燃えるゴルベガス、かつての観光街にあるのは瓦礫と人間と魔物の骸。
その光景を空から眺めているのは大聖師、本名は不明。本人も自分の名前を忘れている。
悠久の時を重ねるうちに自分の名前を忘れてしまったのである。
「消えた……」
手には白い長方形のボードを持っている。
表面には薄いガラスが貼られており、そのガラスにはゴルベガスの街が映し出されている。
街は四角形型のマス目に表記され、そこには大聖師が作り出した自信作が並べられていた。
「死んだ……」
並べられたユニットは次々と消えていく。
「負けちゃった……」
大聖師はトントンと指で画面を叩く。
「ライフを削ったユニットも本拠地へ逃げたな……このままでは回復されてしまう」
そして、大聖師はマス目上にある大きな屋敷を見つめた。
「本拠地を叩いてクリアするしかなさそうだな」
***
イオは建造中の屋敷にある大広間にいた。
そこには続々と非難してきた住民や戦いで傷ついた戦士達がいた。
「他に逃げ遅れた住民は?」
「マナレンジャーが救出しました」
「そうか。食料や回復アイテムのストックは?」
「もっても1週間程度、突然襲ってきましたので……」
「それもそうか……いざとなったら住民だけでも逃げれるように脱出ルートは確保しておこう」
イオは弁髪、ナマズ髭の東洋風の男と話していた。
男の名前はロフ、イリアサン王国の東方に位置するレイ国の重臣で優れた武道家でもある。
ちなみにレイ国という国は仲間だったシンイーの故郷でもあるが、大聖師のリセットにより消滅。
ロフはその生き残りで、僅かな生き残り、他のキャラ達と同じくゴルベガスへ流れ着いたのである。
「ところでイオ様、これからどうされますので?」
「ボクは指揮官だからね。ここで指示を出すよ、仲間達が敵を倒しているという情報もあるし」
「な、なんと……あの魔獣の群れを……」
「チート級の戦士がいるからね」
イオはガルアを信じていた。
この物語に現れた真の英雄――バグキャラだ。
「チート級? 一体誰のことですか」
「ガルアさ」
「あの男が……」
「うん」
元々は勇者イグナスの存在を知り、彼を仲間に引き入れるために調査していたがすぐに断念した。
大聖師の話をしても信じないであろうと判断したのだ。しかしそれだけではない、人格面に疑問があったのもある。
特に仲間のガルアに対し、呪いの装備をつけたり外したりすることを楽しんでいたことが許せなかったのだ。
だが、その悪意のあるイタズラがバグを生み出す。
徐々にガルアに変化をもたらせた。能力値が上がっていたのだ。
イオは調査を重ねるうちにガルアに興味を持った。
それは偶々レベルが上がり能力値上昇していたのか、あるいはバグによるものか判断がつかなかった。
仲間に引き入れると決意した決定的出来事があった。それはラナンの命を救ったことだ。
サファウダにインストールされた記憶によると、大聖師は主要でない人間キャラには敵対する魔物を憎み、殺すようにプログラムされている。
ガルアはそれに反した。組み込まれたプログラムを無視し、自分の意志と行動で彼女を助けたのだ。
「彼はバグという自分の意志をもった存在だからね」
偶然が重なり合って現れたキャラ……。
物語は誰かに作られたルートを歩くだけではつまらない。
自分の意志や行動の選択の連続により、如何様にも物語の未来を変えるのだ。
「自分の意志ですか――イオ様、どうでもいいのですが」
「何だい」
「その腰に差しているのは『スパルナの剣』……ゴルベガスの武器屋で売られている市販品ですね」
「それがどうかしたのかい。これは軽くて攻撃力もあって使いやすいんだ」
「魔王……いや勇者ならば、伝説の剣とかそれらしい武器を装備してもらいたいものですな」
「ロフ……さっきから何を……」
「チェスト!」
「――ッ!?」
ロフは強烈な蹴りを繰り出した。
イオは痛恨の一撃を受け、壁に激突した。
「ロ、ロフ……君は一体……」
「フハハハ! 大聖師様が魔物だけを監視者として送り込んだと思ったか!」
大広間は静寂に包まれる。突然の出来事に唖然としていたのだ。
「イ、イオ様!」
ハンバルはイオに駆け寄る。
ロフはニタリと笑っている。
「脆いものですなジル様」
傷病者を手当てしていたミラの直ぐ傍にいる男が立ち上がった。
ボロをまとい目立たなかったが、顔を見てようやく気付いた。
「ジ、ジル!?」
「久しぶりだなミラ」
「な、何を……」
――クリムゾンファイア!
ジルが天井や壁に向かって紅蓮の炎を繰り出した。
火属性の全体魔法クリムゾンファイア、その炎が屋敷全体を包んだ。
この場にいたトウリが二本の剣を手にするとジルに向かって叫んだ。
「何をする気だ!」
「削除だよ。貴様ら全員な」
――テレポレート!
ジルはそのまま瞬間移動呪文により脱出。
火に包まれた屋敷を見て人々は混乱し始めた。
「う、うわあああ!」
「火だ! 逃げろ!!」
「出口はあっちだ!」
出口へ向かう人々の前に、ロフが立ちはだかった。
拳法のような構えをしている。
「ここから先は通さん!」
「ひ、ひィ……」
「お、お前も死ぬぞ!? いいのか!」
「私は死んでも構わん、大聖師様に後で蘇生させてもらうのでな」
「な、何言っているんだコイツ……」
「フフフ……次の物語ではイケイケな一国の王にさせてもらう予定だ。今から楽しみだぜ」
イオは剣を抜くと立ち上がった。
「ゆ、許せない……」
「タフな女だな。流石は元勇者と言ったところか、だが相手をするのは私じゃない」
ロフは印を組むと魔法陣が出現した。
そこからは白い拳法着を身に着けた女武闘家が現れた。
イオはその女性に見覚えがある。
「シ、シンイー!」
「お前の仲間だった武闘家ちゃんらしいな。これから大聖師様に与えられた能力『格ゲー』を披露するぜ」
いつの間にか、ロフの手にはH型の固形物が握られている。
大聖師が作った『コントローラー』と呼ばれるアイテムで生物を遠隔操作する機能がある。
その人物が持つ潜在能力を発揮させ、極限まで能力値を上げることを可能としている。
「お、おのれ!」
「このレイ国の面汚しめ!」
レイ国の生き残りと思わしき武闘家達が飛び出した。
二人とも市街地の戦闘で傷ついている。ミラは二人を呼び止める。
「ま、待って! あなた達の傷は……」
「いい試し割りどもだ。コマンド入力させてもらう!」
ロフはカタカタとコントローラーを動かした。
――↓↙←+K 水鳥旋風脚!
「ぐわァ!」
――→+強P イナズマ正拳突き!
「げぶ……ッ」
二人の武闘家はあっという間にシンイーに倒された。
イオはシンイーを見て叫んだ。
「シンイー! ボクだ目を覚まして――」
「無駄無駄無駄ァ! そいつは修正され戦う肉人形と化しているのだァ!!」
「そんな……」
膝から崩れるイオ、それを見たロフは炎に照らされながら叫んだ。
「燃えよシンイー! お前より強いヤツに会いに行け!!」
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