荒れた果てた大地へと変貌したゴルベガス。
娯楽や観光で名高い華やかな街の姿はない。
――が意志を持つキャラは街を新たに自分達の手で作り出そうとしていた。
「ラベロ、そこの瓦礫をどかしてくれ」
一匹のコボルトがミノタウロスに指示する。
ミノタウロスは高く上げた膝の上に肘を置きピースサインをした。
「ガンマ、グランドスラムをお見舞いしてやれ!」
サイクロプスが地面に杭を打ち込む。
必殺のグランドスラムを応用した基礎工事だ。
「ローゼンストライク、ボケっとしてないで手伝え!」
コボルトは空を見てボケっとしているオーガキングに注意した。
彼の名前はフサーム、栗色の毛並みをしたコボルトだ。
「俺らには出来ないことだわな」
「魔物の力って凄いんだなァ」
魔物達の働きぶりを感心する人間達。
フサームはニタリと笑いながら答えた。
「あたぼうよ。魔物様の力を嘗めるなよ」
フサームは人間がそれほど好きではなかった。
――さわっ!
「はうわっ!?」
「もふもふだ!」
「このクソガキ! 俺のしっぽを触るんじゃねェ!」
だが、ゴルベガスの住人と共に暮らすうちに心変わりした。
何故なら共に生きようとする仲間だからだ。
その証拠に腰に帯びる曲刀は既になくなっている。
***
迷宮の森近くにひっそりと屋敷がある。
以前は『淡紅藤の魔女』という老妖魔が住んでいた場所だ。
屋敷の広間は豪勢な内装に改装され、大きな椅子にどっかりと座る男がいた。
グレーターデーモンのサッド、今は人間の姿をしている。その方が都合がいいからだ。
「どうかねワインの味は?」
彼の前には商人のモヤネロがいて商談している。
モヤネロはワインを口にする。
「これならイケますよ」
このワインは魔王城周辺に自生する、ディアボログレープで作ったもの。
サッドはこの特性ワイン製造を生業に生きていくつもりだ。
「アリア、製造所の方はどうかね?」
イリアサン王国の王女だったアリア、彼女はサッドの秘書となり働いている。
その瞳には光が宿り生き生きとしていた。
「ババヘラとアンドリューの話では随時生産に取り掛かっていると」
「魔王城も今ではワイン製造工場か――」
――ビッ!
テッドは硬貨を天井に向けて弾き、
――パシッ!
キャッチする。
「これからは金がモノを言わせるだろう」
――アッハッハッハ!
屋敷にサッドの高笑いが木霊した。
***
「リカバル!」
「すまぬミラ」
トウリの体は木剣で打ち込まれアザだらけ、その傷だらけの体をミラの回復魔法で癒していた。
彼は魔法剣二刀流を極めんと『師』に就いて修行を積んでいたのだ。
「技が粗いな。こりゃ基本からやり直さねばならん」
師の名はジェイド・ヒバート、『毒蛇』の仇名を持つ魔法剣士である。
「一つの剣に魔力を込めるのも大変な作業なのに、お前さんの場合は双剣で魔法剣を繰り出そうとしている。それが如何に難しいことか」
ジェイドのダメ出しは続く。
「まずは魔力を高める鍛練が必要だな」
「鍛練?」
「瞑想だよ」
「瞑想――まるであのゴブリンウィザード達みたいだ」
「ホレホレ! 文句を言ってないでやるぞ!」
ジェイドはミラを見た。
「そういえばお嬢さんは何でここに?」
「わ、私はその……トウリの役に立ちたくて……」
「なるほどな」
ジェイドはトウリとミラを、息子ダミアンとベルタの姿に重ね合わせていた。
もう息子はこの世にいないが、息子のような弟子とそれを支える女性が出来た。
この二人にはダミアンとベルタの分まで幸せになって欲しい、心底そう思った。
「さあ特訓の続きだ。イオに再戦を挑みたいんだろ?」
「無論そのつもりです!」
***
イオは黄緑色のサソリ男を前にして笑顔で言った。
「今日からキミの名前は『サソりん』で決まりだ!」
「サ、サソりん」
「可愛い名前でしょ?」
「う、うん……」
このサソリ男はソルが送り込んだボツモンスターの生き残りである。
イオは戦闘で勝利して仲間に引き入れることに成功したのだ。
傍にいる白い武闘着姿の女性は驚いた顔だ。
「驚いた……魔物を仲間に入れる能力なんてどこで身に付けたんだい?」
意識を取り戻したシンイーはイオと共にいる。
シンイーの隣にはハンバルもいて黙し腕組みしている。
「色々あったからね」
「まっ……確かに色々あったね」
「シンイーはずっと眠っていたじゃない」
「バカだね。そういう意味じゃないよ」
シンイーは腰に手を当てて答えた。
「あんたが2回もフラれちまったことさ」
「なんのこと?」
キョトンとした表情になるイオ。
シンイーはフッと息を吐いてから言った。
「1回目はダミアン、2回目は――」
イオは慌てて言った。
「さあ行くよ! ハンバル、サソりん!」
「はい、イオ様」
「ヘイ!」
「ちょ、ちょいとイオ! 私も行くよ!」
イオ達はこれから旅に出る。
それは魔王討伐というありふれた冒険譚ではない。
この世に残されているかもしれないソルが作ったデータを探す旅だ。
「ボク達の冒険はこれからだ!」
イオは勇者でも魔王でもない。一人の女性なのだ。
***
――ちゅどおおおぉぉぉん!
