大首領、はじめました! ~婚約破棄されてデッドエンド確定済みの悪役令嬢、召喚した特撮ダークヒーローと共に悪の秘密結社を結成して異世界征服に乗り出す!~

婚約破棄→処刑確定→逃走→悪の秘密結社結成 ←今ココ!?
はんぺん千代丸
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第4悪 大首領以外、生き残れる道はない

公開日時: 2021年2月27日(土) 22:11
更新日時: 2021年2月27日(土) 22:12
文字数:4,164

「貴様が世界を征服すれば。誰も貴様を殺せなくなる。実に簡単なロジックだ」


 そうですね。簡単ですね。

 実現するのが絶対不可能レベルに簡単じゃないのを除けばね!


 やっぱすごいな、サード様。

 私、ここまでの「言うは易し、行なうは難し」は未だかつて見たことないモン!


「不服そうだな」

「だって、無理じゃないですか……」


 こちらを見るサードに、私は我ながらげっそりした調子で返す。


「私、体は公爵令嬢ですけど中身はただの一般女子高生なんですよ?」

「だが貴様はすでにパーティー会場とやらで一度、啖呵を切ったのだろう」


 まぁ、それはそうだけど、アレはとにかく生き残るのに必死だったからで――、


「ならば、それを実現するだけだ。十分可能だな」

「アレを一生やり続けろと!!?」


 アレ、胃の中で胃液が大渦巻きそうなくらいぐわわーってなったんですけど!?


「不服そうだな」

「だって、無理じゃないですか!」


 私はサード様みたいな悪の組織の最強戦士じゃないんですよ!


「いや、可能だ」

「そのサード様の根拠レスなクセにやけに力強い断言は何なんですか……」


 言い方があまりに揺るぎなくて、私、思わず信じそうになっちゃう。

 でもそれって、自我が弱い人が宗教にのめり込むパターンにも思えるんだよー!


「根拠ならばあるぞ」

「え?」

「貴様は世界を征服できる。その根拠があると言った」


 私はさすがに耳を疑う。

 彼と私、会って一時間も経ってないのに、一体どんな根拠があるっていうのか。


「貴様は俺を味方につけた。それが、俺にとっての何よりの根拠だ」


 えええええええええええ、何それ……。


「完全にして最強にして唯一にして無二たる〈無欠の月〉を味方にするという史上最高難度の偉業をすでに成し遂げた以上、世界征服程度ができない理由などない」

「うわぁ……」


 思わず声出しちゃった。

 それを根拠と言い切っちゃうとか、やっぱサード様はサード様だなー、って。


 本当にこの人、自分に疑いなんて持ってるのかな。

 私、急に自信なくなってきたよ……。


 ちなみに〈無欠の月〉というのは、ガンライザー本編でのサードの異名である。

 これに対し、主役のセカンドは〈欠けた太陽〉と呼称された。

 どちらも、元はステラ・マリスが育成、改造した星天騎士と呼ばれる存在だ。


「そもそも、サード様はどうして私に協力してくれる気になったんですか?」


 アイディアを思いついたから、そのために私を利用する。とか言ってたけど。


「ああ、それか」


 サードがフッと口元に薄い笑みを浮かべる。

 それだけのことなのに、カッコイイほどサマになってるのは、さすがというか。


「愚物。貴様は言ったな。元の世界に戻る手段などありはしない、と」

「あ、はい。言いましたね。さっき……」


 サードを説得するときに言ったなー。そんなこと。

 でもそれこそ根拠がないワケじゃない。


 召喚されたモノを帰す魔法なんて〈エトランゼ〉のどこにも記述がない。

 本編にも、外伝にも、設定資料集にも、ファンディスクにも。だ。

 だから、ありなしを問われれば、ない可能性の方が高い。と、私は思っている。


「ないなら開発すればいいのだ」

「はい?」

「貴様が世界征服を成し遂げた暁には、ステラ・マリスの規模も極めて大きなものとなっているはずだ。資金力、技術力、影響力、生産力、その全てにおいて。ならば新たな技術を開発するなど造作もないコト。実に簡単なロジックだ!」


 だからそれ全然簡単じゃないから――――!?


