〈来蘭side〉
重い防音扉を開けて、軽音楽部の活動場所である第2音楽室に3人で足を踏み入れた。
「なんで陽介も一緒に来てんだよ」
「いいじゃないかよ!」
と男子2人が小声で小競り合いをしている...
「おい1年ーうるさいぞー」
一際怖そうな先輩の1人がダルそうに言うと、他の先輩たちがケラケラと笑った。
「なにー?3人は入部希望なわけー?」
机に座ってギターを爪弾いていためちゃくちゃイケメンの先輩が聞いてきた。
「はい!入部したいんです。」
震える足を抑えながら、懸命に返事をした。
「ちょっとー震えてるじゃーん、かわいー」
と、もう1人の更にイケメンだけどチャラそうな先輩が肩に腕を回してきて、ビクっとしたところを
「やめろよ!」
と、そうちゃんが先輩の腕を掴んでどかせさせ、わたしを引き寄せた。
「随分と血気盛んな1年だなぁー」
と笑ってる。
すると、1番奥でベースをさわっていた独特な雰囲気の先輩が、ベースを置き、こちらへやってきて口を開いた。
「俺ら全員、っつっても4人だけど、3年。メジャーデビュー目指したバンドやってる。部活動って体にしとけばここをスタジオ代わりに使えるから〈軽音楽部〉ってことにして、俺たちが1年の時に部を立ち上げたんだ。4人揃ってガラ悪そうだからか、今2年のやつらは誰も入部希望はいなかったから、2年の部員は居ない。このドラムセットと、ベースアンプ、ギターアンプ、ボーカルモニターアンプ、キーボードは、部費で買った物だから、俺たちが使ってない時は使っても構わないよ。ギターやベースは各自で買うなり借りるなりして調達してくれ。あのベースも、あいつのギターも私物だから。ここのロッカーに置いてある時もあるけど、触るなよ?一応部活動だから、教えて欲しいことがあれば教えるけど、ライブが近づいてたり、曲作りしてたりってタイミングでは悪いけど教えてあげる暇はないからそのつもりで。
そんな感じだけどいい?なんか質問あれば聞いて?」
「ええと、今色々説明してくださったのが、部長さんですか?」
と、陽介くんが聞いてくれた。
「ああ、俺が部長でベースの廣瀬、そしてこいつがボーカルの吉井で、ギターとドラムは菊池、双子の兄弟だ。お前たち3人の自己紹介も頼むよ」
と言われ、わたしたちは順番に自己紹介をし始めた。
陽介くんがまず自己紹介を始めた。
「ええと、1年1組の黄之瀬 陽介です。2つ上のアニキがギターやってるんで、家にはギターがいつもあるんで簡単なコードくらいは弾ける程度には弾けます」
「えっ?そうなの?陽介くん?」
驚いて言葉を発してしまって、あっと口を塞ぐ。
すると押し黙ってたそうちゃんが口を開いた。
「1年2組、青木 奏太です。正直楽器の経験は全くありません!中学時代は、バレーボールだけに明け暮れました。だから身体には自身あります。やれる楽器は今の時点ではありませんが、やってみたいなと興味が湧いたのはドラムです!」
先輩たちは、とても真剣に聞いてくれている。
わたしも自己紹介しなきゃ
ボーカルのチャラい吉井先輩が、わたしの前にしゃがんで手を握って言った
「ねぇ、キミの自己紹介は?」
横でそうちゃんがギリギリしてるのを陽介くんが抑えてる...
わたしはひとつ深呼吸をして、自己紹介をはじめた。
「1年2組、赤井 来蘭です。楽器歴は、3歳から中学に入る頃までピアノを習っていたので、鍵盤楽器が弾けます。中学では吹奏楽部でサックスを吹いていましたが、少し病気をしてしまって入院した時に退部する形になってしまって中途半端になってしまいました。高校では軽音楽部に入るって決めてました!わたしベースが弾きたいんです!バンドを司るベースが弾いてみたいんです!」
ずっと手を握っていた吉井先輩がすくっと立ち上がると
「凄いじゃん来蘭ちゃん!鍵盤も弾けるしサックスも吹けるし、ベースも弾けるの?」
「あ、いや、ベースはこれからやりたいんです。まだ弾けません...」
部長の廣瀬先輩がちょっと嬉しそうに
「そうかーベースやりたいのかー、お前分かってんなーかわいいなー」
と言って、吉井先輩を押し退けてわたしの頭をくしゃくしゃっとした。
そうちゃんが隣でまた怒ってる...
「ギター志望と、ドラム志望と、ベース志望で、3ピースバンド組めるじゃん!」
とギターの菊池先輩が言う
「3ピースバンド?」
陽介くんが聞いた
「そう!ギター、ベース、ドラムの3人で、ボーカルはギターかベースが弾きながらやるんだよ!ドラムが歌うのだってありだよ?」
ギターの菊池先輩が教えてくれた。
「まぁ、紅一点の来蘭ちゃんが歌うのが華があって良さそうだけど...ギター志望の...陽介くん?が歌うのもありだしねー」
と、ドラムの方の菊池先輩が言った。
「ねぇ、来蘭ちゃんにちょっと歌わせてみたら?」
ニヤリとして吉井先輩がわたしの手を引っ張った。
その手から逃れるように腰を落として
「いやいやいやいや、わたしが歌うなんてムリです!ムリムリムリ!」
「なんで?音痴なの?」
と首を傾げる吉井先輩
「いや、カラオケレベルでなら歌えますけど、歌うなんて目立つポジションには、吉井先輩のようにルックスの良い人がやるべきであって、わたしみたいなのが歌ったら、お目汚しのお耳汚しですから!!」
思いがけず声を張ってしまっていた...
「そんだけ声出るなら歌えそうじゃん?」
あっけらかんと言う
「それよりその過度な劣等感?のが重症だね」
と、首を横に倒した。
するとそうちゃんが
「来蘭は中学ん時、ひどいいじめに合ってるんですよ。だから自分に自信がないんだと思います。俺はそんな来蘭を変えてやりたいと思って、やりたいことを聞いたら〈バンド〉だ!と言うから、ここに見学に来ました。」
先輩たちがそうちゃんの言葉に、静かに耳を傾けていた。
「よし!来蘭ちゃんになんか歌わせてみよーよ」
吉井先輩が言う
「楽器隊準備してー」
廣瀬先輩と菊池先輩たちが、セッティングし出した
「で?なに歌える?カラオケで歌う曲とかでいいよ?この人たち、知ってる曲ならだいたい演奏出来るから」
と笑う吉井先輩
困惑してそうちゃんと陽介くんを見ると、2人がやってみなとばかりに頷いた。
「カラオケ...歌える曲...あ、じゃあ...YURIのストロベリーをお願いします...」
「あー!知ってる知ってる!」
と、演奏陣3人が頷く
ドラムがカウントを入れてイントロが始まる
生演奏の音の圧に、おなかの底がぞわぞわするような感覚を覚える。
緊張とワクワク感とで、浮いてるような感覚に陥りながら、マイクを構えて歌いはじめた。
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