Cursed Bug Quest

~呪われた装備を押し付けられた戦士、勇者パーティから戦力外通告を受け魔王軍からオファーが入る~
理乃碧王
理乃碧王

ep58.バグチェッカー

公開日時: 2023年7月9日(日) 21:00
文字数:2,635

 クリムゾンファイアにより炎と煙が広がり始めた。

 シンイーとロフ予想外の刺客を倒したイオはすぐさま指示を出す。


「脱出だ!」

「は、はい!」

「急げ! 早くしろ!!」


 トウリやミラを始めとする人々は急いで部屋を出る。

 傷病者は仲間におぶられながら、小さい子どもは父や母に手を引かれていく。

 イオは肝を冷やす、もし戦闘が長引けば熱と煙で全員死んでいたに違いないと。


「これで全員か」

「はい」


 全員の脱出を確認した後、イオはハンバルにおぶられたシンイーを見た。


「やはり君の心は強い」

「強い?」


 ハンバルの問いかけにイオは答えた。


「加減してくれていたのは彼女さ」

「と言いますと……」

「彼女は操られているようで、僅かながら自我を残していたんだろう。シンイーの攻撃力はあんなものではない、君もレイ国の武闘家もわずかに急所を外していた」


 ハンバルは納得した。

 最初から最後まで繰り出した拳技は、一見派手に見えたが軽いものであった。

 シンイーはブレーキをかけていたのだろう。

 もし、全力で技を出さればと思うと恐ろしくなる。


「……!!」


 イオは部屋から脱出する直前何かを思い出したようだ。

 その表情を見てハンバルが尋ねた。


「どうされたのですか」

「逃げる人の中にラナンはいたかい?」

「はっ……!?」


          ***


「燃えている……」


 俺とサッドが本拠地である建築途中のイオの屋敷まで来た。

 だが、屋敷からは大きな炎と黒い煙が見えている。


「待っていたぞ」


 そして、対峙しているのは赤いローブを身に付けた魔術師……。


「ジル!」


 そう……ジルと向かい合っている。

 その周りにはフサームとジェイド達が倒れており、共に逃げて来たであろう住民達が物陰に隠れていた。

 フサームは俺と目が合うと微かな声で言った。


「ううっ……ガルア……気をつけろ……こいつ魔法使いなのに接近戦も……」

「この犬め。まだ息があったのか」


 ジルは地面に転がるフサームを蹴り上げた。


「ギャワン!?」

「フサーム!」


 俺はフサームに駆け寄る。幸い息はあるようだが気を失ってしまった。

 ジェイド達はどうやら魔法の類でやられたわけではないようだ。

 全員鈍器か何かで倒されている。フサームの言う通り、接近戦でも強いというワケか。

 しかし、そこはやはり魔法使い。

 倒された全員は悶絶して倒れているか、気絶しているかだけ。それほど腕力はないようだ。


「魔法は使わないのか?」

「温存しているんだよ。貴様が来るのを待って――」

「隙が多いぞ」


――ビッ!


 サッドが隙を突いて先制の銭投げコイントスを仕掛けるも、


「不意打ちか? 獣に相応しい行動だな」


 ロッドで弾いた。


「そんな技など児戯に過ぎん。他に芸はあるか?」

「面白い……」


 サッドはジルの挑発に乗るかのように構えた。


「サッド、あいつの挑発に乗るな」

「命令するのか?」

「違う。あいつは言った『温存している』と……それにこれだけの手練れを肉弾戦で倒したんだ、これが何を意味するのか」

「魔法使いでありながら、魔法使いではないと?」

「ジルだけは特別――魔法使いという役割を与えられたが、それはあくまで仮の姿。イオの話ではあいつは『バグチェッカー』という存在」

「バグチェッカー?」


 『バグチェッカー』という言葉を聞いたジルは静かに笑っている。


「フフッ……教えてやろう。バグチェッカーとは主人公勇者がルートを外れぬための案内人……または死刑執行人だ」

「どういうことだ」

「ご存じの通り、イオのような勇者はこれまで多く生み出されてきた。しかし、殆どは冒険を途中で投げ出す臆病者……無茶な冒険を進めたり、無謀を勇気と思い高レベルの魔物と戦い死んだ者……失敗作が大半。そこで大聖師様は――」


――フッ……


「き、消えたっ!?」


 ジルが突然消えた!

 いや正確には……。


「勇者が決められた道を進むよう導く存在! バグチェッカーを生み出した!」


 動きが速すぎて見えなかったのだ!

 鈍い音がなり、振り向くとサッドの腹部にジルの杖が深々とめり込んでいる。


「うぐっ!?」

「サッド!」


 クリティカルヒット。サッドは戦闘不能になった。

 一撃であのサッドを倒してしまった。


「所詮はザコキャラだ」

「破ッ!」

「遅い!」


 俺はアレイクで攻撃するも、ジルはカウンターの中段蹴りを放つ。

 その蹴りはまさに槍、俺の腹部を突き抜けていった。


「ぐうう……」

「防具も装備していないのにタフだな。それにあれだけのボツモンスターどもと戦ったというのに、疲労感もあまり見られない」


 ダメージを受けるも俺は倒れない。

 不思議なことに体力的にはまだまだ余裕があった。

 俺は再びアレイクを手に取り斬りかかった。


「破亜亜亜!」

「ちィ!」


――サンダークラッカー!


 雷属性の魔法攻撃。

 体に電撃が走るも俺は構わずに突進する。


「そんなもの!」

「ぬゥ!?」


 アレイクの斬撃を浴びせるも、ジルは杖でガード。

 ジルは数歩後退して構えようとするも、パカリと杖が寸断されていることに気付いた。


「攻撃力が上がっている?」

「いくぞ……」

「バグが手に負えなくなる前に消えてもらう」


――クリムゾンファイア!


――ホワイトアイス!


――サンドストーム!


――バイオレットミスト!


――デモンサイクロン!


 あらゆる属性魔法の集中砲火。

 本来ならば死んでいる攻撃だろうが、


「ふぅふぅ……」


 俺は持ちこたえていた。


「バ、バカな……普通なら死んでいるはずだ」


――スキャニング!


 ジルは敵能力を調べる補助魔法、スキャニングを唱えた。

 すると……。


「HP95473921……?!」


 ジルは何故か額から汗を流している。

 戦況ではジルが圧倒的に優位だというのにだ。


「どういうことだ……お前はバグが起こり続けHPが9999になってはいたが……」


――フレイムショット!


「ぐわァ!?」


 ジルの背中に火球が当たった。

 フレイムショット――何度も見た魔法だ。


「ラナン!」

「ガルア……私にも手伝わせて!」

「大丈夫なのか?」

「ハンバルが回復してくれた……」


 いや……ラナンは万全ではないだろう。

 レフログス達との一戦で、消耗した体力と魔力はすぐには回復しないはずだ。


「急造されたザコの分際で!」


 ジルが動いた。ラナンを攻撃する気だ!


「お前も何故勝手に動くのだ! あの村で捕らえられた時にすぐさま殺せばよかった!」

「……!?」


 ジルの手には冷気の結晶が集まっている。

 あれは大魔王レフログスが使ったヘルブリザード!


「やめろ!」


 俺は急いで動く――その時だった。


「ジル! 止まれ!」


 空を見上げると道化のような男が浮遊していた。

 現れた男は指で何かの紋様を描く。

 それは魔法陣、召喚の儀式だ――


「そいつらはまとめて削除する」

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