〈来蘭side〉
「あ、ねぇ、ガレージにはもう他の人たち居ない?」
優輝くんにコソッと聞いた。
「Roseyのメンバーたちのこと?」
「ロージー?」
「陽介のアニキがやってるバンドのことだよ」
「じゃああの長髪の人は、そのバンドのメンバーなんだね...拓海...とかって言ってたかなそうちゃん...」
「あぁ拓海さんね、Roseyのボーカルだよ。拓海さんがどうかしたの?さっき2人で話してたよね?」
あの人とさっきした会話を、優輝くんに話して聞かせたら、優輝くんはカンカンに怒って
「は?あいつふざけんなよ!いつもなんだか斜に構えてて、いけ好かないヤツだとは思っていたけど、完全に頭にきた!!」
その勢いのまま、陽介くんの所に走って行ってしまった...
ふとスマホを見ると、加奈からメッセージが来ていた。時間を見ると20時を過ぎていた...
メッセージを確認すると、帰りの遅いわたしを心配する内容だった。
いけない、加奈に連絡しないと!
加奈に連絡して、これから朝までガレージでバンドのリハになりそうだと伝えた。
通話を切る時の、加奈の寂しそうな声が耳に残った...
加奈との電話を終えてガレージに入ると、駆け寄って来る陽介くん。
「優輝に聞いたよ、拓海さんのこと...あの人ちょっとクセがあってアニキとも度々ぶつかってんだよ...ボーカリストとしてはすげぇんだけど、人格に難アリで...嫌な思いさせてごめんな来蘭ちゃん」
「陽介くんが謝ることないって...」
「アニキによく言っておくから!またなんか変な事言ってきたらマジで俺たちが許さねぇから!!
うちの『歌姫』傷つけんじゃねーよ!って言ってやるからな!」
「やだ、なにその『歌姫』って、恥ずかしいよー」
「あれ?さっき言ってなかったか?『自信のない自分は捨てる!』って!
いい?来蘭ちゃんはうちの大事な『歌姫』なの!本気でやるんだろ?もうそこはそろそろ自覚して?」
さすがはそうちゃんと一緒にバレー部でやってきた副キャプテン。陽介くんは言うべき事をビシッと言ってくれる所がある。これからも陽介くんにこうやって姿勢を正されるのだろうな。
優輝くんとそうちゃんは、曲の構成とテンポ感について話し合っていた。
わたしの書いた詞が、1番と2番で『暗と明』にしたのを、より演奏面でも表現しようということになり、テンポやリズム感も変えることにした。
「とにかくやってみよう!」
そうちゃんのカウントが響く
何度も何度も演奏を続けた。
気になる箇所は、止めてはやり直した。
だいぶ納得する形になってきたところで、優輝くんの録音機材で何テイクか1発録りをしたのを、休憩がてら聞いてみることにした。
PAに機材を繋いで、録った音を流す。
わたしはバーカウンターの方で乾いた喉を潤す3人から離れて、ソファに身体を沈めた...
〈奏太side〉
バーカウンターの椅子に腰掛けて、ミネラルウォーターを飲みながら、スピーカーから流れる自分達の演奏に耳を傾けていた。
時計は深夜の2時を指していた...
に、2時!?
来蘭大丈夫か?
来蘭の姿を探す...
来蘭は向こう側のソファに1人で座っていた。
来蘭に近づこうとすると、陽介と優輝にパーカーのフードをぐいっと引っ張られた。
(「寝てる」)
(「来蘭ちゃん寝ちゃってる」)
男3人で、そーっとソファで眠る来蘭の側に近づく...
「天使だな...」
思わず呟いてしまった俺に続いて
「うん」
「天使だな」
陽介も優輝も呟く
「うちの『姫』だからな」
と優輝が言うと
「姫って言うと、まだ恥ずかしがるけどな」
陽介がクスっと笑う
「輝かせてやりたいよな、天使みたいな寝顔のうちの『歌姫』をさ...」
と俺が言うと、優輝も陽介も頷いた。
「さすがに俺らも眠いな...ソファひとつだしな...優輝俺ん家来いよ、ちょっと寝ようぜー」
陽介が優輝を連れて帰ってった。
連れてくか...
いわゆる「お姫様抱っこ」をするしかないなと、寝ている来蘭の背中に手を回したところで目を覚ましてしまった...
「んん...」
寝ぼけて抱きついてきた...
これ、手を出さないで居ろってのは拷問だぞ...
来蘭が首に手を回してくれたから、そのまま抱き上げて家まで運んで、俺のベッドに降ろして寝かせた。
可愛らしい寝息を立てて眠る来蘭の横に俺も横になって、しばらく寝顔を見ていた...
kissくらいはいいよな?
そっと唇に触れるだけのkissをして、すぐに離れて、来蘭の横に仰向けになって天井を見た。
すると寝返りをうった来蘭が、俺を抱き枕と勘違いでもしたのかのように
「そうちゃぁん...」
と言いながら抱きついてきた...
「来蘭...」
抱きしめ返して俺も名を呼んだ...
「てっぺん取ろうな...てっぺん取れたら〈ひとつ〉になろうな...」
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