俺はジェイドからの不意打ちを食らい意識を失った。
目が醒めると牢獄にいる事に気付いた。
幸い武具はつけたままだ。
そう呪われた装備品は外せないからだ。
「あんたも連れてこられたのかい」
後ろから人の声がした。
振り返ると灰色の服を着た男達が4名いる。
どの者も髪と髭は伸びたまま。
目から光は消え絶望の表情だ。
「ここは?」
「闇カジノの牢獄だ」
そうか俺は正体が知られていて捕まったのだ。
それにしてもジェイドめ。
精霊石の指輪をつけていたから、ベルタの誘惑魔法は効かないはずだ。
一体何を考えているのだろうか。
「ケケケ……鎧を付けたお客さんは初めてだな」
奥にいる男が俺を見てケタケタを笑った。
見るところ何とか正気を保っているが、いつ発狂してもおかしくないような感じだ。
「あんたらは何でここにいるんだ」
「何って、兄ちゃんもギャンブルの借金を払えずにここにぶち込まれたんじゃないのかい?」
ギャンブル……そうここは賭博場だ。
彼らはギャンブルで出来た借金を払えずにここに捕らわれたのだろう。
――カツン……カツン……
「ヒイイイ!」
俺をせせら笑っていた男が恐怖の表情を浮かび上がらせた。
一体どういうことだろうか。
「出ろ」
現れたのはウェアウルフが3匹。
先程、屋敷で戦闘した魔物達と同種族である。
「い、嫌だ! 死にたくない!!」
「ガタガタ抜かすな」
鋭い爪を首に当てられ、男は涙を流しながら固まる。
そうすると一体のウェアウルフが俺を指差した。
「ガルアとか言ったな、腰に差している剣は抜くなよ。抜いた瞬間にコイツを殺す」
脅しか。
魔物らしい上等な手段であるが、ここは黙って言うことを聞くしかない。
「分かった」
「よし。さっさとバトルコロシアムに上がれ、これからメインイベントが始まる」
メインイベントだと?
それにバトルコロシアムとは……。
疑問に思う中、俺と牢獄に捕らわれた男達はウェアウルフ達に連れて行かれる。
***
「そのまま真っすぐ歩け、これから天国が見えるぞ」
ウェアウルフ達に促され、そのまま直線しか見えない通路を真っすぐ歩く。
あるものは悟った顔のようになり、あるものは涙を流したまま、そしてあるものは発狂したのか笑い続けていた。
「メインイベントを開催します! 我らが最強コボルト『ドビーダス』の多人数掛け殺戮ショー!!」
どうやらここは闘技場のようだ。
「吾輩達を楽しませてくれよ」
「ドビーダスの殺戮ショーが楽しみじゃわい!」
闇カジノの客が声援を送る。
客を見るからに貴族や富豪、ひょっとすると王族もいるのかもしれない。
どの観客も豪華な衣装に身を包んでいる。
「貴族のお遊びか……」
魔物同士を戦わせる闘技場があることは知っているが、人間と魔物を戦わせる見世物があろうとは……。
あそこにいる観客達は人間の皮を被った魔物だ。人の命など何とも思っていないだろう。
「今日は特別ゲストをご用意致しました。あの勇者殺しの超賞金首!! ガルア・ブラッシュでございます!!」
観客達は俺の名前を聞いてざわめきだった。
「ガルア・ブラッシュ……元勇者の仲間の……」
「森に潜み、入る人間を惨殺するって聞いたが」
「これは驚きましたな」
観客達の中には男性以外にも女性もいる。
美しいドレスやアクセサリーに身を包んだ貴婦人だ。
「あの男、子供達の間じゃあ『呪いの装備のガルアさん』って呼ばれているらしいですわよ」
「んっまァー! もう都市伝説級の人になっている方じゃあございませんか。私の子供が夜眠れませんことよ」
「教育に悪いザマス!」
話に尾びれ背びれがついて、そんなことになっているとは……。
人の噂話というものは恐ろしいものだ。
「それでは皆さん! この集められたクズどもがブチ殺されるところを是非ご覧下さい!!」
――それよりもだ。
先程から好き勝手に叫ぶ男は一体……。
俺が声の方を見上げると、闘技場の観客席中央に男がいた。
純白の服に金の羽織を羽織っている。
左右の五指には宝石の指輪をはめていた。
その服装と装飾からかなりの富豪であることがわかる。
風貌は髪は長く、口髭を蓄えた顔。
醜悪な表情を浮かべていた、俺達を見て明らかに蔑んでいた。
その顔を見て俺の隣にいる男が急に膝をついた。
手を組み祈りのポーズだ。
「ク、クリスタルディ! 助けてくれ!!」
――クリスタルディ?
