Cursed Bug Quest

~呪われた装備を押し付けられた戦士、勇者パーティから戦力外通告を受け魔王軍からオファーが入る~
理乃碧王
理乃碧王

ep09.闇と偽りの指導者

公開日時: 2023年2月24日(金) 12:30
更新日時: 2023年3月1日(水) 17:46
文字数:2,253

「フレイムショット!」


 ラナンは有無を言わせずのフレイムショットを放った。

 連続魔法での2段攻撃、狙いはゲレドッツォのようだ。


「ゲレドッツォ様!」

「盾となってお守りするのだァ!!」


 2匹のオークが身を挺して盾となり守った。

 火球はそのまま直撃し、紅蓮の炎に包まれるオーク達。


「イ、イカれてやがる」


 フサームはそのまま灰と化すオーク達を見て言った。

 俺も同感だ、自らの命を賭してまで守る相手なのか。

 魔物が数体俺達を見て、戦闘態勢に入る。


「あなた達は騙されているのよ。私達の狙いはそこのゲレドッツォだけ!」


 ラナンは魔物達にそう言った。

 彼女とて、仲間である魔物達を無暗に殺したくはないのだろう。


「黙れ小娘! ゲレドッツォ様に歯向かう不届き者め!!」

「ドラゼウフ様のご子息で有らせられるぞ!!」


 そんな魔物達を見てハンバルは呆れた口調で言った。


「ヤツはドラゼウフ様の血など引いておらぬ。ただのリザードマンだ」


――カン!


 杖を叩く音が聞こえた。

 ゲレドッツォが、ハンバルの言葉を聞いて憤っているようだ。


「魔の子らよ、この我をただのリザードマン呼ばわりしておるぞよ! 魔王の後継者に仇なす愚か者を制裁するのだァ!!」


――グオオオオオッ!!


 その言葉に合わせて魔物群れが俺達に襲って来た。 

 前衛に立つ俺は敵軍を迎え撃つ。


「俺にやらせろ」

「おい人間、一人でやれるのか?」


 フサームは少しバカにしながら言った。


「俺とて元勇者パーティの戦士だ。こいつらを放っておくと人間に危害を加えるだろう」


 数は多いがどの魔物もレベルは低い。

 この程度のペテンに騙されるのだ、冒険の序盤に出てくるスライムと変わらない。


「禍根はここで絶たなければならない!」


 俺は魔物達を一人で迎え撃った。


「人間が……人間がいるぞ!」

「殺せ! 闇の光を守るのだ!!」


 幸い俺のことを人間であると気付き、魔物達の攻撃が集中する。

 ダメージを与えられながらも、前進しカタストハンマーで攻撃を加える。


――スカ!


 呪いの武器の効果で時にミスするも……。


「グベッ!!」


 当たれば会心の一撃だ。

 少々手間取るも魔物達を全滅させた。


「な、なんと?! 人間一人に可愛い魔の子達が!」


 あれだけいた魔物の群れが、俺一人に倒されたことにゲレドッツォは困惑していた。

 感情が高ぶり大袈裟に涙まで流している。


「ご苦労さん。オレ様があのトカゲをなます斬りにしてやるぜ」


 フサームは曲刀を振り回しながら向かっていく。

 突撃と同時にイダテを唱えて脚力が上昇。

 元々身体能力の高いコボルトだ。

 魔法の効果も相まって神速での斬撃だ、流石のゲレドッツォも……。


――ギン!!


 剣先は確かにゲレドッツォの胸に突き入れたはずだった。

 だがフサームの剣先は折れ曲がった。何という頑丈な体か。


 竜のような固い鱗に覆われているのか……。

 まさか本当に龍族の血を引いているのかもしれない。

 俺がそう微かに思った時だ。


「な、なァにィ~?!」


 フサームが折れた曲刀を見ていた。

 ダメだ! その距離は近い!!


「汝の横暴許し難し、我が一撃をくらうがいい」


――エアパルト!


 俺の懸念は当たった。

 ゲレドッツォは風属性の魔法エアパルトを発動させた。


「ぐわあああッ!!」


 空気の弾丸がフサームに直撃する。

 ヤツは水属性だけでなく風属性の魔法も扱えるのか。

 至近距離から撃たれたのでダメージは大きい、おそらくは骨が砕かれているはずだ。


「フサーム!」


 俺はエアパルトの直撃を受けたフサームに駆け寄る。

 フサームは口から血吐き、苦しんでいた。


「う、うぎ……がはァ……!!」


 もう戦闘は不可能であろう。

 俺は残念ながら回復魔法の類は扱えない。

 このままだとフサームが……。

 俺は今まで敵として見ていなかったコボルトの心配をしていた。


「敵の技量を侮り飛び込むからだ」

「ハンバル?」

「そこを退いてくれ、治療する」


 ハンバルが俺を退かせ、フサームの胸に軽く手を置いた。


「リカバル!」


 回復魔法リカバルを唱えた。

 先程まで苦しんでいたフサームからは苦悶の表情が消えた。

 ハンバルは、トロルだというのに聖属性の回復魔法を扱えるのか。


「これで死なずには済みそうだな」

「お前、そんな魔法をどこで」


 俺がハンバルに尋ねようとした時だ。

 入り口から足音が聞こえて来た。


「ゲ、ゲレドッツォ様!」 

「魔城の天井に穴を空け侵入する者が!!」

「こ、これは!?」


 何匹かのリザードマン達がやってきた。

 今頃気付いたのだろうか?

 どうやら人間のようにきちんとした訓練を受けていないようだ。


 警戒心が甘い、普通であれば物音一つで違和感を持ってもおかしくないはず。

 なんだかんだいっても、各々が好き勝手に動いているのだろう。

 人間や上級の魔族の真似事をして組織を作っても、王宮の騎士団のように統率がとられていない。

 ハンバルがリザードマン達を見ている。


「教育が成っていないな、ザコの相手は私に任せろ」

「一人で大丈夫なのか?」

「無論だ」


 それを聞いたハンバルは武闘家が行うような拳法の構えをした。


「ハンバル、任せたわ!」


 ラナンはふわりと空中を浮き、俺の元へと駆け寄った。


「あのトカゲを倒すわよ!」


 そう言うとラナンも構えを取った。

 それは戦いの体勢ではなく、呪文を発動させる型である。


「わかった……」


 俺は静かにそう頷くとゲレドッツォを睨んだ。


「クカカカ! 人間に力を借りるとは魔族、魔物の面汚しどもめッ!!」


 ゲレドッツォは杖を俺達に向けている。

 台詞といい、姿といい、何もかもが芝居じみた振る舞いで不快だ。


「我が汝らに魔の鉄槌を与えようぞ!!」


 前哨戦は終わった。

 俺とラナンはこれからゲレドッツォと戦うのだ。

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