Cursed Bug Quest

~呪われた装備を押し付けられた戦士、勇者パーティから戦力外通告を受け魔王軍からオファーが入る~
理乃碧王
理乃碧王

ep52.哀れな登場人物

公開日時: 2023年5月21日(日) 17:17
文字数:2,650

 俺の提案は「逃げる」。

 唐突に現れた軍勢を前にもう一度屋敷に逃げ込む選択だ。

 その提案に対しクロノが言った。


「た、確かに魔那人形マナゴーレムは屋敷の地下にあるが」

「動かせる操縦士もそこにいるんだろ」

「うむ……ゴブリンウィザード達がな」

「低級の魔物か。流石にそいつらは大聖師の送り込んだ監視者ではないだろう」


 屋敷の地下には、クロノが新たに開発・製作した魔那人形マナゴーレムがあると聞いた。

 あの魔那人形マナゴーレムは強力な兵器だ。対抗するには魔那人形マナゴーレムをここで出すしかない。


 それに傷から癒えたばかりのトウリやミラもいる。

 彼らの安全を確保するには屋敷の地下に避難させた方がよい。


「時間稼ぎか、ボクも協力しよう」

「イオも下がれ、指揮官に万が一のことがあってはいけない」

「嘗められたものだね。君一人で大丈夫なのかい?」


 イオが俺を見る目は鋭い。

 それに対し俺は、


「耐久力には自信がある!」


 とアレイクを手にして走る。

 大魔王を名乗るレフログス達を相手にどこまでやれるか、それが問題だ。

 だが俺は戦士、考えるのは苦手だ。

 まずは先に目に入ったアークデーモンをターゲットにした。


「一人で大魔王様に勝てるつもりか!」

「破亜亜亜ッ!」

「フフ! 飛んで火にいる夏の虫とは――」


――ズッ!


 俺はアークデーモンを一刀のもとに斬り捨てる。


「ぐがッ!? こ、この攻撃力は――」


 物理攻撃といえどアレイクは強力だ。

 並みの魔法や特技よりも攻撃力がある。

 アークデーモンを斬り伏せた俺を見て、イオ達は目を丸くしている。


「君……体は大丈夫なの?」

「あ、あまり無茶せんほうがええぞ」

「大丈夫だ、前の戦闘から体に来る倦怠感が少なくなってきている」


 俺のその言葉を聞いたイオは目を見開いた。


「どうやら『予想を裏切る展開』とやらが起こったらしい」

「どういうことじゃイオ?」

「クロノ、スキャニングでガルアの能力を見てくれ」

「う、うむ」


 後ろで何やら会話しているようだが、その間にも魔物の軍勢が襲ってくる。


「調子に乗るなよニンゲン! ヒドラ、こいつの肉と骨を喰い尽くしてやれ!」


――ギルオオオオオォォォ!


 多頭の巨大蛇が俺の隙をついて襲ってくるが、


「バーストアロー!」


 ラナンがヒドラに向かってバーストアローを唱えた。

 雷鳴を帯びる爆炎がヒドラに直撃した。


「お前……」

「まだこれだけでは不十分」


――グ、グルア……ッ!


