デビューアルバムの発売日が明日に迫る中、俺たちは渋谷スクランブルスクエアの屋上『SHIBUYA SKY』に居た。
日付が変わる午前0時に、『Re Light』が渋谷をジャックするのだ!
渋谷中のすべての大型ビジョンに、蓮の撮ったアルバムジャケットが映し出され、この『SHIBUYA SKY』から、生ライブを配信する!
本番を前に来蘭は1人喧騒を離れ、角の先端部に立ち、眼下に広がる都心の夜景を見つめていた。
「来蘭」
俺の声に振り向く来蘭を後ろから包む
「そうちゃん、見て!夜景が綺麗...」
「そうだな...」
来蘭の首筋に顔をうずめながら生返事をする...
「んん...もぉ...そうちゃん...夜景見もしないで...」
その来蘭の言い方が可愛くて、そのまま首元でふふっと笑うと、くすぐったいと悶えた来蘭が妙に色っぽくて、思わずkissをした...
「本番前なのに...」
「本番後のが良かった?」
と聞くと、来蘭は首を振った。
「まぁ、本番後にもするけどね...」
「本番行くよー!」
スタッフの声に、向かおうとする来蘭を呼び止める
「来蘭!」
「ん?」
「綺麗だよ」
一瞬目を丸くして驚いた顔を見せた後、最高の笑顔で来蘭は言った
「ありがとう!」
マイクスタンドに向かって走って行った来蘭が、Uターンして俺の元に戻って来たかと思ったら、めいっぱい背伸びして、俺の耳元で
「本番後のkissはベッドでね...」
と言って、また走って行った...
あーもう...
来蘭には一生勝てる気がしねぇ...
『Re Light』の渋谷ジャックと生ライブ配信の反響は凄まじく、デビューアルバムの売れ行きは絶好調で、このCDが売れない時代に、異例の速さでのミリオンを達成し、シングルカットされたドラマの主題歌のMVの視聴数はもう1億回に迫る勢いで、社会現象を引き起こしていた。
アルバムを引っさげたライブツアーのチケットは即完売で、これも話題を呼んでいた。
「もっとデカいハコを抑えるべきだったよなぁ...見誤ったなぁ...」
と嘆く瀬名さん
「アリーナ...とか抑えとけば良かったと?」
ちょっと様子を伺うように聞いてみた。
「ばか奏太!アリーナなんてもんじゃねーよ、ドームだよ、ドーム!」
鼻息荒く瀬名さんは豪語した。
「東京ドーム、俺たちにやれますかね?」
と瀬名さんに聞くと
「やれるポテンシャルは充分ある!」
瀬名さんは、静かに自信に満ちた声で言った。
「実は、どうしても東京ドームでやらなきゃならない理由があるんです。」
「やらなきゃならない理由?」
「聞きますか?それ」
「聞くよ、聞きたいよ」
「絶対瀬名さん泣きますよ?」
「泣く話しかーそうかー、そういや奏太とサシで語ったことないもんなー、ちょっとこれはじっくり聞こうじゃないの。
美味いもんでも食いに行くか!」
そう言って瀬名さんは嬉しそうに俺の肩に手を回した。
「ちょ、暑苦しいなーもー!」
「やっぱり肉か?若者だもん肉だよな?」
「いや、俺、回らない寿司がいいっす。」
「......」
無言で財布の中身を確かめ始めた瀬名さんに思わず吹き出しながら
「嘘ですよ、なんか美味い焼き鳥かなんか食いたいっすねー」
って言ったら
「いや、オッサンか!」
とか言いながら、明らかにホッとしてる瀬名さんに、また吹き出しそうになった。
結局、煙モクモクの大声で話さないと聞こえないような、きったねー大衆居酒屋みたいなとこで2人、俺はもちろん未成年だからノンアルコール、瀬名さんは生ビールを美味そうに飲みながら焼き鳥を食ってた。
「それで?どうしても東京ドームでやらなきゃならない理由ってのを聞かせてもらおうじゃないの」
「瀬名さん酔っ払っちゃってんじゃないすかー」
「酔っ払ってねーって」
「まぁ、酔っ払ってくれてるぐらいのがいっか...」
そんな前置きをして俺は『来蘭と俺の物語』を語り始めた...
物語の最初のシーンはそう...来蘭に〈一目惚れ〉した入学式からだ...
話は、あの来蘭がライブ中に切りつけられて大怪我を負い、右手の感覚を失った所に差し掛かった。いまだにあの時の惨劇のようなシーンは脳裏に焼き付いていて、忘れようにも忘れられないでいる...
その後、三日三晩高熱にうなされ、痛みに苦しんでいる来蘭の傍に付いていたあの三日目の朝のこと...
そしてあの日、来蘭と俺が見た〈同じ夢〉のことを瀬名さんに話して聞かせた。
案の定、泣き出した瀬名さんに
「ほら、泣くじゃないっすか...」
と言うと
「ばかお前、こんな話泣くなっつーのが無理な話だろが...こんなん絶対に東京ドームでやらなきゃダメなやつじゃん!」
「そうなんです、絶対連れてかなきゃならないんです。それで、ここからが本題なんです。この話を瀬名さんに知ってもらった上で、お願いしたいことがあるんです。」
「お願い?」
「はい。」
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