「フレイムショット!」
ラナンは有無を言わせずのフレイムショットを放った。
連続魔法での2段攻撃、狙いはゲレドッツォのようだ。
「ゲレドッツォ様!」
「盾となってお守りするのだァ!!」
2匹のオークが身を挺して盾となり守った。
火球はそのまま直撃し、紅蓮の炎に包まれるオーク達。
「イ、イカれてやがる」
フサームはそのまま灰と化すオーク達を見て言った。
俺も同感だ、自らの命を賭してまで守る相手なのか。
魔物が数体俺達を見て、戦闘態勢に入る。
「あなた達は騙されているのよ。私達の狙いはそこのゲレドッツォだけ!」
ラナンは魔物達にそう言った。
彼女とて、仲間である魔物達を無暗に殺したくはないのだろう。
「黙れ小娘! ゲレドッツォ様に歯向かう不届き者め!!」
「ドラゼウフ様のご子息で有らせられるぞ!!」
そんな魔物達を見てハンバルは呆れた口調で言った。
「ヤツはドラゼウフ様の血など引いておらぬ。ただのリザードマンだ」
――カン!
杖を叩く音が聞こえた。
ゲレドッツォが、ハンバルの言葉を聞いて憤っているようだ。
「魔の子らよ、この我をただのリザードマン呼ばわりしておるぞよ! 魔王の後継者に仇なす愚か者を制裁するのだァ!!」
――グオオオオオッ!!
その言葉に合わせて魔物群れが俺達に襲って来た。
前衛に立つ俺は敵軍を迎え撃つ。
「俺にやらせろ」
「おい人間、一人でやれるのか?」
フサームは少しバカにしながら言った。
「俺とて元勇者パーティの戦士だ。こいつらを放っておくと人間に危害を加えるだろう」
数は多いがどの魔物もレベルは低い。
この程度のペテンに騙されるのだ、冒険の序盤に出てくるスライムと変わらない。
「禍根はここで絶たなければならない!」
俺は魔物達を一人で迎え撃った。
「人間が……人間がいるぞ!」
「殺せ! 闇の光を守るのだ!!」
幸い俺のことを人間であると気付き、魔物達の攻撃が集中する。
ダメージを与えられながらも、前進しカタストハンマーで攻撃を加える。
――スカ!
呪いの武器の効果で時にミスするも……。
「グベッ!!」
当たれば会心の一撃だ。
少々手間取るも魔物達を全滅させた。
「な、なんと?! 人間一人に可愛い魔の子達が!」
あれだけいた魔物の群れが、俺一人に倒されたことにゲレドッツォは困惑していた。
感情が高ぶり大袈裟に涙まで流している。
「ご苦労さん。オレ様があのトカゲを膾斬りにしてやるぜ」
フサームは曲刀を振り回しながら向かっていく。
突撃と同時にイダテを唱えて脚力が上昇。
元々身体能力の高いコボルトだ。
魔法の効果も相まって神速での斬撃だ、流石のゲレドッツォも……。
――ギン!!
剣先は確かにゲレドッツォの胸に突き入れたはずだった。
だがフサームの剣先は折れ曲がった。何という頑丈な体か。
竜のような固い鱗に覆われているのか……。
まさか本当に龍族の血を引いているのかもしれない。
俺がそう微かに思った時だ。
「な、なァにィ~?!」
フサームが折れた曲刀を見ていた。
ダメだ! その距離は近い!!
「汝の横暴許し難し、我が一撃をくらうがいい」
――エアパルト!
俺の懸念は当たった。
ゲレドッツォは風属性の魔法エアパルトを発動させた。
「ぐわあああッ!!」
空気の弾丸がフサームに直撃する。
ヤツは水属性だけでなく風属性の魔法も扱えるのか。
至近距離から撃たれたのでダメージは大きい、おそらくは骨が砕かれているはずだ。
「フサーム!」
俺はエアパルトの直撃を受けたフサームに駆け寄る。
フサームは口から血吐き、苦しんでいた。
「う、うぎ……がはァ……!!」
もう戦闘は不可能であろう。
俺は残念ながら回復魔法の類は扱えない。
このままだとフサームが……。
俺は今まで敵として見ていなかったコボルトの心配をしていた。
「敵の技量を侮り飛び込むからだ」
「ハンバル?」
「そこを退いてくれ、治療する」
ハンバルが俺を退かせ、フサームの胸に軽く手を置いた。
「リカバル!」
回復魔法リカバルを唱えた。
先程まで苦しんでいたフサームからは苦悶の表情が消えた。
ハンバルは、トロルだというのに聖属性の回復魔法を扱えるのか。
「これで死なずには済みそうだな」
「お前、そんな魔法をどこで」
俺がハンバルに尋ねようとした時だ。
入り口から足音が聞こえて来た。
「ゲ、ゲレドッツォ様!」
「魔城の天井に穴を空け侵入する者が!!」
「こ、これは!?」
何匹かのリザードマン達がやってきた。
今頃気付いたのだろうか?
どうやら人間のようにきちんとした訓練を受けていないようだ。
警戒心が甘い、普通であれば物音一つで違和感を持ってもおかしくないはず。
なんだかんだいっても、各々が好き勝手に動いているのだろう。
人間や上級の魔族の真似事をして組織を作っても、王宮の騎士団のように統率がとられていない。
ハンバルがリザードマン達を見ている。
「教育が成っていないな、ザコの相手は私に任せろ」
「一人で大丈夫なのか?」
「無論だ」
それを聞いたハンバルは武闘家が行うような拳法の構えをした。
「ハンバル、任せたわ!」
ラナンはふわりと空中を浮き、俺の元へと駆け寄った。
「あのトカゲを倒すわよ!」
そう言うとラナンも構えを取った。
それは戦いの体勢ではなく、呪文を発動させる型である。
「わかった……」
俺は静かにそう頷くとゲレドッツォを睨んだ。
「クカカカ! 人間に力を借りるとは魔族、魔物の面汚しどもめッ!!」
ゲレドッツォは杖を俺達に向けている。
台詞といい、姿といい、何もかもが芝居じみた振る舞いで不快だ。
「我が汝らに魔の鉄槌を与えようぞ!!」
前哨戦は終わった。
俺とラナンはこれからゲレドッツォと戦うのだ。
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