Cursed Bug Quest

~呪われた装備を押し付けられた戦士、勇者パーティから戦力外通告を受け魔王軍からオファーが入る~
理乃碧王
理乃碧王

ep05.妖魔からのスカウト

公開日時: 2023年2月23日(木) 10:00
更新日時: 2023年3月1日(水) 17:41
文字数:2,717

「ハァハァ……ッ!!」


 ――あれから数日がたった。

 俺は呪われた装備に身を包まれたまま逃げていた。

 賞金稼ぎ達に追われ、森の中を駆けずり回っていたのだ。


「いたぞ! 勇者殺し!」

「アンタには死んでもらうぜ」


 イグナスは死んだのだ。

 そう……俺が殺した。あの女魔族を助けるために……。

 勇者殺しの汚名を被った俺は、今日もこうして刺客が送り込まれているのだ。


「やめろ……頼む」


 俺は懇願する。

 命乞いではない、俺に敵意を向けないで欲しいという願いだ。


「頼むだァ?」

「お前の首を取れば、たんまり褒賞を頂けるぜ!!」


 賞金稼ぎの数は計3名。

 それぞれが剣や槍を持ち相当な手練れだ。

 よく戦闘経験を積んだ屈強な戦士達。だが俺よりもレベルは低い。


「イヤアッハァー!!」


 ――襲って来た。

 ダメだ……体が勝手に。


          ***


「またか、またやってしまった」


 周りには賞金稼ぎ達の骸がある。

 俺は彼ら一人一人の亡骸に対し祈りを捧げた。

 勝手な話ではあるが、殺してしまった彼らへのせめてもの冥福だ。


「こんなものを装備してるばかりに……」


 苦々しく俺は被っている兜を触った。そう、最近分かったことがあるのだ。

 この『スカルヘルム』。

 どうやら敵意、殺意に反応して体が勝手に反応するらしい。

 俺は切り伏せられても構わない、それが殺してしまった仲間への償いだ。

 そうは思うのだが、この兜を被っている限りは体が動き反撃をしてしまう。


「……そういえば」


 だが、今思うと不思議なことがあった。

 あの女魔族、ラナンとの戦闘だ。

 敵意を向けていた彼女を、何故俺は素手で攻撃で来たのだろうか。

 普通ならば、この鈍器で殴り倒しててもおかしくはない。


「……」


 いや、そんなことを今更考えたところでどうしようもない。

 俺は極度の疲労感に襲われていた。

 それもそのハズだ。


 あれからまともに休むこともままならず、刺客からただ逃げる日々。

 街に戻ればいいが、今更戻ったとしてもどうしようもない。

 どうすればいい……。


 俺は当てもなく、森を歩く。

 幸いモンスターにも会わず、襲ってくるのは人間ばかり、少しばかり都合がいいと思うも今はありがたい。

 兎に角、どこかで休憩を……。


「眠い」


 俺は無意識にそう述べた、そして今度はどんどん体が重く、鈍くなると視界が狭まった。

 闇がどんどん大きくなる――そうか死が近付いてきたんだな。

 俺はそう思うと逆に心が安らいだ。


「こいつが噂の人間ですか」

「うむ」

「あの方も物好きなお人だ。何故人間など」

「つべこべ言わず運ぶぞ」

「ヘイヘイ」


 甲高い声、野太い声――二つの声がした。

 妖魔、魔獣の類の声だ……一体これは。


          ***


――バッ!


 目覚めると俺はベッドの上にいた。

 ベッドの上……?

