一目惚れから始まった俺のアオハルは全部キミだった

キミと駆け抜けたアオハルDays
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来蘭と加奈2

公開日時: 2021年5月31日(月) 00:30
文字数:3,266

〈加奈side〉

来蘭がこの部屋に居るのが、なんだかとても不思議だった。

いつも1人で食事をして、1人で眠りにつき、1人で目を覚ますこの部屋に、来蘭が居るというだけで、殺風景だった部屋が急に華やいだ。

冷蔵庫にあったもので、来蘭は手早く夕飯を作ってくれて、2人で食べた。

そして来蘭をお風呂に入らせて、あたしのTシャツを着させた。メンズサイズの大きめなやつを着させたんだが、大きな来蘭の胸は少し窮屈そうだった。Tシャツ姿になると、胸以外は華奢なのがよく分かる...

あたしもお風呂に入って出てくると、来蘭はソファで眠っていた。起こさないようにそーっと腰を下ろしたんだが、来蘭は目を覚ましてしまった。

「ごめん、起こしちゃったね」

「ちょっとウトウトしちゃった...」

「来蘭、まだ髪の毛濡れてる。ドライヤー掛けてあげるからここにおいで」

わたしの足の間にちょこんと収まって、少し顔を上げて乾かしてもらうのを待つ来蘭。

来蘭の髪は、柔らかくて細い細い毛質で、乾かすとふわふわで、自然なくせ毛のウェーブが出て、とても愛らしかった。

「来蘭、なにかに似てるなと思ったら、トイプードルだ!」

そう言って2人で笑い転げた。

こんな風にに笑ったのはいつ以来だろ...

来蘭はまだケラケラと笑いながら、あたしの隣で笑い転げていた。

ふとTシャツの脇から痛々しい痣が目に入り、あたしは思わず裾から手を入れて、その痣に触れていた。

「ひゃあぁ...」

びっくりして声を出した来蘭を、そのまま抱き寄せた。

「痛む?」

と聞くと

「ちょっとね...」

と言って笑うから、よけいにせつなくなった...

「加奈、更衣室で着替えた時に見えたの?この痣...」

「うん...人が居なくなるのを見計らって着替えてたから、気になってね...そしたらチラッと見えてさ...」

「そっか、見えちゃったのか...上手に着替えたつもりだったのにな...」

「いつからなの?母親の暴力は...」

「子供の頃からだよ...多分、幼児期からなんだと思う...」

「ママも母親に手を上げられていたみたい...わたしには優しいおばあちゃんなんだけどね...」

「風邪引くからベッド行こう来蘭...」

狭いシングルベッドに、2人で身を寄せあって横になった。身体も温かかったけど、それ以上に心の方が温かくて、こんなに満たされた気持ちになるのは初めてだった。


「ねぇ加奈?わたしも聞いていい?」

「ん?...ダメ...」

わざといじわるを言うと

「ずるいー」

怒ってる来蘭がかわいかった。

「ごめんごめん、何?」

「加奈はどうしてここで一人暮らししてるの?」

「厄介者だから、親に捨てられたんだよ...」

天井を見つめながら、大したことじゃないよというふうにあたしは言った。

「佳子や恭子が言ってたろ?あたしは人とは毛並みが違うって」

と笑った。

「親もそう感じたんだろうな、学費と家賃と生活費は出すから、自立してやって行けってこのマンションをあてがわれたんだよ。」

来蘭はなにも言わずにぎゅうっとあたしを抱きしめてくれていた...

「なにか言いたいけど、ありきたりな言葉は今使いたくないからなにも言わない」

そう言って来蘭は腕に力を込めて、強くあたしを抱きしめた。

そんな来蘭に、不覚にも涙が溢れてしまって、来蘭に気付かれないように、さっと拭った...

「ほら、もう寝な来蘭」

「ん」

それからすぐに来蘭からスースーと寝息が聞こえてきた。

「寝落ちすんの早っ」

あたしはクスクスと笑った。

窓の外には、狭いベッドで身を寄せあって眠るあたしと来蘭を、月が優しく見守ってくれていた...


真夜中、来蘭のすすり泣く声で目が覚めた。

母親からの暴力の夢でも見ているのだろうか...小さく小さくうずくまって怯えているようだった...来蘭の身体をさすり、髪を撫でてやると、来蘭はあたしにしがみついてきた...そして蚊の鳴くような小さな声で呟いた

「そうちゃん...」

来蘭の髪を撫でていた手が止まった...

