俺の提案は「逃げる」。
唐突に現れた軍勢を前にもう一度屋敷に逃げ込む選択だ。
その提案に対しクロノが言った。
「た、確かに魔那人形は屋敷の地下にあるが」
「動かせる操縦士もそこにいるんだろ」
「うむ……ゴブリンウィザード達がな」
「低級の魔物か。流石にそいつらは大聖師の送り込んだ監視者ではないだろう」
屋敷の地下には、クロノが新たに開発・製作した魔那人形があると聞いた。
あの魔那人形は強力な兵器だ。対抗するには魔那人形をここで出すしかない。
それに傷から癒えたばかりのトウリやミラもいる。
彼らの安全を確保するには屋敷の地下に避難させた方がよい。
「時間稼ぎか、ボクも協力しよう」
「イオも下がれ、指揮官に万が一のことがあってはいけない」
「嘗められたものだね。君一人で大丈夫なのかい?」
イオが俺を見る目は鋭い。
それに対し俺は、
「耐久力には自信がある!」
とアレイクを手にして走る。
大魔王を名乗るレフログス達を相手にどこまでやれるか、それが問題だ。
だが俺は戦士、考えるのは苦手だ。
まずは先に目に入ったアークデーモンをターゲットにした。
「一人で大魔王様に勝てるつもりか!」
「破亜亜亜ッ!」
「フフ! 飛んで火にいる夏の虫とは――」
――ズッ!
俺はアークデーモンを一刀のもとに斬り捨てる。
「ぐがッ!? こ、この攻撃力は――」
物理攻撃といえどアレイクは強力だ。
並みの魔法や特技よりも攻撃力がある。
アークデーモンを斬り伏せた俺を見て、イオ達は目を丸くしている。
「君……体は大丈夫なの?」
「あ、あまり無茶せんほうがええぞ」
「大丈夫だ、前の戦闘から体に来る倦怠感が少なくなってきている」
俺のその言葉を聞いたイオは目を見開いた。
「どうやら『予想を裏切る展開』とやらが起こったらしい」
「どういうことじゃイオ?」
「クロノ、スキャニングでガルアの能力を見てくれ」
「う、うむ」
後ろで何やら会話しているようだが、その間にも魔物の軍勢が襲ってくる。
「調子に乗るなよニンゲン! ヒドラ、こいつの肉と骨を喰い尽くしてやれ!」
――ギルオオオオオォォォ!
多頭の巨大蛇が俺の隙をついて襲ってくるが、
「バーストアロー!」
ラナンがヒドラに向かってバーストアローを唱えた。
雷鳴を帯びる爆炎がヒドラに直撃した。
「お前……」
「まだこれだけでは不十分」
――グ、グルア……ッ!
ラナンの言う通り、確かにヒドラはまだ生きていた。
流石は上級種の魔物と言ったところか。
俺がレフログス達と戦闘する中、クロノが何か魔法を唱えたような気がしたが気のせいだろう。
横目で見ると、イオは剣を鞘に納め屋敷の扉を開ける。
「ここはガルアに任せて屋敷に入ろう。サッド! ハンバル!」
「了解致しました」
「お前達も来るんだ」
ハンバルに呼ばれたトウリとミラ。
俺が魔物と戦っている様子をじっと見ている。
「一人で大丈夫なのか?」
「それにあのラナンって魔族もこのままにして……」
「何を言っているんじゃ! さっさと入るぞ!!」
クロノの言葉を聞いた二人。
目の前にする強力な魔物の軍勢を見ている。
「ここは指示に従うか。今の拙者達では敵わない」
「そうね……それより動ける?」
「うむ、少しだが体が動けるようになってきている」
二人はクロノの指示に従い屋敷へと向かう。
一方レフログスは、屋敷へと入っていくイオ達を見て両手で花を作るようにかざした。
「大魔王からは逃げられぬ! 我がヘルブリザードで極寒の死を与えてくれる!」
強力な呪文を唱えようとしているようだ。
俺はアレイクを構え、ヤツの前に立ちはだかった。
「よくある台詞を吐くものだな、大魔王よ」
「貴様は何者だ」
「俺は戦士ガルア」
「戦士だと? 余に刃向かおうというのか」
「そうだ、大魔王を名乗る使い魔よ」
「人間風情が……ならばお前から殺してやる。滅びこそ至高! 死するものは美しい! 我が腕の中で永遠の眠りにつくがよい!!」
「眠りにつくのはお前だ。作られた哀れな大魔王よ」
***
屋敷の地下に到着したイオ達。
トウリとミラが目の前の光景に驚いていた。
ゴブリンウィザードと呼ばれる魔法を使う低級種の魔物達が、人間の修行僧のように瞑想を行っているからだ。
計5匹のゴブリンウィザード、何れもクロノが手塩にかけて育てた魔物で一匹一匹が強い。
そして、その後ろには黒と灰を基調にした魔那人形が並んでいる。
右肩にはそれぞれを識別する、赤、青、黄、桃、緑の5色が塗られていた。
「ざ、座禅?」
「何これ……」
「ゴブリンウィザード達の魔力を高めるための儀式じゃよ」
――パチッ!
クロノが指を鳴らすと5匹のゴブリンウィザードがカッと見開いた。
「トイヤッ!」
「魔力充電完了……」
「いよいよ実戦やな」
「腕が鳴りまする」
「お師匠様! ご命令を!!」
クロノはニカッと笑いながら答えた。
「魔導戦隊マナレンジャー発進じゃ!!」
――えい! ええい! 応ッ!!
独特の掛け声をあげてゴブリンウィザードは手を上げた。
トウリもミラも唖然としている。
「イイ感じに育てたね」
「当たり前じゃイオ、ワシがこの日のために育て上げたゴブリン達だからのう」
イオとクロノの会話を聞いたトウリ。
少し眉をしかめながら尋ねた。
「ま、魔物を育てただと?」
「そうワシが育てた。この賢者クロノのあらゆる魔法を叩き込んだ、自慢のゴブリンウィザード達じゃ」
「何を考えている。そもそも魔物は――」
呆れるトウリを前にサッドがやってきた。
「細かいことを言うな和風勇者」
その手には二振りの剣が握られている。
ゴルベガスで販売されるタイガーキラーと風雪の剣である。
「これは?」
「ここから先は自分の身は自分で守れという意味さ」
続いてハンバルが杖と法衣を持って来た。
ハンバルは無言で、ミラに手に持つ装備品を手渡した。
「いいの……私達は……」
ミラの言葉にハンバルは静かに答えた。
「お前達も我々と同じ『哀れな登場人物』だからな」
☆★☆
骸の山が築かれている。
イオ達が出るまでもなく、俺は大魔王レフログス達を倒したのだ。
すでにレフログスは死んでいる。
(強かった――)
アレイクの威力は絶大、使えば体力を消費するが斬れば斬るほど威力が増した。
また俺はダメージを受けながらも何故か無事、強力な魔法、ドラゴンの息吹を受けてもだ。
自分でも不思議な感覚だ。とはいえ、ラナンのサポートがなければ厳しかっただろう。
「フゥフゥ……」
かなりの強敵達を相手にした。
共に戦ったラナンもダメージを負い、魔力を消耗していた。
「次は私を斬りなさい。今なら……」
「バカを言うな」
俺は彼女を抱き起した。
そう……彼女もまた物語の哀れな登場人物だからだ。
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