 ラナンの言う通り、確かにヒドラはまだ生きていた。

 流石は上級種の魔物と言ったところか。

 俺がレフログス達と戦闘する中、クロノが何か魔法を唱えたような気がしたが気のせいだろう。

 横目で見ると、イオは剣を鞘に納め屋敷の扉を開ける。


「ここはガルアに任せて屋敷に入ろう。サッド! ハンバル!」

「了解致しました」

「お前達も来るんだ」


 ハンバルに呼ばれたトウリとミラ。

 俺が魔物と戦っている様子をじっと見ている。


「一人で大丈夫なのか?」

「それにあのラナンって魔族もこのままにして……」

「何を言っているんじゃ! さっさと入るぞ!!」


 クロノの言葉を聞いた二人。

 目の前にする強力な魔物の軍勢を見ている。


「ここは指示に従うか。今の拙者達では敵わない」

「そうね……それより動ける?」

「うむ、少しだが体が動けるようになってきている」


 二人はクロノの指示に従い屋敷へと向かう。

 一方レフログスは、屋敷へと入っていくイオ達を見て両手で花を作るようにかざした。


「大魔王からは逃げられぬ! 我がヘルブリザードで極寒の死を与えてくれる!」


 強力な呪文を唱えようとしているようだ。

 俺はアレイクを構え、ヤツの前に立ちはだかった。


「よくある台詞を吐くものだな、大魔王よ」

「貴様は何者だ」

「俺は戦士ガルア」

「戦士だと? 余に刃向かおうというのか」

「そうだ、大魔王を名乗る使い魔よ」

「人間風情が……ならばお前から殺してやる。滅びこそ至高! 死するものは美しい! 我が腕の中で永遠の眠りにつくがよい!!」

「眠りにつくのはお前だ。作られた哀れな大魔王よ」


         ***


 屋敷の地下に到着したイオ達。

 トウリとミラが目の前の光景に驚いていた。

 ゴブリンウィザードと呼ばれる魔法を使う低級種の魔物達が、人間の修行僧のように瞑想を行っているからだ。

 計5匹のゴブリンウィザード、何れもクロノが手塩にかけて育てた魔物で一匹一匹が強い。

 そして、その後ろには黒と灰を基調にした魔那人形マナゴーレムが並んでいる。

 右肩にはそれぞれを識別する、赤、青、黄、桃、緑の5色が塗られていた。


「ざ、座禅?」

「何これ……」

「ゴブリンウィザード達の魔力を高めるための儀式じゃよ」


――パチッ!


 クロノが指を鳴らすと5匹のゴブリンウィザードがカッと見開いた。


「トイヤッ!」

「魔力充電完了……」

「いよいよ実戦やな」

「腕が鳴りまする」

「お師匠様! ご命令を!!」


 クロノはニカッと笑いながら答えた。


「魔導戦隊マナレンジャー発進じゃ!!」


――えい! ええい! 応ッ!!


 独特の掛け声をあげてゴブリンウィザードは手を上げた。

 トウリもミラも唖然としている。


「イイ感じに育てたね」

「当たり前じゃイオ、ワシがこの日のために育て上げたゴブリン達だからのう」


 イオとクロノの会話を聞いたトウリ。

 少し眉をしかめながら尋ねた。


「ま、魔物を育てただと?」

「そうワシが育てた。この賢者クロノのあらゆる魔法を叩き込んだ、自慢のゴブリンウィザード達じゃ」

「何を考えている。そもそも魔物は――」


 呆れるトウリを前にサッドがやってきた。


「細かいことを言うな和風勇者」


 その手には二振りの剣が握られている。

 ゴルベガスで販売されるタイガーキラーと風雪の剣である。


「これは?」

「ここから先は自分の身は自分で守れという意味さ」


 続いてハンバルが杖と法衣を持って来た。

 ハンバルは無言で、ミラに手に持つ装備品を手渡した。


「いいの……私達は……」


 ミラの言葉にハンバルは静かに答えた。


「お前達も我々と同じ『哀れな登場人物』だからな」


☆★☆


 骸の山が築かれている。

 イオ達が出るまでもなく、俺は大魔王レフログス達を倒したのだ。

 すでにレフログスは死んでいる。


(強かった――)


 アレイクの威力は絶大、使えば体力を消費するが斬れば斬るほど威力が増した。

 また俺はダメージを受けながらも何故か無事、強力な魔法、ドラゴンの息吹ブレスを受けてもだ。

 自分でも不思議な感覚だ。とはいえ、ラナンのサポートがなければ厳しかっただろう。


「フゥフゥ……」


 かなりの強敵達を相手にした。

 共に戦ったラナンもダメージを負い、魔力を消耗していた。


「次は私を斬りなさい。今なら……」

「バカを言うな」


 俺は彼女を抱き起した。

 そう……彼女もまた物語の哀れな登場人物だからだ。

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