チートで護る現実《この》世界 ー 乙女達は今日も異能者を捕縛する ―

腐敗の夏、乙女達は命で駆ける
兎野熊八
兎野熊八

御影城の戦い その5

公開日時: 2021年2月16日(火) 16:11
更新日時: 2021年2月17日(水) 07:35
文字数:3,836

「と、これが二百野盗語りと怪鳥快刀乱麻だいたいのあらすじだね」


「なるほどなぁ……」



 メクルが話し終えると、ヒロは納得したようにウンウン数回頷き、



「……で、ここには、そのご遺体? が? 埋まってたと?」



 と、引きつった笑顔で尋ねます。



「当時は土葬が珍しくなかったんだよね、だから棺桶に入れてここに埋められてたのだと、思われます」


「なるほどなー、それで中のご遺体は自分で土を吹っ飛ばして、自分の足で出て行ったと?」


「中から土を吹き飛ばしたとすれば、うん、それが一番可能性が高いかも?」


「なるほどなるほど、よーく分かったぜ、はーなるほどねー……」



 ヒロは何かを考えるように目を瞑り、うんうん、とても納得したと頷きました。そして、



「メクル、俺はお前の事を信じてるからな、一人で何でもできる奴だって」


「え、信頼してくれてありがとう、ヒロにそう言って貰えると誇らしいよ」


「気にすんなって、じゃぁ、そういうことで……後は任せたぜ」



 ヒロはくるりと踵を返すと、ピーシーのいる方へと歩き出します。

 逃げる気でした、帰る気でした、ヒロはそれだけその手のものが嫌いなのです。

 メクルはそんなヒロの背に、できるだけヒロに似せた声で言います。



「――大丈夫だ、メクル、俺が全力で助けてやっから、心配すんな……嬉しかったのになぁ、このセリフ」



 ヒロがさっき自分に言ってくれた温かい言葉を、そのままリピートします。

 すると遠ざかるヒロがピタリと止まり、実に嫌そうな顔で振り向きました。



「………………メクル、イジワル」



 ヒロはピーシーぽくいじけてしまいました。

 メクルは少しだけ意地悪そうに微笑みながら、



「大丈夫、この私が全力で除霊してみるから、心配しないで」


「さっきまで専門のチーム呼ぼうとしてたじゃん! 除霊とかできないんだろ!」


「銃弾が当たるなら、私でも除霊できるよ」


「当たらねー! 絶対当たらねー! 幽霊に銃弾が当たった試しがねー!」


「じゃぁ怖くなったら手を繋いであげよう、そして一緒にゴーストバスターズでも歌おうか」



 メクルはかの名曲を口ずさみながら、明久の墓地を後にしました。


 ヒロの手を引きながら。




§ § § 




「いいか、仮に、仮にだぞ、見つけた奴に両足が無かったり透けてたら、……俺は帰るからな?」


「はいはい、大丈夫だよ、異世界あっちと違って現実こっちじゃ幽霊ゴーストの存在はまだ立証されてないんだし」


「でもよぉ……ぅぅぅ」



 青ざめうめくヒロを余所にメクルはクスクスと笑います。



「それに生き返ったなら、ゴーストじゃなくて、ゾンビの方が可能性は高いかも?」


「どっちにしろ不気味なのは無理だって、ゾンビ系も好きじゃねぇんだよぅ……」


「もしゾンビなら任せて、私、得意だから」


「でてきたら具体的にはどうすんだ?」


「水流式落下タワーを建築して、落ちた所を剣で叩くとか?」


「それマイクの話だろっ!?」



 ヒロの痛烈なツッコミが決まったところで、二人はピーシーの元まで戻ってきました。



「大丈夫、ピーシー? こっちは調べ終わったよ」



 一本松に背を預けるようにしてピーシーはまだうずくまっていました。

 タオルを口元へ押さえ、下を向いたままです。

 少し息も荒く、苦しそうに見えます。



「……ちょっとだいじょうぶじゃ、ないかも」


「ヒロ物酔いだけじゃないのかな、熱中症とかになってない?」


「俺の事を乗り物酔いみたいに言うな」


「ナッテルかも、ヒロ物酔い……あと熱中症も……」


「やっぱり、本当に夜でもなるんだよ熱中症って」


「おうそうだぞ、脱げ脱げ、そのコート、マフラーも外せよ」


「え、それは、ダメ」


「この緊急時にわがままいってんじゃねぇよ」



 そう言ってヒロはピーシーのマフラーをぐるぐると無理矢理外します。

 久々に現れた可愛いお顔は、やはり脂汗をかいていました。熱中症の初期症状です。

 メクルは脈拍を計ってから、コートのボタンを三つ外した所で、手を止めました。



「……ねぇピーシー、なんで下、着てないの」



 思わずメクルが手を止めた理由を覗こうとマフラーを振り回していたヒロも来て覗き込みます。



「……露出魔はお前だったのか、ピーシー、コートに裸て、じゃぁ涼しい格好でいいだろ、最初から」



 なにをなぜ着ていないのかはこの際問わないとして、メクルはボタンを一つだけ締めて胸元だけを少しだけ開けておきました。



「よし、ピーシーはここで休んでて、ここからの探索は私達でやるから」



 項垂れるピーシーを見て、メクルはこれ以上の運動は身体に触ると判断しました。



「……わかった」


「おう、だったらそこの茶屋に長椅子あったから、そこで休めよ」


「……わかった、ヒロ、抱っこ」


