〈優輝side〉
「じゃあまた来週ね、来蘭ちゃん」
そう言って僕は、何事もないフリをして電車を降りた。
背中で、ドアの閉まる音がする。
走り出した電車...
電車が完全に走り去っても、僕はそこから動けなかった。
なんだあれ...
なんなんだ...
僕の腕の中に収まった彼女から、ほんのり香る甘い匂いとか、時々僕を見上げる彼女の瞳とか、僕のブレザーをつかむ仕草とか...
そのままホームのベンチに腰を落とした。
とてもこのまま帰る気にはならなかった。
頭の中では、アイツの
「俺の来蘭」
と言う声がリフレインしてた...
「お前のものじゃない!」
なんて、僕もよく言ったもんだよな。
ベンチに座ったまま、天を仰いで少しだけ笑った...
ねぇ神様...来蘭ちゃんが僕のものにはならないとしても
「僕の歌姫」になってくれないかと願うくらいは許してくれないか...
彼女の笑顔を曇らすようなことはしないと約束するから...
どのくらいホームのベンチに居ただろうか...
何本もの電車が、このホームに入って来ては大勢の人々を降ろしては行き過ぎてった...
僕はただそれをベンチに座って見ていた。
フッと、昼休みに見えた彼女の〈水色のパンツ〉を思い出して、ちょっと笑ったら、手のひらで、スマホが震えた。
彼女からのメッセージだった...
「最後の曲の歌詞を書いてみてもいいかな?」
とあった...
それは昨日浮かんだばかりのメロディーだった...作ろうとして作ったメロディーではなく、フッと降りてきたメロディーだった。
とにかく忘れないように録っておかねばと、あわてて録ったやつだ。
僕はすぐに
「もちろんだよ!」
と返事を送った。
よりによってあの曲かよ...
彼女に出会うために降りてきた曲のような、そんな曲の歌詞を彼女は書いてみたいと言った。
メロディーラインのみのあの曲は、まだなにも他の音は足していない...
あの曲を彼らと一緒に作ってみたらどんな曲に仕上がるだろうか...
彼女があの曲を歌ってくれたなら、きっとすごくいい曲になるだろう、そこだけは確信がある。
文化祭を目標にやってみるか!
僕はやっとベンチから腰を上げた。
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