一目惚れから始まった俺のアオハルは全部キミだった

キミと駆け抜けたアオハルDays
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デート(楽器屋)2

公開日時: 2021年5月31日(月) 00:07
文字数:1,877

〈来蘭side〉

Gibsonと書かれた重厚なハードケースを開けると、赤いボディのベースが姿を現した。

ストラップを調整すると、店長さんがわたしにそのベースを持たせてくれた。

重さも問題ないし、ボディ部分も、わたしの身体に馴染む感じがするし、もうそのファーストインプレッションからこれだ!って感じがした。

廣瀬先輩も店長さんも、うんうんと頷いてる。

「わたし、赤いベースにするって決めてたんだ!」

「赤井 来蘭の赤だから?」

と陽介くんが聞くので

「うん!」

と返事をしたら、そこに居たみんなが、どっと笑った。

「なんで笑うの?おかしい?」

「いや、いいと思うよ」

と店長が笑いながら言う。

失礼しちゃうわね、もぅ

心の中で呟く。

「そしたら俺は黄色のギターを探さなくちゃな!奏太は青いドラムセットを調達しないと!」

陽介くん、絶対馬鹿にしてる...

「そうちゃんも陽介くんも、今日買うの?!」

「そのつもり!!」

2人声を揃えて言った。

「わたし、このベースに決めた!」

「お買い上げ有難うございます。」

と店長さんはニッコリと笑った。

わたしたちは、そうちゃんと陽介くんのドラムとギターを探すべく林店長さんの店を後にした。

わたしのベースは、調整に少し時間がかかるというので、帰りに受け取りに寄ることにして預けることにした。

「陽介くんは、お兄さんがギター弾くから家にあるって言ってなかった?」

と聞くと

「アニキのギターはあくまでもアニキのギターだからねー、やっぱりやるからには自分のギター欲しいから買うことにしたんだ!」

「そっか、そうだよねー、やるからには自分だけの相棒が必要だよね!で?やっぱり黄色のギターにするの?」

って聞いたら、3人して横向いて吹き出してる...

「そうだね、良い黄色のギターが見つかるといいんだけどねー」

とか言ってるけど、絶対黄色いギターなんか買う気ないくせに...

「そうちゃんはドラムセット買うの?」

「おう!じゃないと練習できないからなー」

「ドラムセット置くとこあるの?」

「うち、デカいガレージがあるんだよ!そこに置くことオヤジに了解もらったから大丈夫!」

そうちゃんち凄いんだな...


「俺んちのガレージをさ、ゆくゆくは俺たちの練習場所にしようと思ってんだよ!」

「うわぁー、それってプライベートスタジオみたいでカッコイイね!なんだかすごいワクワクしてきたー!青春っぽい!」

そう言葉にしたら、なんだか嬉しくって目に涙が溜まってきた...

だって、あまりにもわたしが夢に見たような、いやそれ以上のことがこれから始まるようで...

そんなわたしに気がつくそうちゃん。

そっとわたしの顔を覗くと、たった今溢れて頬を伝った涙を、だまって親指で拭ってくれた...

そして言った

「約束したろ?来蘭の望みは全部叶えてやるって」

そんなこと言われたら更に涙が溢れて来て、そうちゃんは

「どうしたぁ?」

って笑いながらわたしを抱き寄せて、自分のTシャツの裾で拭いてくれた。

「汚れちゃうよぉ」

って小さく言ったら

「来蘭の涙なら全然いーよ」

そう言ってそうちゃんはわたしをぎゅっと抱きしめた。


陽介くんはGibsonのレスポールの黄色とも言えなくはないような、ゴールドのギターを、そうちゃんはPearlのメタリックブルーのスタンダードなドラムセットを購入した。

散々わたしを馬鹿にしたのに、黄色と青を意識した2人がちょっとかわいかった。

御茶ノ水は、大学病院がいくつもある街で、安くてボリュームのあるランチの店も沢山!

この街をよく知る林店長オススメの、ワンコインでハンバーグランチが食べれる店で、みんなでランチして、廣瀬先輩は古着屋に行くと言って下北沢方面へ向かって行った。

陽介くんは、お兄さんのライブが渋谷であるからと、ここで別れた。

少し混雑した電車に2人で乗り込んだ。

ハードケースに入った、これからわたしの相棒になるベースが愛しくて、大事に大事に抱えていたら、なにやらそうちゃんが不服顔...

「そればっか抱きしめてんなよぉー」

だって...

そんなそうちゃんのパーカーをちょいちょいと引っ張って気を引いてみる。

「そうちゃん、このまま帰るの?」

って聞いてみた。

なんかもうちょっとそうちゃんと一緒に居たくて、思わずそんな言葉が口から出ていた。

その時、電車が少し揺れて、身体を持っていかれそうになったわたしの腰を、そうちゃんはスっと支えて抱き寄せながら

「このまま帰すわけないじゃん...」

とか言う...

わたしは熱くなった顔を、ハードケースで隠した...

そうちゃんは、上向いて中吊り広告を見てるけど、耳はほんのり桜色に染まっていた...


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