そうか、あの男がオメロ・クリスタルディか。
「おや君は確かナルサスくんじゃあーりませんか」
「そ、そう! 君の友人だ!!」
「ゴルベガス有数の宿屋経営者だったのに……ギャンブルにハマるあまり身を持ち崩し、嫁や子供には逃げられ、家も土地も財産も全て失われ……傲れるギャンブル中毒者は久しからずや」
この男は闇カジノに夢中となり破滅したようだ。
しかし、闘技場の観客達を見る限り、俺といるこの男達もそれなりの身分だったに違いない。
ナルサスという男は頭を地につけ懇願している。
「クリスタルディ……いやクリスタルディ様! 助けて下さいお願いします!!」
「うーん」
クリスタルディは髭をなでまわしていた。
「そういえばナルサスちゃん、壁も床も白い宿屋あったじゃん。あれ借金を返すために売ったって本当?」
「え……」
「売ったかどうか聞いてんだよ」
壁も床も白い宿屋……。
サッドが経営するサディドリームがそうなのか。
あの宿屋は元々この男が経営したのをサッドが買収したのか。
「う、売りました。サッドという男が相場の2倍の額を払うと言ってくれたので――」
「マジ? あの宿屋、ベルタちゃんにあげようと思ったのに」
クリスタルディは溜息を吐くと虚空を見上げていた。
顔を戻すと顔は紅潮し目が血走っている。
俺は別として、ナルサスとそれ以外の男達はその顔を見て後退りしている。
「――死刑! 罪状は『オメロ様が欲しがってた宿屋を売っちゃったあげく、遊びを程々にしなかったアホの罪』だァ!!」
「そ、そんな!!」
「それから他のヤツらも死んでね」
「い、嫌だ!」
「助けてくれ!!」
「何命乞いしてんだよ。クズのお前らは死ぬためにこの闘技場にいることをお忘れかい? ヒャハハハ!」
男達は次々に命乞いをするも、この残酷な男に聞き入れる耳を持たないのは当然。
闇カジノで破滅した男達を観客達は嘲笑う。
残酷で冷酷……同じ人間とは思えない慈悲の無さだった。
「自己責任だよ自己責任!」
「小金でギャンブルを楽しめばいいのに大金賭けるからだ」
「あんな人達が一時的にも私達と同じ、貴族や富豪だったと思うと虫唾が走るザマス」
クリスタルディは手を叩き、今度は顔が笑顔になった。
「でも優しい俺様ちゃん、せめて抵抗出来るよう武器を与えよう」
そうすると観客席から木の棒が4本投げ入れられる。
木の棒が闘技場に落ちると乾いた音が情けなく響いた。
クリスタルディは俺が腰に差すアレイクを見ている。
「ガルアさんは腰に剣を装備しているから無しだよ。外せない呪いの装備なんてつけちゃってさ……リスキーな武器っぽいけど使うと面倒臭いことが起こるんだろ?」
確かにリスキーな武器だ。
屋敷内での戦闘後、HPは回復しきれていない。
「さァさァ御託はここまでにしよう」
クリスタルディは指をパチンと鳴らした。
「俺達は君を待っていたッッッ! ドビーダスの登場だ――――ッ!!」
ドビーダス、最強のコボルトと云々言っていたがどのような魔物か。
闘技場の鉄格子の扉が開くと、銀の鉄仮面と胸当て。
それに両手に鉄爪をはめた魔物が現れたのである。
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