすると
「その匂いじゃないって!」
と言って加奈ちゃんは笑った。
「ほんと来蘭は天然だよね...かわいい...」
わたしの頭をぽんぽんする加奈ちゃん...
「青木の前でもこうゆう天然なことやらかしてるんだろうね、来蘭は...」
そう言って、寂しそうな顔をした...
「同じ匂いってのはね、なにか人に言えないようなことがあって、寂しそうな瞳をしてるとこが、ちょっとあたしに似てるなぁ...ってことよ。
なにか帰りたくないわけがあるんでしょ?」
確かに加奈ちゃんには、〈同じ匂い〉がした...加奈ちゃんには話してもいい気がして、誰にも話したことのないことを、わたしは話し始めた...
「今日はね、パパが仕事で泊まりの日なの...そうゆう日はあんまり家に帰りたくないんだ...」
「どうして?」
優しく聞く加奈ちゃん
「ママが暴れちゃうんだよ...」
「やっぱり...」
そう言うと、加奈ちゃんはわたしのブラウスをスっと託し上げた。腹部にあるいくつもの痣があらわになった...
「やっ...」
びっくりしたわたしは、加奈ちゃんの手を払いのけてブラウスを直した...
「見えないところにやるなんて最低だな...」
怒りを滲ませた瞳をして彼女が言った。
「パパ、外に大事な女の人が居るみたいなんだ...ママはずっと見て見ないふりしてるけど、パパが居ない日は寂しさとか怒りとか、どうにもならなくなっちゃうんだ...」
「そんなの来蘭をこんな風に傷付けていい理由になんかならないだろ!!」
そう言って加奈ちゃんはわたしを強く抱きしめた...痛いくらいに強く強く...
でもその強さがなんだかとてもせつなくて、後から後から涙が溢れて止まらなかった。
「ちょっとは落ち着いた?」
わたしは加奈ちゃんに抱きしめられながら、ずっと背中をぽんぽんされてた...
「加奈ちゃん...」
「ん?なに?」
あまりにも優しい声に、また涙が出てくる。
「ねえ来蘭、加奈ちゃんじゃなくて、加奈って呼んでよ...」
懇願するような彼女の声に、深い孤独が伝わってきて、思わずわたしは彼女の背中に腕を回してぎゅうっと抱きしめていた...
そして、彼女の名を呼んだ
「加奈...」
「ねぇ来蘭、うちに行こう?」
「え?」
「あたし1人で暮らしてるから、気兼ねする必要ないから大丈夫だよ。
少なくとも今夜は来蘭を帰すわけにはいかないから...
おいで、来蘭」
1人で暮らしてる...
そう聞いた時点で、わたしも加奈を1人で帰らせたくはないと思った。
「行く...加奈んとこに行く...」
その時の加奈の嬉しそうな顔は、きっとわたしは忘れないだろうなと思った...
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