一目惚れから始まった俺のアオハルは全部キミだった

キミと駆け抜けたアオハルDays
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初ライブ

初ライブ1

公開日時: 2021年5月31日(月) 01:28
文字数:2,726

〈来蘭side〉

ピアノの最後の1音が響いた...

明日のライブを前に、最後のリハが終わった。

最後のテイクは今までで1番手応えがあった。

演奏面においては、このバンドはやればやる程良くなって行った。

音がひとつの塊のようにうねるような、いわゆる『グルーブ感』が出てきてて、わたしは歌う度にトリップした...

「今夜はこのまま奏太ん家で洋楽のライブDVD朝まで見るんだ!来蘭ちゃんも一緒に見ようよ!」

優輝くんが嬉しそうにわたしを誘う。

「一緒に見たいのは山々なんだけど、今夜は加奈と一緒に過ごしたいの。明日のヘアメイクの打ち合わせもあるしね!」

そう言ってベースをケースに入れた。

「じゃあみんな、明日ね!」

バス停まで送るよと、そうちゃんがついてきた。

「明日、井澤も来るんだろ?」

「うん」

「あの曲、あいつの曲なんだろ?」

穏やかな顔をしてそうちゃんがわたしに言う

「やっぱり気がついていたか」

足元の小石を軽く蹴りながら、ふふっと笑った。

「本音を言えば、最初はちょっとジェラシー感じたけどね...

来蘭の加奈への気持ちは俺なりに理解してるつもり...井澤の来蘭への気持ちもな...

そうゆうの全部ひっくるめて俺は来蘭を愛してるから...」

そう言ってそうちゃんは、わたしの蹴った小石を大きく蹴り飛ばした。

そうちゃんが「愛してる」と言う言葉を使ったのは初めてだった...

一歩先を歩いて振り返らないで居るのは、きっと照れた顔を見せたくないから...

そんなそうちゃんの顔を見たかったけど、やめておいた...

「ありがとう...わたしも愛してるよ...」

一歩後ろを歩きながら、繋いだ手にぎゅっと力を込めた。


「ただいま」

「おかえり」

わたしと加奈の、心から安らぐ場所。

『ただいま』と『おかえり』が言い合える、それがどれだけ胸の奥を温めることかをわたし達は知っている...なぜなら本当の『孤独』を知っているから...

リビングには、明日私の衣装の候補が、足の踏み場もない程に散乱していた。

「うわぁ...いっぱい散らかしたねぇ加奈ぁ...」

「やっぱり来蘭に着せてみないと決まらないわ...ちょっと早くこっち来て!まずこれ着てみて」

ワンピース、スキニーブラックジーンズ、ビスチェ、網タイツ、ライダース...などなど、着せ替え人形のごとく、着たり脱がされたり...

「やっぱり来蘭は、ゴスロリのブラックレースのワンピースの重ね着が1番かわいい!もちろん網タイツも履くのよ?マーチンのブーツに、赤のライダース着よう!」

加奈のセンスを信頼して、わたしは一切口出しはしなかった。ただ...網タイツだけはちょっと恥ずかしかったけど...

衣装が決まったなら次はヘアメイクだ!と、メイクをされているうちに、ウトウトと寝てしまった...

「来蘭、完成したよ」

加奈の声で目を覚ますと、そこには別人のようなわたしが映っていた...

「これ、誰?...加奈、魔法でもかけたの?」

「これは紛れもなく来蘭だよ...来蘭はこんなに美しいんだよ。いい?だから明日は自信持ってステージに立つんだよ?」

「加奈、わたしあのバンドでてっぺん目指そうと思ってる!加奈も一緒に連れてくから!だからわたしの側でその魔法をかけていて!」

加奈は両手で顔を覆って泣きながら、何度も頷いた。そして、涙を拭いながら

「来蘭のためなら、いくらでも魔法かけてあげるよ、任せといて!あたしももっと魔法の腕磨くし!」

「加奈、これ明日のライブのチケット。

見に来て。誰よりも加奈に見て欲しいの。」

「分かった。来蘭の夢への第一歩、見届けにいくよ」


「おはようございます!今日からよろしくお願いします!」

初ライブだと浮き足立ってる暇はなかった。

出番までは、わたしはライブハウスのバイトの仕事をしなければならない。

機材のセッティングの手伝い、ドリンク出しの仕事、PAさんのアシスタント、やる仕事はいくらでもあった。

オーナーの大森さんが首を傾げてわたしを見た

「ん?来蘭ちゃん?こないだと別人みたいだからわからなかったよ、びっくりした!そうか、今日1曲だけ演るんだもんな!」

「はい!先輩たちと大森さんのご好意で、演奏する機会を与えて頂きありがとうございます!」

「うんうん。まぁ俺があいつらの話しを聞いてたら、興味が湧いてしまって聞いてみたくなっちゃったからなんだけどね。楽しみにしてる。

しかしあれだな、初ライブで初バイトだなんて大変だな」

「着替える暇ないんで、衣装のまま仕事します。すいません!」

「うちはライブハウスだから全然構わないよ!むしろ看板娘になりそうでありがたいよ!」

今日は高校生バンドのフェスイベントで、アルコールは出さないから、とりあえず今日はドリンク出しをしてくれと言われ、バーカウンターに入ることになった。

ドリンク準備が終わったので、機材セッティングの手伝いをしてると、出演バンドの人達が来始めた。

「え?スタッフにこんなかわいい子居たっけ?新人?」

みんなに声を掛けられる...

扉が開いて、入って来た集団の中に見覚えのある顔...拓海さんだ...咄嗟に顔を背けるわたしに、ニヤニヤしながら近づいて来る...

「あれぇ?もしかして来蘭ちゃん?」

上から下まで舐めるように見て

「なんか見違えちゃったじゃん!なるほどねー、来蘭ちゃんは磨けば光る原石だったわけか...ますます欲しくなっちゃったな...」

そう言ってわたしの手を握ろうとした所に

「俺の来蘭に気安く触んじゃねぇよ!」

「そうちゃん!」

「奏太登場かよ...ちぇっ...」

舌打ちをしながら、ライティングスタッフの所に行って、なにやら話をしている...わたしを指差して話をしているのが妙に気になったが、プンプンしてるそうちゃんに連れて行かれてしまった...

連れて行かれた先には、陽介くん優輝くん、そして先輩達4人の姿も揃っていた。

みんながわたしの姿を見て驚いてる

「ヤバいなこれ..,」

「これは危険だわ...」

「うちの姫のポテンシャル舐めないでくださいよ」

「来蘭!抱かせろ!」

口々に勝手なことを言ってますが...

最後のやつは...ご想像通り、吉井先輩の発言です...

今日の先輩たちの出番はトリ。

その後にわたしたちに演奏の時間が与えられる。

今日はそうちゃん優輝くん陽介くんの3人は、先輩たちのボーヤ、いわゆる付き人的なことをしながら勉強し、先輩たちの世話がない時間帯は、スタッフの手伝いをしてくれた。

いよいよ開場だ。

どんどん客が入ってくる。

ドリンク出しはてんてこ舞い、気が付いたそうちゃんたちが助けに来てくれた。4人の連携プレーで行列はすぐに落ち着いた。

「手伝ってくれてありがとう!助かったー!」

トップバッターのバンドの演奏が始まった。



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