チートで護る現実《この》世界 ー 乙女達は今日も異能者を捕縛する ―

腐敗の夏、乙女達は命で駆ける
兎野熊八
兎野熊八

神は何に気がついた?

公開日時: 2021年2月21日(日) 23:34
文字数:2,705

御影城での一件から一夜明けた明朝、メクルは一人、生徒会執行部へと訪れました。

 

 城で起こった事についての報告、さらに自分が感じた所見を元に情報を生徒会と共有するためです。


 現在進行形の異世界渡航者への救出作戦の他、帰還者の保護計画における司令塔としても稼働を余儀なくされている生徒会は、常に人手が足りず、第一生徒会室では職員、生徒が右往左往の周章狼狽の大騒ぎでした。


 未だ発見には至らない帰還者に対する対策班として陣頭指揮に立つ副会長の剣真に至っては、心労で憔悴しょうすいし、昨夜の一件についてのまとめた書類を渡すと、激しいため息と共に意見の交換を求められました。

 


 メクルから剣真に伝えた事は、


 

 一つ、御影城で発見した磁祈明久の墓地が掘り返されていたこと。


 二つ、正体不明の大男は、御影城の元主だと述べた事について。


 三つ、明久(仮)との二つの戦闘についてのヒロの所見と詳細情報。


 四つ、謎の少女と大男の身体能力、異能、現在の状況について。



 それらの情報と交換にメクルが得たのは、



 一つ、応援部隊が駆けつけた時には既に大男、明久(仮)は居なかった。


 二つ、資料館から盗まれていたのは、全て磁祈明久の遺品だったこと。


 三つ、帰還者は県外へと出ておらず、未だに学園内敷地内に存在していること。


 四つ、歴史的文化遺産の破壊については、火色《ヒロ》本人に反省文提出をさせること。





 最後の一つを除外して、以上の情報を二人で推察し、考察し、双方共に思ってはいても口には出さずにいた一つの可能性がありました。しかし話さなければ進まないと、先に口を割ったのは剣真の方でした。





死者を蘇生する能力者、その可能性も考慮しながら、捜索を続けて欲しい』





 その言葉を口にしたあと、剣真の頭から白髪が一本抜け落ちた事については、メクルは黙ったまま、生徒会室を後にしました。





§ § § 





 そして現在、メクルは天文部へとやって来ていました。


 高温多湿の日本と違い、心地の良い日差しが満ちる天文部。


 ドーム状の南国植物園となっているトロピカルな部室。


 純白のプルメリアや真っ赤なハイビスカスが風に揺られて芳香を漂わせ、色彩豊かな鳥達がギャーカーと鳴いています。


 そんな部室内に設置された二五メートルの屋内プールのサイドにパラソル付きの純白テーブルと椅子が二つ。


 座っているのは、天文部部長にしてメクルの親友、星埜ほしのキラリ。


 今日は上下共にオフショルダーのストロベリーなビキニ姿、フルーツパフェではなく、ピーチストロベリーサンデーモードでした。


 向かい合わせに座っているのは、図書委員にしてキラリの親友、綴喜つづきメクル。


 今は制服ではなく、なぜかパレオタイプの水着姿、緑色のハイネックビキニに、迷彩柄のパレオを合わせています。


 バカンスではありません、強制的に着せられたのです。


 部室へやってくるやいなや、早々にこれに着替えおろうと差し出されたのが、この水着でした。


 時間が無いと断るべきか悩んだ末、メクルは手早く着替えました。


 長い付き合いです、断ったら断ったらでそっちの方が時間がかかると分かっています。


 メクルはテーブルに置かれた二つのハワイアンソーダを一つ手に取り一口飲みます。


 爽やかな甘みとグレープの苦み、パチパチと弾ける微かな痛みを飲み込んで一息つきました。

 

 そんなメクルを心配そうに見つめるキラリは、



「だいぶお疲れだにゃー、メクル」


「……顔にでてる?」


「だいぶ、なんかもう、今すぐ水着を脱ぎ捨てて私とベッドインしたいって顔してる」


「鏡を顔につけた覚えはないけど……でも疲れてるのは本当かも、すこしだけね」



 昨日の今日での事件、少し前までは異世界にて情報収集や色んな後処理、帰ってきてからの怒濤どとうの展開、メクルの処理能力に若干の不備が出てもおかしくありません。


 思考する度に頭へと溜まる熱を払おうと、サイダーのグラスに額をピタリとくっつけました。


 おでこでパチパチと弾ける泡方の感触が伝わってきます、頭に籠もる考え事が泡と一緒に少しだけ外へと出て行くようで、その心地よさにメクルはまた一息つきます。



「本当にお疲れだにー、いやまじでさー」


「そだね……少し、色々ありすぎてる」



 その疲れっぷりは少しではあるまいとキラリも察したようにため息を一つ。


 今日、更に重なってきた案件は更に気が重くなるものでした。



「しかし、死者蘇生ししゃそせいチートねぇ、もし見つかったら歴史上初の能力者になるねー」


「うん、もし本当に存在してたら……ね」


「控えめに言って、世界大戦が起こりかねない! と私は思ってるんだけど」



 青いサイダー越しにキラリが手をパッと広げて、楽しそうにしているのが見えました。



「言い過ぎじゃなくて、本当にありえそうだから怖いんだよ、でも……うん、そうだね、どの国だって欲しい能力だと思う、もし存在していたら神様の領域かもね、1つの命を戻すんだから」



 死者を蘇生できる、それも御影城での事を考えるに、相当昔の人間をもです。

 

 もしそうなら、一体その価値はどれ程になるのか、そんな力を日本が保有すれば、どれだけの非難を国連から浴びせられるか。


 愛する人を生き返らせる事ができると知れば、それを求めて動き出す人間は、それこそ世界中にいるはずです。



「神様の領域? おいおいそれこそ言い過ぎだにゃー、神様というか彼等は1つの命になんて興味がないよ、奴が大切なのはさ」


「ん……0だけが大切?」


「そ、無から有を生んでしまった存在、それこそが神さ、というか便宜上べんぎじょうそう私が勝手に仮定しているだけだけどにー」


「興味が無いっていうのは?」


ゼロは正確には無ではないけど、というかそこには無という概念すらない、つまりは空白、『     』さ、仮にメクルを神様に例えるとしよう、メクル、君は神で、君は空白をみている」


「今見てるのは青い世界にいるキラリだけどね」



 弾ける炭酸の無効で、キラリがニヤリと笑います。



「既に満ちた器に興味は無い、青い世界なんて必要ない、さぁ神様メクル、『     』を見て、さぁ早く」








           『                 』








かみは空白をただ見ている、観測している、なぜなら空白しか知らないから」






 


           『                』








「本来なら空白という概念もない、黒も白も色も、無という概念すら無い、君はそれを見ている、君にしかできないことだ、君は0を観測している君にしかできないし、君いがいはしたくもないことだ、さぁ『      』の事をもっとよく見てあげて」








           『                 』








神様メクルは見続ける、ただ見続け、やがて見続ける内にふと違和感を覚える、これは何か、この違和感は何か、やがてカミはそれが何か、何なのかに気がついてしまった……それは思いもよらない事であり、ただ然し、それ以外にはあり得ない、答えだった…………そんな答えに、ふと気がついてしまった、なら神様キミはどうなる?」














             『        あ         』














    

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