一目惚れから始まった俺のアオハルは全部キミだった

キミと駆け抜けたアオハルDays
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僕の歌姫2

公開日時: 2021年5月30日(日) 23:58
文字数:2,420

「あ、そうだ来蘭!明日お前のベース買いに楽器屋行くぞ!」

と、廣瀬先輩がでっかい声で言った。

「はい!!お願いします!」

と、わたしも大きな声で返事をした。

「楽器屋!俺も行きたい!」

そうちゃんと陽介くんが声を上げた。

「なんだよお前らー、せっかく来蘭と2人で楽器屋デートしようと思ったのによぉー、邪魔すんなよー」

と笑ってる

「まーいーや、お前らも色々必要な物揃えないとな!よし!まとめてついてこい!」

なんだかんだ言って、廣瀬先輩は面倒見がいい。

帰りはそうちゃんがいつものように自転車を引きながら駅まで送ってくれた。

2人きりになると、どちらからともなく手を繋いだ。さっきまで部室で大勢でわいわいしていたから、なんか急にドキドキした。

「なぁ来蘭...さっきアイツが言ったやつさ...」

「ん?」

「来蘭は来蘭自身のものであって、彼氏だからってお前のものじゃない。ってやつ...」

「優輝くん、そんなこと言ってたね」

「悔しいけど、なんかガツンと殴られたような気がした...

俺、来蘭のこと好き過ぎて、ただ自分の独占欲のままに俺だけのものにしようとしてたのを、アイツに言われてハッとした...

俺はさ、来蘭を笑顔にしたいんだよ...

中学で出来なかったこと、全部させてやりたいし、お前を誰よりも輝かせてやりたいと思ってる。

だから来蘭、来蘭の好きなようにやってみな?俺はいつでもお前のそばにいるから」

と、そうちゃんはなんか一生懸命笑おうとした...

わたしはたまらずに、自転車を引くそうちゃんを後ろからぎゅっとした...

「わたしはそうちゃんのものだよ...」

「来蘭...」

「でも、ありがとうそうちゃん。

そうちゃんのそうゆうとこ、すごい好き。」

「来蘭、ちょっともう限界...」

身体をねじって振り向きながら、片手であごをグッと持ち上げられて、ちょっと乱暴に唇を奪われた...


唇を離すと

「2人っきりの時は来蘭は俺のものだからな?」

と、そうちゃんは言った。

わたしは返事をする代わりに、そうちゃんをぎゅっとした。

「なぁ来蘭?明日、御茶ノ水の駅に11時だろ?俺、電車乗り慣れないから一緒に行こう?」

「うん!わたしも都内は分からないから一緒にのが心強い。そしたらわたし1度この駅に降りるね。待ち合わせして一緒の電車で行こ!」

「じゃあ明日ね!」

ってバイバイした。

改札口を通ってホームに降りると、イヤフォンをした優輝くんの姿があった。

音楽聞いてる様子だったから、彼の視界に入るように、ひょこっと顔を出してみた!

「わっ!びっくりしたー」

思った以上にびっくりさせてしまった...

「来蘭ちゃん!」

優輝くんは嬉しそうにイヤフォンを外した。

「ごめん、驚かせちゃったね」

と、肩をすくめて謝った。

「来蘭ちゃんも下りの電車?」

「うん。わたし小田原から通ってるから」

聞くと、優輝くんは平塚から通っているという。途中まで一緒だねって、同じ電車に2人で乗り込んだ。

仕事帰りのサラリーマンたちが増えてくる時間帯になってしまったから、電車は少し混んでいた。優輝くんはドアの角に私を置くと、両手で囲ってくれた。そうちゃんを見上げる癖がついてしまったのか、あごをあげて見上げたら、そうちゃんよりも顔の位置が近くてちょっとドキッとした...その瞬間電車がガタンと揺れて、優輝くんのブレザーをぎゅっと掴んでしまった...

「ご、ごめんっ」

「いいよ、つかまってな」

斜め上に視線を向けたまま、優輝くんは言った。


優輝くんはその後もずっと、わたしが潰されないように守ってくれて、電車が揺れる度に大丈夫?って気遣ってくれた。

つかまってな

って言ってくれたけど、なんか躊躇してしまってつかまれずにいたら、次の瞬間大きく揺れてよろけてしまったわたしに

「ほらもぉ」

って、わたしの手を持ち、優輝くんの腰の辺りに持ってかれて

「ここつかまってな」

ってつかまされた。

ひと駅ごとにサラリーマンたちがどっと降りて行き、電車内はだいぶ空いた。

もう次は優輝くんが降りる駅だ。

「明日いいベースに出会えるといいね」

と、優輝くんが言う

「うん。すごい楽しみ。」

まだ見ぬ相棒に思いを馳せて言った。

「ベース弾きながら歌う女の子とか、絶対かっこいいと僕は思う」

急に真剣に優輝くんが言った。

「えっ?いや、だから歌はね、吉井先輩みたいなルックスと歌の上手さを兼ね添えた人が歌うべきであってね、わたしはベースに徹したいと思ってるんだってば...」

って言ったら

「ルックスと歌の上手さ?

兼ね添えてるじゃん、来蘭ちゃん!

ほんとに自覚ないの?」

と笑った。

「まぁいいや、小田原まで長いだろ?僕の曲、退屈しのぎでいいから聞いてよ!

じゃあまた来週ね、来蘭ちゃん」

と言って優輝くんは降りて行った。

1人になった車内で、わたしはイヤフォンを付けて、さっき教えてもらった優輝くんの作った曲がアップされてるところにアクセスして、彼の曲を聞き始めた。


優輝くんの曲は、50曲近くあった。

上から順番に聞いて行った。

緻密なアレンジがされてて、曲としての完成度が高い曲もあれば、あまり音が足されてないシンプルな構成の曲もあったり、アップテンポな曲があったり、涙腺を刺激されるバラードもあった...

どの曲もどこか影を感じるような印象を残す感じとか、マイナーコードの絶妙な使い方とか、わたしの心はもう鷲掴みにされていた...

その中でも一際わたしの心を掴んで離さない強烈な1曲があった。

その曲は1番最後の曲だった。

きっと、1番最近に作った曲なのだろう、まだ主旋律のメロディーと、シンプルな伴奏ピアノのみの曲で、これから曲としての可能性を無限に感じる曲だった。

しかしながら、その主旋律メロディーが、わたしの中にある何かに刺さった。

この曲の歌詞を書いてみたいと思った。

「最後の曲の歌詞を書いてみてもいいかな?」

優輝くんにメッセージを送った。

「もちろんだよ! 」

驚くほど返事が返ってくるのが早くて、電車の中でクスっと1人で笑った。



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