 何ていうか、発想そのものがすっごい大味。

 しかも実現可能って信じて疑ってない辺り、本気で簡単だと思ってるっぽいし!


「つまり、貴様の世界征服はすでに俺のプランの中に組み込まれているのだ」

「勝手に組み込まないでください……」


 うわぁん、本物のサード様、思ってたより天然ポンの気配が強いよぉ。

 俳優の佐伯さんも天然キャラで売ってたけど、こっちは根っからくさいよー。


「だが愚物。仮に他の方法を取るにしても、どのような手がある?」

「う……」


 いきなり突き刺された。


「重大犯罪者として手配されている以上、祖国には戻れまい。ましてや、今の貴様はほぼ身一つの有様。そんな貴様にできることは、一体何だ。何がある?」


 問われても、私に返す言葉はない。

 だって、何かできるならとっくにそれやってるし。

 私だけじゃ何もできないってわかってるから、私はサードを召喚したのだ。


「どうやら、自覚はあるようだな」

「…………」

「だが、踏ん切りはつかないか。仕方のないヤツめ」


 サードが軽く息をつく。

 そして彼は、私に向かって指を突きつけてくる。


「教えてやろう。アンジャスティナ・マリス・ジオサイド・ヘルスクリームよ」


 私をまっすぐに睨んで、ステラ・マリス最強戦士サードは言った。


「ステラ・マリスの首領として生きる以外、貴様に残された道はないのだ!」

「ううう……、はい」


 不承不承ながらも、本当にそれしかなさそうなので私はうなずく。

 そして私は、まだ影も形もない悪の秘密結社の大首領に就任することとなった。


 ――「嘘から出たまこと」って、あるんだなぁ。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 鼻腔をくすぐる芳香に、私は目を覚ました。


「……あれ?」


 何だろ、私、いつの間に寝てたんだろう。

 記憶があいまいなまま、地面に寝転がっていた私は、ひとまず身を起こす。


「目が覚めたか」


 パチリと爆ぜる焚火の前で、私に声をかける男の人がいる。

 私はボーッとしながら、男の人を見る。


 誰だっけ、この人。

 何で焚火なんてしてるの。ここ、どこだっけ。えーっと……、


 あ、いいにおい。


「おかあさん、ごはん……」

「俺はおかあさんではないぞ」


 男の人に言われた。

 あー、そーだ。おかあさんじゃなくてサード様だったー。


「…………サード様ァ!!?」


 私は座ったまま飛び跳ねた。

 おかげでまどろみの中にあった意識が一気に覚醒した。何がおかあさんだよ!


「愚物。随分と朝が弱いな、貴様」

「冷静に言わないでくださいぃぃぃぃぃ~~~~」


 うああああああ、ちょー恥ずかしーんだけどぉぉぉぉぉぉ……。


「って、朝?」


 サードの言葉に気づき、私は空を見上げる。

 木々に覆われて周りはまだまだ暗いけど、空の暗さは幾分薄らいでいた。


 夜が明けかけてる。本当に朝だー。


「いつの間に寝ちゃったんですか、私」

「俺と話している真っ最中だ」


 会話の真っ最中て……

 うええ、記憶が全然残ってない。緊張の糸、急に切れすぎだよぉ……。

 確かにここに来るまで、ずっと緊張しっぱなしではあったけど。


「あの、私、変なこと言ってませんでしたか」

「変なことだと?」


「えっと、その、いびきとか、寝言とか……」

「ああ、フフ……」


 あ、何か笑った。……え、笑った?


「私何言ったんですかァァァァァァ――――!!?」


 いやァァァァ!

 サード様に寝言聞かれるとか、もう首くくるしかないィィィィィィ!