来蘭が求めたのはあたしじゃなかった...

そうだよな...あたしなわけないよな...

なにを期待してたんだあたしは...

笑ったつもりが、涙が溢れてきた。

何度も何度も手で拭ったが、後から後から溢れる涙は、一向に止まらなかった。

こんなに好きになるはずじゃなかった...

後ろの席で、静かに眺めて居られたら、それでよかったはずだった...あの痣を目にするまでは...

あたしは「心」を、来蘭は「身体」を、親に殴られ傷つけられた。

来蘭を分かってあげられるのはあたしだけだし、あたしを分かってくれるのも来蘭しか居ないと思った。

だけど、来蘭の口から出た名は...あたしではなかった...


怯える来蘭を一晩中撫でていた...

いつの間にか外がぼんやりと明るくなり始めていた。

こんな夜でも、朝はやって来るんだな...

この想いが届かないことくらい分かっていた...これまでも、これからも、あたしの想いは届くことはないのだろう...

大丈夫、「クラスメイトの加奈」を演じることくらい簡単なことだ。

友達として来蘭の隣りに居られたらそれでいい...

「加奈ぁ...」

来蘭が目を覚ました。

「どうした?あたしはここに居るよ」

身体を起こして、来蘭はあたしの顔に触れる...

「夢の中で加奈が泣いていたから...」

「.......」

零れ落ちる涙を見せぬよう、来蘭を抱きしめた...

「泣いてないよ、ばかだなぁ...

ほら、まだ外は暗いから、もう少し眠りな」

来蘭の寝息がまた聞こえてきたのを確認すると、枕に顔を押し当て、声を押し殺して泣いた...

「来蘭が欲しいよ...」

届くことのない声が、枕の中に消えた...


来蘭を起こさないようにベッドを離れた。

そっと音をたてないように冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターを取り出し一口飲んだ。

来蘭の鞄を開け、来蘭のスマホを探す...

あった...

ベッドに戻り、まだよく寝ている来蘭の右手の親指を当てる...

ロック解除した。

通話履歴から、〈そうちゃん〉と書いてあるのをタップする...

AM4:30か...さすがに出ないか...

「来蘭?どうした?」

出た...

「お前はジジイか!」

「来蘭...じゃないなその声...」

「井澤だよ」

「どうゆうことだ!なんでこんな時間に、来蘭のスマホから井澤が俺に電話してきてんだよ!」

「来蘭うちに泊まらせたんだ。まだよく眠ってる」

「は?泊まらせた?」

「落ち着け青木!来蘭が目を覚ますまで時間がない。なるべく簡潔に話すから黙って聞いてくれ!

みんなでタピオカ屋で解散した後、1人で駅に向かう来蘭の様子がおかしかったから、追いかけて声をかけたんだ。

実は、更衣室で来蘭の腹部にいくつもの痣が見えてしまって、どうしても気になったのもあったし、ちょっと1人で帰しては行けない気がしてさ...

...来蘭、母親からDV受けてる...

父親が泊まりで出張っていうと、母親が手を上げるらしい。

出張ではなく、外に女が居るらしいんだ。

暴力は今に始まった事ではないらしい...幼少期からだと来蘭が言ってた...

昨日うちに泊まらせたけど、来蘭うちに連絡してる様子はなかったから今スマホ見たら、母親から鬼のような着信が入ってた。多分今日学校に連絡が入ると思う。来蘭をあの母親の元に帰す訳にはいかない。

来蘭は青木にこのこと知られたくなかったと思うんだけど、あたしの力だけじゃ来蘭を守れないから、青木の力も貸して欲しいんだ...

というより、来蘭はお前に助けを求めてる...

さっき真夜中に来蘭が泣きながら夢を見ていて...青木...お前の名を呼んでいたよ...」

青木は絶句しているようだった...

無理もない...

「聞いてる?青木!」

「聞いてる...

ありがとう。気がついてくれて、泊めてやってくれて本当にありがとう。腹部の痣じゃ、俺、気が付きようがなかった..」

「そうだよな、気が付かないよな、仕方ないよ青木...来蘭自身も、このことは必死に隠そうとしていたんだから...

大事なのは、これからどうするか!どうやって来蘭を守ってやるかだよ青木!」
















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