チートで護る現実《この》世界 ー 乙女達は今日も異能者を捕縛する ―

腐敗の夏、乙女達は命で駆ける
兎野熊八
兎野熊八

神は何に気がついた? その3

公開日時: 2021年2月24日(水) 15:02
更新日時: 2021年2月24日(水) 17:35
文字数:3,609

映し出された惑星を紹介するように、キラリが続けました。



「この惑星、完全に未発見の銀河、未発見の異世界、つまりレイズは観測上では初めての転送者でありながら、初の帰還者となったわけだにゃー、超逸材と思われる」



 『逸材いつざい』、というのは未発見の異世界において初見での単独帰還があまりにも難易度が高いため、異常なまでの適応能力、知識、判断力を備えているか、もしくは規格外の能力を授かった、はたまた運がよかった人物の事です。どれかに当てはまるなら、生徒会が確実にリクルートをかけたい貴重な人材です。



「でー、一応いつものように星の管理権限を奪おうとしたんだけど、これがまぁ恐ろしい程にだった」


「簡単? 難しいんじゃなくて?」


「そ、簡単、なにせこの星、なんと知的生命体が一人しかいないんだよ、だから管理人が所有してる情報量しんこうがむちゃくちゃ少なくてね、防衛に回す余力もないくらい」


「一人ってことは、特殊な生命体で生殖行動無しでも生きられるのか、それとも不老不死とか?」


「どうやらどっちでもないんだにゃー、これが……まぁ気になって観察してみたんだけど、その前にこんなのが撮れちゃった」



 キラリが再びパンパンと手を叩くと、画面が移り変わります。


 その映像を見て、メクルを思わず眉をひそめました。



「……うわぁ、なんだろう、これ」


「なんだろうって聞かれてもにゃぁー、まぁ、腐敗中のグロイ死骸《しがい》?」



 死骸です、


 形は様々なれど、それぞれ四肢と尻尾、さらに頭部には山羊や牛の角に似た突起物が頭蓋にうかがえます。背に羽らしきものを着けたもの、尻尾が他の物より大きい物、長いもの、小さいもの、様々な特徴があります。肌は紫、黒、緑、青、寒色系が多い種族なのでしょうか、映し出された映像にあるそれらは、一人、もしくは一匹、一体、一羽は、残らず全て、腐敗の最中でした。



「うーん、なんだろ、グロイのはさておき、すごく違和感……あ、死因が全部外傷だね」



 皮膚が溶け、晒された臓器らしき部位が焼きすぎたベーコンのようになっている死骸もあれば、まだ比較的新鮮な死骸に虫や鳥らしき生物が群がっている映像もありました。


 場所も室内らしき場所、屋外らしき場所、水辺に海辺と色々です。


 然し、どれを見ても、明らかに外的要因での死でした。


 鋭利なナイフによる解体、もしくは銃殺らしき弾痕が死体にはありました。



「まぁ見た感じ、こっちの世界の『悪魔』、って感じだよね、いやーデザイン凝りすぎてR18っすわー」



 キラリがオエーっと舌をだすのに対して、メクルはただ興味深げに眺めていました。


 メクルは慣れっこです。


 メクルもグロテスクな物が得意な方ではありませんが、異世界では度々と見かける形態の種族ではあるのです、これより酷くグロテスクでインスマスチックでダゴーンとした種族の死体も過去には沢山見てきました。



「弾痕が目立つ死骸がの方が多い、かな……同種族同士での戦争かな、銃器に類似した物はあった?」


「どうだろ、でも見た感じは文明レベルが地球の中世ぐらい、剣と鎧がメインの時代、よく見れば帯剣してる死骸もあるけど……、そろそろグロイから勘弁しちくりー」



 キラリがパンパンとまた手を叩くと、映像が切り替わります。


 次に映し出されたのは、一人の少女でした。



「え、これ同じ星?」


「そ、この子は極めて人間に近い形状、そしてこの星唯一の知的生命体」


「……唯一の人型生物ね、あ」


 銀髪の少女、地球人、人間によく似ています、強いて違うのは額に見える一本の角。

 

 肌は白、目はゴールド、ボロボロですが衣服も着用しています。


 そして手を胸の前に合わせて、なにかを呟いていました。



「……ねぇこれって」


「そう、この子ね、お墓の前にずっといるんだよ、たぶん祈ってる」



 少女が手を合わせている場所がお墓だとすぐに解ったのには理由があります。



「これは……、だね」



 何かを埋めたのであろう土の上に、木々と蔦で作られた十字架が刺さっていました。



「そう十字架を立てたお墓だ。で、この広い宇宙において知的生命の宗教的シンボルがこの星で1、2を争うとある一派のソレとの一致を偶然と考えるよりは、私はレイズがこのシンボルに関与してる方に今日着ている水着を賭ける、乗るかい? この賭け」