「あいあい、ヒロ物酔いに注意しな、メクル、生徒会への報告送っといてくれ」


「了解」



 と、弱々しくうなずくピーシーをヒロがお姫様抱っこすると、今度は揺らさないように歩いて行きました。

 メクルが本丸近くの穴についての状況をスマホで送信した頃、ヒロが戻ってきました。



「寝かしつけてきたぜ、あと隣の石碑はお墓で幽霊がうろついてるって教えといた」


「ヒロもイジワルだね」


「俺は好きな奴にしかイジワルしねぇぜ」


「典型的なイジメっ子だ」


「お前も俺にイジワルするだろ、おっ、てことは?」


「うんうん、大好きだよヒロ、じゃぁ行こうか」



 茶化そうとするヒロをさらりと流し、メクルは装備を手に歩き出します。

 丁度、その時でした。


 どこからともなく、爆音と、雄叫びが聞こえたのは。




§ § § 





「ヒロ、今の」


「おう、下だな」


 確かに男性の声でした、城内は敷地を含めて一般人が入り込むことはまずありません、つまり目撃情報が正しければ、



「行こう」


「お、おうよ、オバケだろうがなんだろうが……任せていいよな?」


「祟られる時は一緒に祟られよう、あとで神社にも行こう」


「結局神だのみかよ! あーやだやだ! はーやだやだ!」



 率直に嫌な顔をしながらヒロは両肘をさすります。

 メクルは苦笑いを浮かべながら小走りで走り出しました。

 ヒロもそれに続きます。


 声が聞こえたのはここから西、微かに物音もします。固い何かが打ち合ったような音、金属音。来た道を戻り、階段を降りて三段めから二段目の広場へ、金属音はさらに近くなっています。恐らくはもう一段した、最初の広場から一つ登った所からです。



「ヒロ、こっち、あの城壁沿いの渡櫓からなら下を覗けるかも」


「なら確かあっちに入り口があったぞ」


「あれ、めんどくさがりヒロが地図を覚えてるのは珍しいね?」


「ここガキの頃の遊び場だったんだよ、ヒーローごっこのな」


「すごく納得、じゃぁ案内よろしく」


「おう、ついてきな」



 先頭を交代してもらい夜闇の中を進むと、そこにはロープで関係者以立ち入り禁止の看板が吊された渡櫓への入り口がありました。


 ヒロはためらうこと無くひょいとそれを飛び越えて中へと入ります、恐らく子供の頃にも勝手に中へ入って遊んだに違いありません。メクルも続いてロープを跨いでその後を追います。


 薄暗く伸びる廊下は木製の床、壁は補強の際にコンクリートで補強したのでしょう、天井と足下には非常用通路の誘導灯が転々と続いています。薄緑色の明かりに照らされた廊下はそこはかとなく不気味です。城壁側には敵が来た時には覗き込む用の小窓が当時の雰囲気を残すために等間隔で空いていて、差し込む月明かりの中で舞う土埃が道標のように奥の暗闇へと誘っていました。



「こっちだな、近いぜ」



 音がさっきよりはっきりと聞こえる方へとヒロが小走りで進むと老朽化のせいか、ギィヒィと不気味な声で廊下が鳴きます。


 メクルはできるだけ足音を消してヒロの後を追いました。



「お、いたいた!」



 少しして、ヒロが小窓の向こうに何かを見つけて興奮気味にメクルを手招きします。



「うおお、まじかよ、メクル見ろ、いたよ忍者! 本物かよ!」



 さっきまでお化けかもしれないと怖じけていたのに噂の忍者だと知るとヒロは楽しげに目を輝かせました。



「静かに、聞こえるよ」



 メクルはポケットから暗視スコープを引き抜くと電源を入れ、小窓から下の広場を覗きます。


 居ました、忍者かどうかはさておき、月明かりに照らされた男が見えます。


 大きな男でした、格闘技経験者のメクルがここから見て目算しても2メートルに近い巨躯の男です。格好は忍者というより、昔のマタギに近い雰囲気があります。


 髭で覆われた顔に、なにかの毛皮で作った袖の無いファーコート姿のせいで忍者というよりもはや熊です。然しよく見れば足袋に草鞋、長袖の黒い上衣に両手に手甲、最初に目撃した警察官が忍者だと思うのもわかります。



 それに、まだ気になる部分があります。



「あの背中に背負ってるの、ありゃでけぇ日本刀か?」


「野太刀……かな、でも柄も鞘も装飾が凝ってる……あんな刀、歴史館にあったっけ?」


 刃渡り1メートルを超える刀を大太刀、または野太刀とも呼ばれる長刀の一種ですが、男が斜めに背負う刀の長さは四尺半、平均的な女性の身長より長く見えます。


 刀としてはあまりにも重く、速度が物を言う日本刀での戦いにおいてはまず使われることのない野太刀、大男もそれを重々承知と腰には脇差しを左右の腰に一振りずつ、さらに右手にも刃渡り80センチ程の日本刀を構えていました。全部で三本、三刀流じゃあるまいしと、メクルは思わず過った馬鹿な想像を追い払います。



「三原さんの行ってた盗まれた刀かな……あ、まって、ヒロ、向こう側」


「おう、もう一人もいるな、俺より涼しそうな格好だ」



 一つ隣の小窓から覗いていたヒロもそれを見つけたようです。


 男に向かって走る黒い影がありました

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