グリンパーマウンテンの洞窟で爆発音が響いた。
「また合体が失敗か」
クロノはオリジナル魔那人形の完成率を80から100%に高めようとしていた。
目標は『魔導武神機能』を完成させ、5体の魔那人形を合体させることだ。
実験に付き合わされるマナレンジャー達は呆れ顔である。
「お師匠様……」
「いい加減もう諦めようぜ」
「合体なんて無茶や」
「テストに付き合わされる我々のことも考えて下さい」
「ストレスでアタシのお肌が荒れちゃう!」
クロノは顔を真っ赤にして答えた。
「合体は男の子のロマンじゃ! 何れ生まれるガルアの子供も喜ぶ!」
リーダー格のゴブリンウィザード、ベニが言った。
「男の子と限らないのでは……」
***
「ガルア、ここに封印するがいいかい?」
「ああ……あんたの選択だからな」
俺は紫のローブ姿の男と共に迷宮の森に来ている。
この地に呪われた魔装、アレイクを封印するためだ。
男は深々とアレイクを地面に突き刺した。
「封印の魔法は施してある。これでもう二度と使えない」
木漏れ日にアレイクが照らされ、男は俺に尋ねた。
「これからどうするんだい?」
「彼女と共に生きる」
男は笑って答えた。
「フフッ……羨ましいな」
すると男が何かに気付いたようだ。
「僕の『再生復活』の能力に感謝しろよ。あれが残っている最後の力だったからな」
「それはお互い様だ。あのラストポーションがなかったら死んでいたぞ」
そう……俺はあの空間に飛ばされる寸前、死の淵にいるソルを助けた。
「何故助けたんだい?」
「ルビナスの意志だ。死に際のお前を見ている時に彼女の声が聞こえた――〝彼を許して下さい〟とな」
「そうか……彼女か……ふふっ……また来るよルビナス」
男――ソルは姿を消した。
創造する力を失った彼がどうするかはわからない。
どう生きるかの選択権は彼自身にある。
「ガルア、こんなところにいたのね」
振り向くと彼女がいた。
俺は彼女の方まで行き、その赤く大きな瞳を凝視する。
「どうしたの」
「人間の文化にキスというものがある」
「と、突然何を言っているの?」
「答えよう。これは愛する者への表現だ」
自然と俺とラナンの唇が重ね合わさる。それは愛の表現。
俺達の作られた物語の登場人物としての呪いは解けた。
これから愛を持った二人の物語が続く――
――Fin。
***
黒い空間、青い閃光が流星のように舞っている。
壊れたモニターでその様子を眺めていたのはジルとサファウダ。
「美しい物語だなサファウダ」
「ええ、とても綺麗で美しい物語」
「粗は多いが『終わり良ければ全て良し』といったところか」
「ジル……どうしてここに残ったの?」
「私は私の意志で選び、行動した。それだけだよ」
ジルはサファウダの手を取ると言った。
「さあCPUを修理しよう。今度は二人だけの物語を作り上げるんだ」
***
コンストラクションツールフリーソフト『エピックビルダー』
ゲームタイトル『Cursed Bug Quest』
製作者:名前未設定
――完
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