〈加奈side〉
来蘭が飲みたがったいちごみるくを買って病室に戻ると、来蘭と青木の話し声が聞こえた。
穏やかに話す2人の声に頬がほころぶ...
邪魔するのはよしておこう。
そーっといちごみるくを置いて、あたしは病院を後にした。
AM7:00スマホのモーニングコールが鳴る。
起こしてくれる来蘭が今は居ないから、仕方なくスマホの音で起きてる...朝は相変わらず弱い...
朝ごはんは牛乳1杯。来蘭の作るフレンチトーストが恋しい...
いつものバスに乗り、流れる景色をぼんやりと見ていたら、少し前に来蘭にラブレターを渡していた男子に声をかけられた。
最近彼女と一緒じゃないけどどうしたの?と...
ちょっと怪我をしてしまって入院中なのと伝えると、とても心配そうに、お大事にと伝えてくださいと言って降りて行った。
来蘭の居ない学校は、なんとも殺風景だった...
次の授業は移動教室か...
ノートと教科書を持って教室を出た所で、来蘭とやり合った1組の女子グループに絡まれた...
「あれー?レズの井澤さんじゃん!彼女の赤井さん刺されたんだってー?さすがビッチだよねー!いよいよ恨み買っちゃったんだねー?こわいこわい」
「人のこと侮辱するのもいい加減にしなさいよ!!」
「はぁ?レズが偉そうに何言ってんのぉ?」
「あんたたちビッチの意味ちゃんと分かって使ってんの?ビッチっていうのはね、誰彼構わず自分から誘って寝る尻軽女のことを言うの!
来蘭はね、自分から誘うことなんかしなくても、その魅力で老若男女を虜にしてしまうだけよ!
あんたたちモテないからって来蘭を妬むんじゃないわよ!!」
それでも尚、来蘭を悪く言う彼女達にブチ切れたあたしは、執拗にビッチビッチと言うやつの首根っこを掴みかかりそうになった所を廣瀬先輩に止められた...
「次の授業はサボれ!俺と一緒に来い!」
そう言って第2音楽室に連れて行かれた。
「陽介と優輝に聞いた。お前が来蘭のためにベース弾こうとしてるって...本気でやる気あるのか?」
「ある!もちろん本気!」
「よし!それなら俺が教えてやる!」
「ほんと?!」
「かなり厳しいぞ?弱音吐くなよ?」
「分かった!!」
廣瀬先輩のベースレッスンは本当に過酷だった。
右腕はパンパンになったし、左手の指はボロボロになり、血が滲んだ...
すべての時間をベースの練習に割いた。
弾けるようになってくると、陽介や優輝が一緒に合わせてくれるようになり、未だ来蘭に付きっきりの青木の代わりに、英二先輩がドラムを叩いてくれたりして、みんなが猛練習に付き合ってくれた。
みんなあたしがミスると、容赦なく怒号を飛ばした。
下手くそ!
そんなもんしか弾けないならやめろ!
やる気あんのか!
そんなことを言われる度に悔しくて唇を噛んだが、厳しい言葉の裏には
がんばれ!
早く追いつけ!
負けるな!
そんな気持ちも伝わってきて、指も腕もボロボロになるまで毎晩練習した。
来蘭の病院には、あえて行かなかった。
来蘭が、あたしが来ない...って寂しがってるって聞こえてきても行かなかった。なぜなら、来蘭もリハビリが始まって、泣きながらがんばってるって聞いたから...
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