Cursed Bug Quest

~呪われた装備を押し付けられた戦士、勇者パーティから戦力外通告を受け魔王軍からオファーが入る~
理乃碧王
理乃碧王

第3章:魔那人形編

ep34.虐殺イベント

公開日時: 2023年3月5日(日) 17:20
文字数:2,533

 ――放たれた矢。

 突然の奇襲攻撃だ。

 当たる……狙われたのは素肌が見える額部。

 突発的な危機状態に陥ると、人や物の動きが遅く見えるというが。


――ギィン!


 俺の面前に鋼の剣が見えた。

 矢を剣の峰で止めてくれたのだ。


「キミがボクの名前を言った時から違和感があったんだ」


 イオだ。


「キサマッ!!」


 青い魔物が再び矢筒から矢を取ろうとしたが、イオは素早く懐に飛び込み切り伏せた。


「ガァ――ッ?!」


 断末魔の叫びが部屋に木霊した。

 その声に気付いたのか、ラナンはベッドから飛び起きてきた。


「えっ?!」


 何が起こったか分からないのであろう。

 キョトンとした顔をしていた。


「危なかったね」

「あ、ああ……」


 イオは剣を鞘に納めると事切れたであろう魔物の骸を指差した。


「死んだ魔物を見てみなよ」

「エ、エドワード?!」


 死んだ魔物をよく見る。

 俺は驚いた、それと同時にイオを睨みつけた。

 あの青い魔物はエドワードだったのだ。


「何故殺した!」

「襲って来たのはその男……いや魔物だ。キミは危く殺されかけたんだよ」


 確かにイオの言う通りだ。

 襲って来たのは魔物で、その正体がエドワード……。

 何故魔物になり俺を襲って来たのだ。


「そもそも、おかしいと思わなかったのかい」

「何がだ」

「そのエドワードって人が、なんでボクの名前を知っているんだ」


――ガルアとイオさん、それに魔物様ご一行を村へ案内するよ。


 そうだ。

 イオとエドワードは初対面だ。

 それなのに何故知っていたのだ。


「既に大聖師が設定を変えはじめているようだ。この村人達は既に全員魔物になっている可能性が高い」


 ダイセイシ。またこの言葉だ。

 それにもう村人達は人ではないだと……。

 確かにそこで息絶えているエドワードは、魔物の姿となり襲って来た。


 しかし、急に言われても困る。

 こんな意味不明な状況をどう理解しろというのだ。

 この村は俺が育った村だ。

 田舎で何もないところだが、村人達は皆優しい。


「里帰りさせて良かった。やはりキミの生まれ育った故郷も設定を変えられたんだ、大聖師のヤツのシナリオを歩まなかった制裁としての……」

「お前の言っていることは何もかも意味不明だ!」


 俺は急いで外に出た。

 コイツは何を言っているんだ。

 やはりイオは人間と云えど魔王を名乗る狂人。


 里帰りさせて良かっただと?

 ふざけるな!!


 何か魔法をかけ俺に幻覚を見せているに違いないのだ。

 友人であるエドワードを魔物に見せてタイミングよく殺した。

 その証拠に死体が魔物からエドワードになっていたではないか!


「ま、魔王様……」

「放っておきな。ラナンちゃん、現実は辛いものさ――この世界は大聖師の玩具、彼が飽きるまで続くこの世界は残酷だ。でも、それを受け入れて克服していかなければならない」


          ***


「ハァハァ……」


 俺は村の中央にある井戸まで来た。

 水を汲み上げ、一口……また一口飲む。


「何がどうなっているんだ」


 俺は混乱していた。

 魔王は……イオは元々賢者クロノと会うためにグリンパーマウンテンに入った。

 グリンパーマウンテンには生息しない魔物がいた。


 偶然とはいえ、エドワードと再会し村へと戻ることは出来た。

 イオからは里帰りなるものを許可されたが、自分からは戻っていない。

 あの異形の魔物との戦闘後、偶々エドワードと再会して戻れただけだ。


「待て……アレは本当に偶々だったのか?」


 ふと疑問に思った。

 冷静になればおかしなことだらけだ。

 あの異形の魔物はイオの使役する魔物ではないのか。

 村人が全員魔物に変えられたなどという、子供だましのような作り話も交え……。


「そうか! アイツは皆を殺すつもりなんだ!!」


 そうだ、そうに違いない。

 皆を幻惑魔法か何かで魔物の姿見せて殺し、俺を精神的に支配つもりなのだ。


 何が元勇者だ。

 そもそもイオ・センツベリーなどという勇者など聞いたこともない。

 本当に人間であるかどうかも怪しい。


 ヤツもイグナスと同じだ。

 呪いの装備品を俺に押し付け、用が済んだらきっと俺を……。


「ガルア……」


 俺は振り返った。

 そこには村の長老がいた。


「こんなところで何をしているんじゃ」

「長老……俺は……」

「フーム……今にも死にそうな顔をしているぞ。ウン死んでる顔じゃ……アヒャヒャ!!」

「ちょ、長老?」


 どうも長老の様子がおかしい。

 普段と違い長老としての威厳はなく、表情はニヤニヤとしている。


「お前さ……ガルアって名前だけど、んじゃ?」

「えっ……」


 突然の質問に俺は狼狽した。

 そういえば……この長老の名前は何という名前だったか。

 ここに住む村人達も……この村の正式名称も……。


「エドワードもそうだ。あんなモブキャラに名前なんぞ必要なのか? 大聖師様も設定がテキトー過ぎる」


 ダイセイシ?!

 何故、長老がその名前を知っているのだ。


「ワシも名前が欲しいのう! この村にも名前が必要じゃあ!! なァ皆の衆!!」


 気付くと村人全員が俺を囲んでいた。

 各々、金棒や大剣あるいは鎌を持ち構えていた。


「あたしヒロインになりたいわ! カッコイイ勇者様の恋人になるの!!」

「オイラは竜騎士になりたいぞ! ドラゴンにまたがり大空を翔るんだ!!」

「あたいは王国のお姫様になりたいわ!」

「オラはバトルマスター!」


 村人達は皆、人間の姿から魔物姿に変わっていった。

 赤、青、緑……頭から角が生え、虎の腰巻している。

 グリンパーマウンテンで戦った、あの異形の魔物と同じタイプだ。


「コロセ! ガルアをブッ殺せば、大聖師様から神設定を与えられるぞい!!」


 目の前の長老は長太刀を構えた黒鬼に変身した。


「そ、そんな……この村は俺の故郷で……」


――グガオオオオオオオッ!!


 けたたましい唸り声が村に響いた。

 俺は咄嗟に腰に差す魔剣アレイクに手をかけていた。


         ***


 数刻の時が流れた。体中ボロボロだ。

 何とか異形の魔物達を全員倒すことが出来た。


「ううっ……ぐうっ……」


 俺は嗚咽上げている。

 涙が止めどもなく流れた。

 辺りは血の海だ。村人達を全員殺した。

 その骸は魔物ではなく人間の姿に戻っている。


「ウワアアアアア――ッ!!」


 不思議とアレイクを使っても体に倦怠感はなかった。

 俺は夜に怪しく光る満月に向かって吼えた。

 知らない人間から見れば俺は人狼に見えるだろう……。


「魔戦士ガルア……拙者が成敗いたす!」


 俺が一人泣いていると男の声が聞こえた。

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