Cursed Bug Quest

~呪われた装備を押し付けられた戦士、勇者パーティから戦力外通告を受け魔王軍からオファーが入る~
理乃碧王
理乃碧王

第2章:クレイジーゴールド編

ep14.サディドリーム

公開日時: 2023年2月25日(土) 15:30
更新日時: 2023年3月1日(水) 17:53
文字数:2,534

 イリアサン王国にダビ地方という場所がある。

 海に面した場所で平和な時代、浜辺で楽しむ観光客で溢れていたが今は昔だ。

 1年前にドラゼウフが現れて以降は、魔物達が占拠し誰もいなくなった。

 各観光所が寂れていく中、別世界のように人が賑わう場所があった。


「みんな、お気楽ね」

「ここだけは特別だからな」


 ここは地方都市ゴルベガス。

 娯楽の街、観光街として名高い。

 街の中は明るく人々も活気にあふれている。

 街より外には魔物や魔獣で溢れているのがウソのようだ。


「それより宿屋はまだなの?」

「……」

「ちょっと無視しないでよ!」


 俺とラナンは魔王より出された指令により、この街に入っていた。

 魔王城より北西に離れたゴルベガス。

 この街に反乱をもくろむ妖魔が住んでいるという。

 だが、その妖魔がどこにいるのか……顔も名前もわからないまま派遣された。


「ったく!ハンバルとフサームがいなくて、何でこんな朴念仁と……」


 今回の作戦では、前回のゲレドッツォ討伐戦で共にしたハンバルとフサームは別行動とのことだ。

 先に人間である俺と、人間に近い容姿を持つラナンがこの街に潜入している。

 流石に魔物の姿の二人が入ればパニックが起こるからであろう。


――ドン!


「おい! 気をつけろ!!」


 冒険者らしき男とぶつかった。

 腰には鋼の剣をぶら下げ、革の鎧を着こんでいる。


「すまない」


 俺が通り過ぎようとした時だ。


「ン?! ちょっと待て……」


 男に呼び止められた。


(――まさか)


 男はチラリと建物の石壁に貼られた手配書を見ていた。

 そこには、凶悪犯や凶暴な魔物といった賞金首達の顔が並んでいる。


「うーむ……」


 その中には、もちろん俺の姿もある。

 懸賞金は高い、それもそのハズだ。

 俺はこの国の希望である勇者を殺した男なのだから。


「いや、気のせいか。何となく顔立ちが似てるような気がしたが」


 男はその場から去って行った。

 手配書の絵が鎧兜姿で助かった。


 俺はパーティでも常に鎧兜を身に付けていたので、顔はあまり一般人に知られていない。

 それに主人公は勇者イグナスだ。

 戦士である俺はお付きの従者程度に過ぎない存在だった。


「あんた有名人だね」

「うるさい」


 ラナンの皮肉に少々うんざりだ。

 俺とて好きでこうなったのではない。

 感情的になり、自然と足を歩める速度が速まる。


「フン……褒めてやってるのにさ」


 先を急ぐ俺に続き、ラナンはそう述べた。

 お互いに軽口のやり取りしながらも目的は同じだ。

 クリアするべきイベントと行かなければならない場所がある。


 ――サディドリーム。


 この街にある宿屋の名前だ。

 白い壁に囲われ涼やかな印象がある建物。

 ここ『サディドリーム』はある人物が経営する宿屋である。

 宿屋は大型の宿泊施設となっており、多くの冒険者達が訪れていた。


「お客様、ご宿泊ですか?」


 褐色肌で大柄の男が丁寧に答える。

 ここの受付を担当する従業員のようだ。


「こちらで2泊3日の予定で泊まりたい」

「お部屋はどのような?」

「ダブルベッドがある部屋で頼む」

「承知致しました。空いているかどうか確認させて頂きますね」


 受け付けの男が空き部屋の確認をしている間、俺はラナンの顔を見た。

 彼女は小悪魔的な笑いを浮かべている。

 ふっと俺は溜息を吐いた。やれやれという気持ちだ。


「空いていますね、ゴールドとシルバーのお部屋それぞれありますがどうされますか?」

「ゴールドとシルバーで違いはあるのか」

「お部屋の広さが違います。ゴールドは広く、シルバーは狭く――」

「ダメだな」


 言葉を遮り、俺はそう言った。

 受け付けの男は少し困った顔だ。


「お客様、お部屋はこの二つしかないのですが」

「ホープダイヤの部屋が空いてるはずだ」


 ――ホープダイヤの部屋。

 俺がそう言った時、男から笑みが消えていた。


「空いておりますね」

「じゃあその部屋で頼む」

「では、こちらに……」


 男は受付から出ると丁寧に案内してくれる。

 そう……あいつのところへと。


          ***


 白い床に白い壁。

 壁には絵画が飾られている廊下を歩く。

 道行く途中、男は宿泊する客に軽く会釈しながら通る。


「ちょっと……いつまで歩くのよ。早く部屋を案内してちょうだいな」


 ラナンはたまらずに言った。

 魔族である彼女は尖った耳をフードで隠している。

 何かの拍子でバレないか気にしているのだろう。


「いざとなれば『私はエルフです』と言えばよろしいのでは?」


 男は笑いながらそう答えた。

 そこには折り目正しい従業員の姿はなく、親しい友人や仲間に語りかけるような感じだ。


「エルフはプライド高くて嫌いよ」

「お言葉ですが、あのお方からお話を聞く限り、あなたもエルフ級にプライドが高いようですが……」

「むっ!」


 男はニカリと笑う。

 言われたラナンはむくれ顔だ。

 俺は男の言葉に納得し、少し笑いながら尋ねた。


「それよりまだなのか」

「もうすぐです。支配人室は階段を昇ったところにあります」


 ラナンは俺が笑ったことに気付いたのか、少々怒っている。


「今、あんた笑ったでしょ」

「かもな」

「……失礼な人間ね」


 俺達は赤いカーペットが敷かれる階段を昇ると、豪華な装飾が施されている扉の前に来た。

 男は丁寧にノックすると、部屋の中にいる支配人とやらに声を掛ける。


「サッド様……お連れしました」

「入りたまえ」


 そう俺達を待っているのはサッド・デビルス。

 ここゴルベガスで宿屋『サディドリーム』を経営しているのだ。


「随分とまどろっこしいことをさせるんだな」

「私のように人間に擬態する魔物もいるのでね。今回のクエストは内密に行いたい」


 俺は魔王に、ゴルベガスのサッドが経営する宿屋『サディドリーム』に向かうように言われた。

 ただし、受付でこう言うように伝えられたのだ。


 宿泊は2泊3日、ダブルベッドがある部屋で泊まるように。

 次に受け付けからゴールドかシルバーか尋ねられる。

 それを断りホープダイヤの部屋を所望するようにと。


「まァ座りたまえ」


 俺達はサッドに促され、ソファーに座った。


「マージル、この方達に飲み物を」

「かしこまりました」


 受付の男――つまりマージルと呼ばれた男は丁寧にお辞儀をして部屋から出て行った。


「話は聞いているだろう。この街に新生魔王軍が気に入らず、反乱を目論む妖魔がいる」


 サッドはそう述べると、俺達に羊皮紙に描かれた女を見せた。


「名はベルタ・メイプシモン……女狐だ」

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