〈奏太side〉
3曲一気に歌いきった来蘭は、肌をピンク色に染め、汗を滴らせながら、ドラムセット脇にあらかじめ蓋を開けてスタッフが置いておいてくれたミネラルウォーターを照明の落ちた暗闇の中で飲んでいた…汗が光る喉元が、水を飲み込む度に動く様がたまらなくエロティックで目が離せなかった…
スタッフが持ってきたギターを抱えると、来蘭はまたマイクスタンドの前へと向かった。
照明が来蘭だけを照らし出すと、来蘭は静かに語り始めた…
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初めまして『Re Light』です。
わたしたちにとって、今日は2回目のライブになります。
初めてのライブでは、わたしはベースを弾きながら歌ってました。
しかしその初ライブで、ある事故が起こり、わたしは右手に大きな傷を負いました。その怪我によってこの膝から下は動かなくなりました。初ライブを最後に、わたしはベースを弾けなくなりました。
正直、突然右手を失ってしまって自暴自棄になりかけました…
でもわたしには、ずっと側で支えてくれた人、信じて待っていてくれた人、わたしの意志を継いで内緒でベースを猛練習してくれた人が居ました。
この『Re Light』(リライト)というバンド名は、右手を無くしても、再び希望の光は灯る。
という意味を込めて付けました。
次に歌うのは、わたしの心の炎をまた灯らせてくれた仲間への思いを込めて書いた曲です。
ベースは弾けなくなったけど、この動かなくなってしまった右手の親指を使って、ギターを猛特訓しました。上手には弾けませんが、聞いてください。
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ドラムセットに座ったまま、来蘭の背中だけを見ていた。
来蘭が歌う前からもう俺は泣きそうだった。
不器用ながらも、優しいギターが鳴り始める…
さっきまでのバンドサウンドに負けないくらいの力強い歌声と、同一人物が歌っているのかと疑いたくなるような来蘭の透き通るような歌声が、優しく耳を撫でた…
来蘭の歌声に、優輝も陽介も加奈も、そしてフロアで聞いている人がみな涙を流していた…
来蘭の歌声は、誰もがみな持っていて、懸命に隠そうと奥の方にしまっている『弱さ』とか『悲しみ』とかの部分にスっと降りて来る…
ワンコーラスを歌い終え、ツーコーラス目に入ろうとしたところで、俺はたまらずにそっとリズムを叩き始めた…
すると優輝もピアノを弾き始め、加奈はベースを、陽介もギターを、まるで来蘭をみんなで包み込むように鳴らし始めた。
驚いた来蘭が、振り返る。
「歌え!来蘭!」
くしゃくしゃの顔して泣き出した来蘭は、必死でギターを弾いて歌い出した。
最後のワンフレーズは、来蘭の右手が鳴らすギターと歌声だけが静かに響いた…
深々と頭を下げて一礼する来蘭に、いつまでも拍手は鳴り止まなかった。
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