一目惚れから始まった俺のアオハルは全部キミだった

キミと駆け抜けたアオハルDays
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初ライブ3

公開日時: 2021年5月31日(月) 01:32
文字数:2,233

〈加奈side〉

来蘭の唇があたしの唇に...

何が起こったのか理解出来ずに固まっていた...

「まったくもう、来蘭にはほんと敵わないわ...」

メイク道具を手に、あたしは立ち上がった。

フロアに行くと、Roseyのライブが終わったようで、拓海ファンがかじりついていた最前列から下がって来た。

「拓海が落としたいとか言ってスポットライト浴びてた女なんなの?」

「ここのスタッフみたいじゃん?初めて見たけど」

「しかもあの曲、拓海はあたしのために書いた曲だって言ってくれたのに!あの女のために歌うとかありえない」

なんかヤバそうな会話してるなぁ...

大丈夫かな来蘭...

ちょっと心配になってきたな...

あ、先輩たちのライブが始まる!

あっという間に先輩たちのファンでフロアが埋まる。女子...というか、色気ムンムンのお姉さま方が多い...多分これは、吉井先輩が抱いた女達...

拓海の女達とは違って品がある...気がする...

男のファンも多いんだなぁ...先輩たちの演奏のレベルは高校生レベルじゃないもんなぁ

フロア後方から、ライブパフォーマンスを見ていたら、拓海ファンの女たちが近くに来た...

ライブを見ているフリして聞き耳を立てる...

「ちょっと!!あの女、この後ステージ立つらしいよ?」

「え?まじ?」

「動画撮ってSNSにアップして晒してやろーよ!」

「それいいね」

え?ちょっと待って!

そんなことされたら来蘭が危ない目に遭う...

どうしよう...

先輩たちのライブが終わり吉井先輩が来蘭たちを紹介する

「今日は、俺たちの弟妹分のバンドに、1曲だけ演奏させてやりたいんだけどいいかな?」

来蘭たちがステージへ上がる...

「しゃーしゃーと出てきてんじゃねーよ!ブス!!」

「撮ってやろうぜ!」

せっかくの初ライブ、来蘭に歌わせてやりたいのに!!

どうしたらいいの!

そうだ!!

これしかない!!

急げ!!


ライティングのスタッフに駆け寄る

「ライトすべてオフにして!!お願い!!」

「え?何言ってるの君?」

「とにかく全部消して!!ステージを真っ暗にして!!これから演奏する子たちの動画を撮ってアップして晒そうとしてる奴が居るの!!演奏はさせてやりたいの!!だからお願い!!」

「わ、分かった!!」

ステージが真っ暗になる

ざわめくフロア

あたしはステージに走った!

吉井先輩に状況の訳を簡潔に伝えた。

「みんな、驚かせてごめん。これは機材トラブルでもなんでもないから安心して。ちょっとした演出だから」

吉井先輩が機転を利かせたMCをしてくれてる間に、来蘭たちに伝える

「このまま演奏して!!訳は後で話すから!!」

「来蘭!落ちついて歌って!あたしにその歌聴かせて!!」

ドラムのカウントが鳴る...

静かな水面に落ちる水滴のような優輝のピアノの音...

その水面をバシャバシャと壊すような歪んだギター

そして来蘭の寂しく悲しい歌声が包み込む...

あたしはステージ袖で聴いていた...

来蘭の思いを乗せたその歌詞を噛み締めていた...

2コーラス目、メロディーは同じはずなのに、演奏がガラッと変わった!

暗闇の中で耳だけが研ぎ澄まされて、うねる音の波に飲み込まれてゆく...

その時だった!

人影がステージに向かって一直線に向かって進んで来るのが見えた...


危ない!!

そう思った時にはもう遅かった...

フロアに響き渡る悲鳴

倒れ込む来蘭

広がる血の海

拓海がヤリ捨てた女の狂気の沙汰だった...

凶器がカッターナイフだったこと、ベースのボディが来蘭の身体を守ったことは、不幸中の幸いだった...だが刃先は来蘭の右腕の太い血管を切り裂き、みるみるうちに来蘭の腕は血に染まり、顔は青白くなって行った...

青木が自分のTシャツを破って傷口を縛って止血をするが止まらない...

「救急車!誰か救急車を呼んで!!」

泣きながら叫んだ。

廣瀬先輩が、刺した女を取り押さえる。

チラリと見えたその顔は、SNSに晒すと言っていた女とは違った...

その女はフロアで、この状況を撮っていた...

殴りに行こうとして立ち上がると、ステージから吉井先輩が飛び降りて殴り飛ばし、スマホを踏みつけた。

大森さんの車に、吉井先輩と廣瀬先輩とあたしの3人で乗り込んで、運ばれた病院へと向かっていた。車中、誰も何も喋らなかった...

病院の処置室の前に、血で真っ赤に染ったTシャツ姿のまま、青木は座っていた...

「奏太!来蘭の容態は!」

吉井先輩が青木に聞く

「うん...命に別状はないよ...でも傷が深くて...右腕の神経が断裂してるかもしれないって...最悪、右手に麻痺とかの障害が残る可能性もあるって...」

「あたしが照明落とさせたりしたからだ...あたしのせいだ...」

泣くまいと唇をキツく噛んだが、大粒の涙が足元にぽたぽたと落ちた...

「井澤のせいじゃない。井澤は守ろうとしてやったんだから、誰も井澤のせいだなんて思ってないよ...」

青白い顔をしながら、あたしを気遣うことを言う青木の姿にまた涙が溢れてくる...

「大森さん、吉井先輩、廣瀬先輩、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

そう言って深々と青木は頭を下げた

「せっかく頂いた機会が...こんな...ことになってしまって...」

膝に手を置き、頭を下げたまま涙声で言う青木を大森さんが抱きしめる。

「馬鹿野郎、こんな時に大人ぶらなくていい!」

来蘭は処置が終わり病室に移された。

着替えに帰れと先輩たちに言われたが、来蘭の側を離れたくないと、青木は聞かなかった。



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