そうちゃんと、今日の控え室である第2音楽室に急いだ。
防音扉を開けると、もう先輩達が本番さながらの迫力でリハが行われてた。
優輝くん、陽介くん、加奈はもうすでに来ていた。
陽介くんのゾンビメイクも衣装も加奈が担っただけあって完璧だった。
衣装はお化け屋敷仕様と、ライブ仕様では違うらしく、陽介くんはライブに向けて着替えていた。ロックテイスト満載のTシャツをわざと更にビリビリにハサミでザクザク切ってる…
「あ、来蘭!やっと来た!メイク直しと衣装チェンジするから早くこっち来て!」
「え?衣装チェンジ?」
「その重ね着してるビスチェを赤に変えるの!」
締め上げていた黒いビスチェの紐を緩めて外し、赤のビスチェに変え、また同じように締め上げて行く…
いつの間にか居た吉井先輩が
「おい、そこに布団敷け!」
って言いながらわたしの手を引く…
「いや、バカ殿か!!」
絶妙な陽介くんのツッコミが入る
「はいはい、バカなことやってるんじゃないの!時間ないんだから来蘭を返して!」
今度は加奈に手を引かれる…
「はい、青木!彼氏のあんたにやらせてあげよう!」
そう言ってそうちゃんにハサミを渡した。
「これで来蘭の網タイツを、いい具合に切って!」
「いーなー!!それ俺やりたいー!!」
吉井先輩が騒いでる…
「ダメです!」
そうちゃんがピシャリと言い放つ。
嬉しそうにハサミを入れるそうちゃん
「ヤバい…すごい興奮する」
「そうゆうもんなんだ…」
「想像してみ?…強引に網タイツ引きちぎられながらされるのを…」
「……」
ハサミを持つ手を止めて、唐突にそうちゃんが顔を上げた。
「来蘭…すごい顔赤いよ?」
そうちゃんは、わたしの耳元に顔を近づけて来て
「今度してみようか?そうゆうプレイ…」
そう言ってニヤリとした…
「はい、もうそのくらいでいいわよ!メイク直しするからこっち来て!」
加奈に連れて行かれ、メイクを施される…
派手なアイメイクに、真っ赤な口紅をされていくうちに、わたしは『Re Light』の来蘭へとスイッチが入り始める。
メイド服をベースに、赤いビスチェに破けた網タイツ、南京錠の付いたレザーのチョーカーに、お気に入りのマーチンのブーツを履いて、真っ赤な口紅を塗る…
『Re Light』の来蘭が完成した。
防音扉が開き、コロラドミュージックのスタッフが入って来た。
その中に見覚えのある顔…
「あ、君さっきの!」
それはつい先程、体育館へ行く階段を聞いてきた男性だった。
「瀬名さん、もうナンパしてたんすか?」
スタッフの1人が茶化す
「ナンパなんかしてないって!さっき体育館の行き方教えてもらっただけだよね?」
わたしはコクんと頷いた。
「もしかして、君が〈Re Light〉の来蘭ちゃん?」
「はい…」
「君が…」
彼はわたしの右手を取り、動かない手をじっと見つめた。
「瀬名さん、来蘭ちゃんの歌声にやられちゃって大変だったんですよ。この文化祭ライブの生配信の企画も、どうしてもやる!って言って、渋るお偉いさん達を説き伏せてまで企画通したんですから…あなたが来蘭ちゃんなんですね…」
もう1人の彼までも、感慨深げにわたしを見つめた…
「そうなんだよ来蘭ちゃん。
この瀬名さんの力によるものなんだよ、今日の生配信ライブは」
優輝くんが瀬名さんの横に立ち、よろしくお願いしますと一礼をした。
「最初はね、大森さんが売り込んできた彼ら〈Jaguar〉(ジャガー)に興味を持ってね、高校生バンドとは思えない程の実力があったし、ライブの場数も踏んでるから、即デビューさせられそうだなと思って、どう売り出して行こうかと思っていたら、大森さんが、こんなのも居るよって君たち〈Re Light〉のデモ音源を渡されてね、もうなんだかおじさんのハート鷲掴みされちゃったんだよ」
「おじさんって…まだおじさんっていう程じゃないじゃないですか」
ちょっとだけお世辞混じりではあったが、実際まだそんな年ではないでしょ?って思ったからそう言ったら
「え?ほんと?高校生から見たら、28歳なんておじさんなんじゃないの?嬉しいなぁー」
28か…紫音先生と同じ歳か…
今日、紫音先生来てくれるかな…
病院に手紙を送ったのと、そうちゃんのお母さん春子さん経由で、見に来てくれるように伝えてはもらったんだけど、なんの返事もないままだった…
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