〈来蘭side〉
混乱するしかなかった。
そうちゃんの靴箱から落ちたラブレターに、わたしは動揺した。
そうちゃんを想う人が居るということを見せつけられて動揺する自分にも動揺した。
だからそうちゃんの目を見ることが出来なかった。するとそうちゃんは、わたしの手を引きここに連れてきた。
そして話し出したそうちゃんの口から出てきたのは、こんな手紙をもらうのは一度や二度ではないという〈モテる〉発言。
それに対して初めて覚える嫉妬の感情...
多分あの時わたし、すごいそうちゃんのこと睨んだ...
その先の話しなんか、あの時本当は聞きたくなんかなかった...
でも、聞いてくれとそうちゃんが言うからだまって聞いた...
〈誰に告白されようと、手紙をもらおうと心が動いたこともなく、付き合ったこともなければ、好きになったこともない〉
...どんだけ難攻不落なのよ!そうちゃんは!!
って言おうとしたら...
〈俺の心を動かせるのは来蘭だけだ〉
この時点で頭がついていけてなかった。
そして、そうちゃんの口から出てきたのは
「好きだ」
という言葉だった。
短い時間にこれだけ感情をごちゃまぜにされたら混乱してしまうよ...
「なんとか言ってよ来蘭...」
ちょっと不安そうにそうちゃんが言う
「俺、生まれて初めて告白したんだからね?」
と、少しだけ笑った。
「混乱しててなんて言ったらいいのか...」
わたしの言葉を待つそうちゃんに、そう言うしかなかった。
「そうか、そうだよな、俺も〈好きだ〉とかまでまだ言うつもりはなかったんだけどな...」
と言うと、そうちゃんは頭を抱えた。
「俺、今まで告白してきてくれた女の子たちの気持ちが、初めて分かったかもしれない...」
ため息をひとつついて、そうちゃんは続けた
「だいたい告白される時って、相手の顔も名前も分からないような子にいきなりされることが多くてさ、そんな急に好きだと言われても困ってしまうばかりでさ、いつもその場でごめんなさいって断って来たんだ。だって、俺は君のこと何も知らないし、君も俺のこと何も知らないだろ?って...
手紙とかにもよく書かれていた〈一目惚れしました〉ってのも、ピンとこなかった。むしろ嫌悪感を覚えた。だって一目惚れっていうのは〈見た目〉だけで好きになったと言うことで、そこには俺の中身は関係ないということだろ?逆にそんな失礼なことはないだろ!って思ってた。そんな風に思ってた俺が、まさか一目惚れするなんてな...」
と、そうちゃんは自虐的に笑った。
「理屈じゃないんだな、好きになるってのは...初めて知ったわ...」
と言うと、頭をカクンと落とした。
「一目惚れしたんだよ入学式に...もう目が離せなかった初めから...来蘭と話しをすればするほど好きになって行ったよ...だからこそ、これからもっと来蘭を知って、来蘭にも俺を知ってもらってから告白するつもりだった...そのつもりだったのに言っちゃったな、俺...」
「来蘭さっき机の中に紙が入っていただろ?来蘭が咄嗟に隠したの見えてたよ。白状すると、俺それ見て動揺したんだよ...どうした?って聞いても〈なんでもない〉って言ったろ?ラブレター的なやつなのか、嫌がらせ的なやつかわからなかったから、それ以上聞けなくてさ...そしたら俺の靴箱にも手紙入ってて、それ見て来蘭もあんな顔するからさ...」
「そうちゃんこれ見えてたの?...」
ブレザーのポケットから、机の中に入っていた紙切れを出した。
「見えてたよ...」
そうちゃんは少し寂しそうに笑った。
わたしはその紙切れを開いた。
〈明日の放課後に、旧館の図書館内の書庫に来てください。〉
と書いてあるのを、一度目を通すと、そうちゃんに渡した。
「わたしにもこれの意図が分からなくて...後でそうちゃんに相談しようと思って、ひとまずポケットに入れたの」
そうちゃんもそれに目を通すと、さっきそうちゃんの靴箱に入っていた手紙を取り出し、おもむろにそのかわいらしい封筒を破り、中の便箋を取り出して広げた。
書かれている文章を、そうちゃんの目が追っている。読み終わると、そうちゃんはその便箋をわたしに渡した。
そこには
〈明日の放課後、茶道室の裏に来てください。〉
と書いてあった。
「筆跡が同じだ!」
とそうちゃんが言った。
「同じ時間に、学校敷地内の端と端に俺と来蘭を別々に呼び出してる」
そうちゃんの声が怒りに震えてた...
「どうゆうこと?」
「アイツら...きっと来蘭がトイレで嫌な思いしたアイツらの仕業だ」
わたしは身体から血の気が引いていくのを感じた...
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