「何と言われれば、あれは――」

「ああああああ、いいです! 答えないでいいです! 答えないでぇぇぇぇぇ!」


 サードが答える前に、私はその場で耳を塞いで身を丸め、護身を完成させた。

 その私の鼻先が、またしてもいい匂いを感じ取る。

 何か美味しいものが焼ける、食欲を湧き起こさせる暴力的なまでの香り。


「朝飯だ」


 サードが言って、私の横に何かを置いた。

 地面に伏せていた顔を傾けて、私はそこに置かれたものをチラリと見る。


「わぁ……」


 感動に声が漏れてしまった。

 置かれたものが、信じがたいほどに『食事』だったからだ。


 木の枝で組まれた膳の上にかなり大きな一枚の葉っぱ。

 その上には、焼けたサイコロステーキと色の薄い草のサラダ、苺のような果実。

 皿代わりの葉っぱの横には、木を削ったと思われるお箸までついている。


「フン、どうだ、完全だろう?」

「はひ……」


 野宿での食事とは思えないメニューの数々に、私の目は釘付けになる。

 材料も不明なのに、ものすごくおいしそう……。


「サラダに使っているのは野生の根菜と薬草だ。肉、果実、サラダ、いずれも毒がないのは確認済み。完全である俺は、家事全般も完全なのだ。フハハハハハハ!」

「たびていいでひゅか?」

「俺の話を右から左に流しおったな、貴様……」


 顔をしかめたサードに「食え」と言われ、私はすごい勢いで箸を手に取った。

 わーい、お肉ー! お野菜ー! くだものー!


「いただきまーす!」


 空腹時は先に軽いものからとかいわれてるけど、そんなの知ったこっちゃない。

 箸で真っ先に掴むは、当然、香ばしく焼けたサイコロステーキ!


 私の目を覚まさせたのは、まさしくこのお肉が焼ける匂いであった。

 だったらもう、食べるしかないじゃない。お肉を!

 ステーキを思いっきり頬張り、全力で噛み締める。すると途端に肉汁が溢れ、


「げ、まっず」


 え? え、何これ? え? すごいまずいんだけど?

 焼きすぎとか、塩みが強いとか、雑味がどうとかいうレベルじゃない。


 ただ、まずい。


 どうしよう、私、こんな味知らない。このまずさを言語化できない!


「サ、サラダ……」


 救いを求めて食べたサラダもまずかった。

 何か、渋柿の渋さを濃縮した何かみたいな感じががががが、ぽぎゃあ。


「こっちの果物なら!」


 一縷の望みに賭けてかじった果物もまずかった。

 苦みと、辛みと、エグみと、青臭さとかが同時に押し寄せてくるゥ……。

 見た目、いかにも甘み強そうなのに全然甘くないのは何なのよォ!?


 何てことだろうか。この料理、あまりにも隙がない!


「――フ」


 そしてサード。

 この人、何でこの味で胸張って腕組んで勝ち誇れるんですか?


「どうだ、俺の調理は。完全な栄養バランスを実現しているだろう!」

「あ、あの、味の方は……?」

「何を言う。料理の用途は栄養補給だ。そこに味を求めるなど、不完全だ」


 うあああああ、その完全さ、むしろお料理には邪魔なヤツゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!


「あの、でも、せっかくのお料理なんですから、おいしい方が……」


 口の中に八大地獄が顕現しつつある私が、必死の思いで反論するも、


「俺は料理人ではない」


 ぐうの音も出ない正論を返された。

 食事を作ってもらった側の私は「ですよねー」って言うしかないよ、これ!


「日頃からの均整の取れた栄養摂取こそが、肉体の完全性を担保するのだ」


 言って、サードもまた、私と同じメニューを食べ始める。

 かくして完全に退路を断たれた私、目の前の『完全な食事』に目を落とす。


「……生きるのって、大変だァ」


 目からハイライトを消して、私は渋味濃縮還元サラダを頬張った。

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