〈来蘭side〉
「そうちゃん!!起きて!!遅刻する!!」
2人で飛び起きて家を出た!
「来蘭!早く乗れ!」
私を乗せたそうちゃんの自転車が走り出す。
少し行くと、優輝くんを乗せて陽介くんが必死に漕ぐ自転車が見えてきた
「陽介ー!優輝ー!」
そうちゃんが大声で呼ぶ
「4人して寝坊かよー!」
陽介くんが漕ぎながら爆笑してる
つられて4人で大爆笑
「急げー!!!!」
校門が閉まるギリギリセーフで滑り込んだ!
「じゃーまた放課後な!」
そう言って、それぞれのクラスに散った。
教室に入ると、呆れ顔の加奈が待っていた...
「あーもぅ、髪の毛ボサボサだしすっぴんだし...こっちおいで来蘭!着替えも持ってきたから!」
と言いながら、手早く髪をとかして束ねてくれた。
昼休み、昼ご飯も食べずに屋上で、そうちゃん、陽介くん、優輝くんが川の字になって爆睡してる側で、わたしと加奈は売店で買ってきたパンをかじっていた。
「それで?今週末の初LIVEのヘアメイクをあたしにやって欲しいと」
「うん。どうしても加奈にお願いしたいの」
「遊びじゃなく、本気でやるって腹括ったんだね来蘭」
「うん。」
「分かった。引き受けるよ。
その代わり、ひとつだけお願い。
昨日みたいに帰ってこないとかやめて...ちゃんと帰ってきて...心配だから...」
「うん、分かった、ちゃんと帰る」
「来蘭が居ないと、眠れないんだ...」
加奈はとても寂しそうな目をしてそう言うと、そのままkissするみたいにわたしの頬に触れた...
知ってるよ加奈...
明け方にわたしを抱きしめて泣いてることを...
あなたがわたしを救ってくれたように、わたしもあなたを救いたいと思ってるよ...
爆睡する男子3人を起こして、5人で教室に向かっていた。じゃれ合いながら先を行く3人の後から、わたしと加奈はゆっくり歩いていると、前から1組の派手で目立つ女子数人が下品な笑い声を響かせながら歩いてきた。
「あれー?井澤さんじゃーん、新しい彼女出来たんだってねー、赤井さんと付き合ってるんでしょー?」
周りの数人がギャハハと笑う
「赤井さんって、男も女も両方いけるんだねー」
「そうゆうのなんて言うんだっけ?両刀使い?バイ・セクシャル?どっちにしてもビッチだよねー」
「レズの井澤さんと、ビッチの赤井さん、お似合いじゃん」
こんなに煮えくり返る程頭に来たのは初めてだった。わたしのことを悪く言うのは一向に構わない。だけど、加奈のことを侮辱するのだけは許せなかった。
言うだけ言って立ち去ろうとする彼女たちに、ちょっと今まで出したことのないようなドスの聞いた声でわたしは叫んだ
「ちょっと待ちなさいよ!!加奈に謝れ!!」
「はぁ?うざっ!なにこのビッチ」
ブチッと何かがキレる音がしたわたしは、その言葉を吐いた子に飛びかかっていた。
取っ組み合いになって絡み合っている所に、慌てて助けに来たそうちゃんたちが止めに入った。
品なく伸ばした彼女の爪に引っ掻かれて、わたしの頬からは血が出ていた...
怒ったそうちゃんが、彼女の胸ぐらを掴んでいるのが目に入った。
「よせ!奏太!」
陽介くんが冷静に離させた。
彼女たちは汚い言葉を投げながら、足早に逃げて行った...
寝不足状態で今までに経験のないような興奮状態に一気になったわたしは、身体の力が入らなくなり、崩れ落ちるように倒れた所をそうちゃんに受け止められた...遠のく意識の中で加奈の名を呼んでいた...
〈加奈side〉
来蘭の側であたしは言葉も出なければ、身体も動かなかった...
そう、あたしは「同性愛者」...