「……とでも言って欲しいの?」


「オーイエース、そういうわけで次の情報だ」



 キラリが手を叩くと、今度は星全体が映し出されます。



「驚くべき事に地球との時間差は約1秒で1年、もしレイズが自力で戻ってこなかったら、私達が向かった頃には確実に死んでたねぇ」



 地球での一秒が向こうでの1年なら、最短6時間で準備と作戦を通して出発した頃には、向こうでは21600年が経過している事になります。並の人間ならまず間違いなくお亡くなりになられています。



「私達天文部の観測速度は最速で5秒ぐらいからかにゃー、そんでレイズは異世界へ飛び、最大5秒、つまり最長5年は向こうで過ごした事になる、天文部を通さずに異世界に行ったら老化は避けられないからねぇ、仮に初等部の子が5秒飛ばされたのなら見た目には5年と大きな変化があるから見つけやすいけど、その線は既に他の委員会が捜査済み」


「仮に向こうにいた時間が2年ほどなら、見た目の老化、成長が解らない年代も多い、と……女の子だったら2年くらいの老化か成長はメイクで誤魔化せるしね……まぁあとは不死系不老系チートの線もあるけど」


「成長期の男の子だと2年で身長も変わるけど、17歳と19歳は見た目の差なんてはっきりとはわかんないねー」


「それで、まだ学園内にいることは確かなの?」


「それは補償する、濁りが消えてないからね、今はでっかい泥団子がプールに落ちた状態って感じかな……濁って濁って見えませんけど、水を足して替えても濁り続けているから、そこにいるのは確かって感じ」



 メクルはふむふむと思考を巡らせ、情報を整理します。


 死者蘇生、昨夜の磁祈明久の蘇り、能力、謎の少女。


 異世界に立てられた十字架のシンボル、悪魔の死体、生体の少女。


 まだまだピースが足りません。しかし謎と付く部分を調べに行くことはできます。


 昨夜、保護した少女、次の目的地に学園内の病院へとピンを刺した所で、キラリが喋りすぎて喉が渇いたとメクルのコップを手に取りサイダーを飲み干してテーブルへと起きました。そして、




「ねーねー質問なんだけどさ、メクルは、もし誰かを生き返らせるなら、誰を選ぶ?」




 唐突に投げかけられた質問でした。




「え、誰をって……、うーん……」


「著名人無しね、ドイツのちょび髭とかダヴィンチとか聖なるお兄さん達とか」


「ある意味並べてみたいメンツではあるね、うーん、生き返らせたい人かぁ」




 メクルは記憶の本を開きます。



 頭の中でペラペラと捲ります、そこには自分が知る限りで、名前を知っていて死んでしまった人達の顔写真と死因がありました。



 ペラペラとめくります、ペラペラと、ペラペラと、そして最後のページまでめくり終えて、本を閉じ、言いました。






「――、うん、『』……かな」





 そう言って、どこかばつが悪そうに笑い、視線を落として瞼に影をつくりました。





「随分と冷たい返答だね、仲の良かった子は沢山いたんじゃない?」


「……いたよ、だとしても私は、その力に頼っちゃいけないと思う」


「なぜ?」



 胸の奥へと短く問う、その一言に、メクルは迷うことなく、言うのでした。



「……怖いから、これ以上、人の命が軽くなるような力は、怖いからだよ」



 怖い。強い力、全てを書き換えるような、人の域を出る力が、それがもたらす変容、変貌、変化。

 大事な何かを忘れそうで、ただ人らしく、それが怖いとメクルは思うのでした。



「怖い、かぁ……なるほーねー」



 答えに納得したのか、キラリは腕を組んでメクルの心中を空想でもするかのように空を見上げます。



「じゃ、こっちからも質問いい?」


「お、なんだい? 何でも聞いてくれよ、全知全能なキラリちゃんは何でも答えるぜ」


「そう、じゃぁ質問……、『   』を見つめていた神様は、何に気がついたの?」



 神のみぞ知る、答えでした。


 イジワルでした、きっとキラリもそのつもりで質問してきたのだから、これはお返しです。


 予想外の質問返しに、キラリは目をパチクリさせて、少し考えるように目を閉じます。


 そして開きます。




「わかんなーい、だって私は神様じゃないんじゃもーん」


「諦めの早い全知全能さんじゃったかー」


「じゃぁ少し考えてみせよう、まずは現場検証だ。もし仮に私が神様だとして、何に気がついたか……」




 キラリはそう言って、テーブルに広がった青いジュースの上に二本指をついて人形が歩くようにトコトコと中央へと向かわせました。


 そこにはキラリが故意わざとに壊したグラス、今は亡き『     』に横たう、その破片をつまみ上げて物憂げに言うのでした。





「――それは……きっと恋だと思うよ」





 宇宙と世界と炭酸はもう、抜けきっていました。

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