 俺は生きているのか。


「――ここはどこだ?」


 そこは黒い部屋だった。

 周りには簡素なタンスやイス、鏡があった。


「そういえば体が軽いな」


 ふと鏡を見た。

 すると驚いたことに鎧兜は脱ぎ取られ、銀髪の男が映っていた。

 黒い上下の服を着ている。

 そう、呪われた装備をする前の俺だ。


「目覚めたようだな」

「なっ……!」


 後ろから野太い声で呼ばれ振り向いた。

 するとそこには一匹のトロルがいた。それも色違いの亜種。

 紅梅色で体は大きい。だが肥満体でなく、筋肉質なものだ。

 毛皮の服に身を包み、鋭い眼光で俺を見ていた。


「魔物ッ!」


 素手であるが俺は咄嗟に構えた。


「武器もないのに戦うつもりか?」

「うっ……」


 そのトロルの言う通りだった、今の俺は武器を持たない。

 丸腰の状態で、このトロルと戦ったとしても無惨に殺されることであろう。


「ついてこい」

「どこへ連れて行くつもりだ」

「お前に発言権はない。黙ってついて来るんだ」


 トロルはそう述べると扉を開け部屋から出た。

 俺はこのトロルに付いていくことにした。

 部屋を出ると怪しげな雰囲気を醸し出すも、暗いながらも壁に絵が掲げられた廊下に出た。

 どうやら洋館のような建物だろうか。


「今からお前に会わせたいお方がいる」

「会わせたい?」

「だからキサマに発言権はないと言っている」


 少しトロルの言葉に苛立ちを覚えると、のっそり歩くトロルの後をついていった。

 ツカツカと二人の足音が廊下に響く、ここまで誰にも会わない。

 一匹くらい魔物がいてもよいのだろうが……。


 しかし、ここはどこなのだろうか?

 おそらく魔物の根城なのは間違いないのだろうが……。


「ついたぞ」


 黄金の装飾物で飾られた扉前まで来た。

 するとまるで俺を誘うかのような、扉が開いた。


「入りたまえ」


 部屋の中から男の声がする。

 俺はゴクリと唾を飲み込むと警戒しながら部屋に入った。


「ようこそ、戦士ガルア・ブラッシュ君」


 広い部屋には何故か人間がいた。

 ヒゲを蓄えた中年の男だ。大きな椅子に座り、笑顔で俺を出迎えていた。


「私はサッド・デビルス……魔王ドラゼウフ様の部下だ」


 驚いたことに目の前の男は、魔王ドラゼウフの部下だという。

 見た目は完全に人間だ。これは一体どういうことだろうか。


「人間なのにか?」

「ハッハッハッ!君達の人間世界にも擬態する魔法があるらしいが、それと一緒だよ。今は人間の体を借りている、その方が話しやすいと思ってね」


 確かに人や魔物の体を模す呪文を使う魔法使いがいる。

 だがそれは修行中の魔法使いが、旅銭を稼ぐための云わば手品や奇術の類だ。


「何が目的だ。それにこれは一体……」

「そのことなんだがね」


 サッドという男はそう述べると、どこからともなくワインを取り出しグラスに注いだ。

 一口飲むと、サッドは俺に一つの提案を出した。


「君を仲間にしたい。次期、新魔王軍の戦力として人間である君を引き入れたいのだ」

「新魔王軍……戦力……一体、お前は何が言いたいんだ」

「口の利き方には気をつけろ、お前ではなくサッド様だ」


 サッドはそう述べると俺を睨みつけた。

 その威圧感に俺は少し押された、口からは少し牙が見え、一瞬であるが角のようなものが見えた。

 おそらくは悪鬼、悪魔系の魔物が正体であろう。


「いやはや失礼、折角招き入れようとしたのに申し訳なかったね」


 感情の緩急を使うサッド。

 魔物ながら心理戦に長けているのだろう。


「さてと本題に入る前にだが、君に会わせたい人物がいる」

「会わせたい人物?」


――久しぶりね、お兄さん。


 後ろから女の声が聞こえて来た。どこかで聞いた声だ。

 俺は後ろを振り返ると、例の女魔族ラナンがいた。

 数日ぶりの再会だった。


「お、お前は!」

「装備をとったら、なかなかいい顔立ちをしているじゃない」


 ラナンはそういうと妖艶な微笑みを浮かべる。

 ますます状況がわからなくなってくる。


「端的に伝えよう、魔王ドラゼウフ様は既に死んでいる」

「ドラゼウフが死んだ?!」


 魔王ドラゼウフが死んだだと。

 それでは俺達の冒険は何だったんだ。

 ドラゼウフはどうやって、誰が……。

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