大魔王レフログスの軍勢を倒した。
戦闘で消耗したラナン、俺は彼女を抱き起す。
体中に傷がある、自分より強い魔物達を相手にしたからだろう。
抱きかかえられたラナンは、俺と目を合わせようとしない。
「何をするの……私を早く殺しなさい」
「お前は大事な仲間だ」
「何言ってるのよ……私はずっとあんた達を……」
「確かに今思えば、おかしい部分は多くあった。ベルタにこちらの動きが筒抜けだったり、グリンパーマウンテンではタイミングよくエドワードが現れたりと……」
俺はラナンの顔を見つめる。
「でもお前は俺を助けた。お前はお前の意志で動いたんだ」
「ガルア……」
微かに桜色に頬を染めるラナン。
命懸けの戦闘後に熱でも出たのだろうか。
――ドドン!
俺がラナンを介抱する中、後ろから轟音が鳴り響いた。
新手の魔物が襲ってきたか、そう思い後ろを振り返ると――
「魔那人形!」
五体の魔那人形が屋敷の天井を突き破った。
黒と灰のカラーリング、以前クロノが乗っていた魔那人形とは違い力強さを感じる。
魔那人形達は空に浮かび、赤い瞳で俺達を見ていた。
「一人で倒したのかい?」
屋敷の入り口にはイオ達がいた。彼女は少し驚いたような顔をしていた。
時間稼ぎのために俺が大魔王レフログスの軍勢と戦ったが、先に俺が倒してしまったからだ。
「いや……ラナンも協力してくれた」
「そうか……」
イオがハンバルに目で合図を送った。
ハンバルは静かに頷くと俺の傍に近寄ってきた。
「傷ついているようだな」
「ああ……」
「リカバルで回復しておこう」
「ミラに頼んだ方がいいんじゃないのか」
「私に回復させてくれ。大事な仲間というやつだからな」
「……聞いていたのか」
「恋人同士のようだったぞ」
「冗談を……」
俺はラナンをハンバルに預けた。
そして、俺とラナンの会話を聞かれた気恥ずかしさもある。
「こんな状況で恋愛事はご法度だよ」
イオは冗談で言っているだろうが、少し怒気がこもっている。
それもそうか、今は非常事態だ。すぐ横にいるサッドがチラリとイオを見た。
「魔王様、新しい屋敷を本部指令室にしてみては?」
「あそこか……ゴルベガスの住人達もそこに避難させよう」
新しい屋敷――おそらくはクリスタルディの旧邸のことだろう。
ゴルベガスの街を見渡すような位置に建てられており広大な敷地だ。
今はイオが魔王軍の本拠地として建て直している最中だ。
「決まったようだな」
俺は一言そう述べ、歩を進めた。
そんな俺を見てイオが呼び止めた。
「どこへ行くんだい?」
「市街地だ」
俺の言葉を聞いたトウリとミラが何か言いたげにこちらへと近付いた。
二人はいつの間にか武器や防具を装備している。
「拙者達も加勢しよう」
「ガルア、私達も戦うわ」
二人の申し出はありがたいが……。
「ミラ達は病み上がりだ」
「でも……」
「気持ちは嬉しいが、足手まといになる」
トウリとミラは下を向いた。
戦闘経験を多く積んでいるだろうがミラ達は復帰したばかり。
無理をさせては命を落としかねない。落ち込む二人にサッドが言った。
「君達は本部の護衛を務めてもらいたい。特にそこの僧侶は傷病人の治療を頼もう」
「心得た……」
「私達が出来ることなら何でも」
いい提案だ。
俺はラナンを抱きかかえるハンバルを見る。
「ラナンを頼んだぞ」
「ああ……私も後で加勢に向かう」
「では行くか……」
俺はアレイクを肩に担ぐ。
これから市街地へ向かい大聖師が差し向けた魔軍の軍勢と戦うためだ。
「ガ、ガルア!」
後ろからラナンの声が聞こえたが、俺は振り返らなかった。
そして、イオの大きな声が後ろから聞こえる。
「これから建造中の本拠地へ向かう! マナレンジャーは市街地へ向かい、戦闘及び逃げ遅れた住人を救出せよ!!」
「ラジャー!」
「オレ達の力を見せてやるぜ」
「そういえば、クロノはどこに消えたんや?」
「自分専用の魔那人形の準備ですって」
「自分だけズルいな」
「お前達! 無駄話はそこまでだ! 発進するぞ!!」
――えい! ええい! 応ッ!!
黒と灰の魔那人形が爆音を空に轟かせながら飛び立った。
俺より先にゴルベガスの市街地へと向かうようだ。
そんな魔那人形を見ながら、俺はアレイクを見る。
アレイクは妖しい赤い光を放っていた。
***
俺は市街地へと到着した。
建物は破壊しつくされ瓦礫の山、人や魔物の遺体が街中に転がっていた。
「やるな人間のおっさんよ」
「お前もな、もふもふくん」
「誰がもふもふだ! ――ってそんなことを言っている場合じゃねェか」
「その通りだ。回復アイテムがもうすぐ尽きそうだ」
フサームとジェイドは背中合わせになり魔物と戦っている。
相手は見たこともない魔物ばかり、四本腕の魔人にでっぷりと肥えた四つ足の魔獣、双頭龍等々。
「わーん! お母さん!」
「こんなところで死にたくないよ」
「おい大丈夫か人間!」
「街の人々を守らなければ……」
そして、数名の魔物と冒険者達が住民達を守りながら戦っている。
戦闘は劣勢のようだ。
「こ、この『颶風の騎士』ババヘラ・ワフルパックが……」
イオの屋敷にいた騎士風の男がいた。ババヘラという名前らしい。
鎧のあちこちが破損し、剣は刃こぼれしている。激しい戦闘を繰り返したようだ。
ババヘラの前にはオーガがいた。
「何が颶風だよ、そよ風の間違いじゃねェのか?」
「う、裏切者め……不意打ちなどと……」
このオーガ――そういえばゲレドッツォを倒した時に見た覚えがある。
ということは、このオーガも監視者の一匹か。
「バカめ! 俺は元々――」
「監視者……大聖師が差し向けた使い魔か?」
「て、てめえは!」
俺はアレイクを構えてオーガと対峙した。
「けっ……どうやって知ったかは知らんが、俺だけが監視者じゃねェぜ」
「それは知っている」
「ひひっ……そうかそうか」
オーガはニタニタと笑っている。
何か隠し玉をもっているぞという下卑た表情だ。
「ではラナンのこともかな?」
「だからどうした」
「あの女はてめえのことを気になっているようでな。最近自分の役割も忘れ――」
――ザッ!
俺はオーガを一瞬で斬り伏せた。
斬られたオーガは驚いた顔をしている。
「えっ!? お、俺はお前よりレベルは……」
「それはゲレドッツォと戦った時点でのレベルだろ」
「ク、クソが……」
オーガはそのまま血の海の沈んだ。
俺も数々の戦闘を経験しレベルが上がっている。
哀れにもオーガはそのことに気付かなかったようだ。
俺は倒れたババヘラを抱き起した。
「大丈夫か?」
「す、すまん……それよりも……」
「安心しろ。こいつらは全員倒す」
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