〈奏太side〉
来蘭が目を覚ましたみたいだと、電話は切れた...
来蘭が母親からDVを受けていたなんて...
なんで黙っていたんだよ来蘭...
いや、思い返せば思い当たる節が...
こないだの楽器屋の帰り、靴擦れだと思ったあの足をかばう仕草とか、膝に座らせて持ち上げた時、微かに顔を歪めていた気もしなくもない...
なんで気がついてやれなかったんだ...
夢見ながら泣いていたって言ってたな...
しかも俺の名を呼んでいたって...
いつの間にか涙が頬を伝っていた。
いや、俺が泣いてる場合じゃない!
1番辛いのは来蘭なんだ!
どうやって来蘭を守ってやったらいい...
俺に何ができる?
とにかく来蘭を母親から離すことを考えなきゃならない。
しかし俺たちはまだ高校生...
なんの力もないのが情けないし悔しい...
まずは来蘭の父親に状況を伝えるべきだろう。井澤が言うには、外に女を作ってるクズ野郎だから、話が通じる人間である可能性は低いが、来蘭の父親である以上、責任を取らせてやる!
来蘭...これまで学校ではいじめられ、病にも冒され、家では母親から暴力を受け...安心する場所なんかなかったんだな...
あいつ電車とか保健室とか、びっくりするくらい寝付くの早いのは、きっと家は安心して眠れる場所じゃないからなんだろうな...
そんなことを思うと、涙が出てきた...
居てもたってもいられず、朝イチで学校へ行った。まだ来蘭は来てないのは分かっていても、早く来蘭に会いたくて...
担任の長谷川先生が来るのを、職員室の前で待っていた。まずは担任に事情を話して力になってもらうしかないだろうと思った。
来蘭の母親が、学校に連絡してくる可能性は高い。普通の良い母親ぶって連絡してくるのは目に見えてる。先手を打つ必要がある。
「青木?どうした?随分早いな」
「長谷川先生!やっと来た!」
俺は長谷川先生に、来蘭の母親のことを話した。井澤が更衣室で来蘭の腹部に痣を見て気がついたこと。昨晩来蘭は、井澤の家に泊まったこと。家には連絡せずに泊まったから、母親が学校に連絡してくるかもしれないが、来蘭をあの母親の元に帰す訳にはいかないということを必死で伝えた...
「悔しいけど、俺まだなんにもあいつにしてやれない...先生の力を貸してください、お願いします...」
両膝に手を付いて、頭を下げた。
「頭を上げろ青木...事情はわかった、心配するな、先生が力になるから!」
「ほんとですか!ありがとうございます、ありがとうございます先生...」
まだ誰もいない教室、来蘭の席に腰を降ろし、机に手を置く...
俺、強くならないと...来蘭のためにもっと強くならないと!
あいつを守れる男にならないと!
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