「女性」しか愛せない...
中学の時に、初恋をした。
相手はもちろん女の子だった。
始めは仲の良い友達という関係だった。
仲が深まって行き、何でも話せる親友になって行った。
ある日彼女に「好きな男子」を打ち明けられた。
その時に初めて自覚したんだ、あたしは彼女を友達としてじゃなく好きになっていたことに...
苦悩した...
この感情をどうすることも出来ずに苦しんだ...
そんなあたしの苦悩の日々が、衝撃の展開へと向かうこととなったのは、彼女が想いを寄せていた彼に告白をしたことだった。
彼女の告白に彼は、「他に好きな子が居るんだ」と言って彼女を振った。
傷付いた彼女を慰めながら、あたしは自分の想いを抑えることが出来ずに打ち明けてしまった...
今思うとあれは、振られて弱っていたからなのだったのだろう、彼女はあたしの気持ちを受け入れてくれた。
幸せから奈落の底に落とされたのは、そのすぐ後だった...
彼女が想いを寄せていた彼から、あたしは告白をされたのだ...
それを知った彼女は、怒りと妬みから、あたしが「レズ」であるということを、吹聴して回った...
噂が広がるのは早かった...
あっという間にあたしは学校に行けなくなった。
親にも知られることになり、家も安らぐ場所ではなくなった。
うちは地元でも有名な地主で資産家の家だから、親はあたしの存在を「恥ずべきもの」として扱い、高校進学を機に厄介払いをするように、所有するこのマンションに追いやったのだった。
来蘭にあたしが同性愛者であることを知られてしまった...
来蘭はあたしをどう思うのだろう...
やはりあたしを穢れた者のように思うのだろうか...
来蘭を保健室に抱きかかえて連れて行った青木が戻って来た。
「来蘭大丈夫?」
小声で青木に声をかける
「大丈夫だよ...昨日あんまり寝てないから倒れたんだと思う。顔の傷も、たいしたことなかったから心配すんな...」
あたしのために戦ってくれた来蘭に、どう応えたらいいのだろう...
来蘭に本当のあたしを見せるのは怖いけど、でも知って欲しいのも確かだった。
「青木、あたし来蘭の所に行ってくる」
体調悪いと嘘をついて、保健室へと向かった。
保健の先生に、見逃して!と頭を下げて、来蘭の眠る側へと行った。
来蘭はベッドに横になってはいたが、目は開いていた。あたしに気がつくと
「加奈...来ると思って待ってたよ...」
そう言って優しく微笑んだ。
頬につけられた傷に当てたガーゼに少し血がにじんでる...
「痛くない?」
「ん...大丈夫...ライブまでに治るかなぁ...」
「ちゃんとメイクで隠してあげるから心配しなくていいよ...」
「キレるってのはこうゆうことを言うんだね、わたし、加奈のことを侮辱されるのだけは許せなかったよ...」
そう言ってあたしを見て来蘭は笑うんだ...
その瞬間に感情は決壊し、子供のようにあたしは泣いた...
そんなあたしを、来蘭は聖母のごとく抱きしめてくれた...
「来蘭、あたし、女性しか愛せない同性愛者なんだ...」
「うん」
「来蘭が好きなんだ...」
「うん」
「青木と想い合ってることもわかってる。それを邪魔するつもりはもちろんない。来蘭が幸せならそれでいい。でもあたしの想いを伝えたかった、ごめん...」
「どうして謝るの」
いつの間にか来蘭も涙を流していた。
「加奈の気持ち、嬉しいに決まってるでしょ?
わたしも加奈のこと好きだよ。言葉で伝えるのはちょっと難しいけど、加奈への感情は友達としての感情ではないのは確かだし、そうちゃんへの感情とももちろん違う。こんな答え方しか出来ないけど、わたしにとって加奈は、とても大切な存在だよ」
来蘭があたしという人間を、まるごと受け止めて、受け入れてくれたことが、なによりも嬉しかった。それだけで充分だった。
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