Cursed Bug Quest

~呪われた装備を押し付けられた戦士、勇者パーティから戦力外通告を受け魔王軍からオファーが入る~
理乃碧王
理乃碧王

ep66.エンディング

公開日時: 2023年8月1日(火) 17:15
更新日時: 2025年1月16日(木) 04:09
文字数:3,915

『君がもし満足できるゲームを作ることが出来たならば、望むものを与えよう』

「望むものだと?」

『例えば死んだラナンを蘇らせるとかね』


 ラナン……。

 彼女を蘇らせるとエピックビルダーは俺に言った。

 その言葉が心を揺さぶられる、ラナン――そう彼女が蘇るなら。


『ソルが残しているデータから復元――』


 だが――


「――断る」

『断る……私の聞き間違いかな?』

「断る! 何度も言わせるな!」


 俺の言葉にサファウダが反応した。


「あなた、本気で言っているの?』

「俺達には。お前の玩具ではない」

『何だいそれは』


 エピックビルダーの問いに俺は答えた。


「ラナンの言葉だ。お前を楽しませるために俺達は存在しているのではない」

『ハハッ! 聞いたかいサファウダ。このバグキャラは本当に楽しいヤツだ!』


――フッ……


 そうするとエピックビルダーは姿を変えた。

 それは死んだはずのラナンの姿だった。


「……ッ!?」

『なんだ動揺してるじゃないが、やっぱり君はソルが作ったこのキャラを忘れられないようだね』

「やめろ!」

『反応がつくづく面白い。自我を持ったバグは様々な表情を――』


――ミョルニルサンダー!!


 その時、雷撃の塊がラナンの姿を借りたエピックビルダーにぶつけられた。


『何ッ!? この魔法は――』


 そう見覚えがある。この魔法を扱えるのは彼女しかいない。


「イオか!」


 そこには勇者、いや魔王イオ・センツベリーがいた。

 その姿を見たエピックビルダーやサファウダは驚いた様子だ。


『この開発室は一部のキャラしか侵入できない場所だぞ』

「あ、あなた、どうやってここに!」

「簡単さ。バグチェッカーに開発室を案内してもらった」


 イオの傍にボロボロになったローブ姿の男がいた。

 ソルの攻撃で死んだと思っていたジル・ディオールだ。


「ジ、ジル……!?」

「あの方より、この遊戯ゲームの管理権限を引き継がせてもらった……」


 あの方?

 そうか、あいつが――。

 全てを察した俺にイオは微笑みを浮かべる。


「残念ながら、彼は全ての力を使い果たしてここに来れなかったけどね」

「何で……みんな……」


 動揺するサファウダ。

 彼女を見るイオは哀しげな表情だ。


「サファウダ……ボクに色々なことを教えてくれたのは彼を――ソルを消すためだったんだね」


 対するサファウダは半ば笑いながら答える。

 その顔は悪鬼に憑りつかれたような狂気をはらんでいた。


「そうよ、あいつを消して次の創造主を生むためにね!」


 サファウダは鋭くイオを指差した。


「特にあんたは、エピックビルダー様に見込まれていたのに残念だわ!」

「見込まれていただって?」


 どういう意味だろうか。

 エピックビルダーは元の姿に戻り、体についたほこりを払いながら説明してきた。


『君はソルが消し忘れたデータに触れた唯一の主人公だからさ。一本道のルートを無視し、アレイクにたどり着いた行動は称賛に値する』


 エピックビルダーは剣を持った戦士に変身した。

 その姿はよく見ると、どこか俺に似ていた。

 彼は誰なのだろう? この世界のどこかにいる住人なのだろうか。


「ダミアン!?」


 あの男がダミアンか。

 サキュバスであるベルタの助命を願い、やがて彼女と恋仲になった男――。

 イオの仲間だった戦士であり、ジェイドの息子だ。


『思えば最初にバグを起こしたのはダミアンだった。彼が最初にソルが用意したシナリオを破綻させたからね、その影響が少なからず君に影響を与えたのは間違いない。彼がスイッチとなり君にバグを引き起こした功労者だ』


 エピックビルダーは元の姿に戻る。

 イオに視線を向けながら尋ねる。


『解説はここまでだ。そこのガルア君は私の申し出を断った、イオ君はどうかね「はい」か「いいえ」の簡単な選択肢だが?』


 問われたイオは拳を突き上げた。

 その手は怒りで震えているようだった。


「答えは「いいえ」に決まっている!」

『なるほどね、流石はソルが作った駄作どもだ。やはり私にはサファウダしかいない』


 ジルはサファウダを見て怪訝な顔だ。


「どういうことだ?」

「誰もダメならば、私が創造主になるのよ」

『彼女は〝嫉妬〟が原因でバグに目覚めた。ヒロインになりたくてもなれなかったからね』

「私なら誰もが幸せになる物語を作ることが出来る!」


 サファウダは天を仰いでいる。

 どうも様子がおかしい――彼女は何か精神が壊れているような。


『ハハッ! やはり自キャラが一番! 彼女なら美しい物語を作り、私を楽しませてくれるだろう!』


 エピックビルダーはソルと同じような光子弾を練り出した。


――ヘイルボール!


 だが動きを読んだのかイオが先制して、水属性の魔法攻撃である氷弾をぶつける。

 だが、エピックビルダーには効いている様子は全くない。


「攻撃が効かない!?」

『当たり前だ! 真の創造主である私は実態があるようで実態はない! チェックメイトだ!』


 どういう意味だ――実態があるようで実態はない?

 だが考えている余裕はない。エピックビルダーの光子弾がどんどん大きくなる。


『Delete!』


 閃光が――白い光が俺達に迫って来る。


「ガルア! これを使え!」


 ジルは俺に禍々しい鉄槌を渡した。

 それは当たれば会心の一撃であるが命中率は1/3の呪われた武器だ。

 迷宮の森で手に入れ、俺がイグナスに渡された曰く付きの武具――。


「カタストハンマー……アレイクではないのか」

「あの武器ではエピックビルダーに対抗できない」

「対抗できない? あいつがそう言っていたのか」

「俺にも理由はわからん……だが、あの方の言うことならば確かなのだろう……この世界のことをエピックビルダーから知らされているようだからな」


 今頃、この武器を取り出してどうするというのだ。

 俺が疑問に思っていると、イオは力強く伝える。


「今は信じよう――ボクも半信半疑だがやるしかないんだ」


 ジルは続けた。


「ここは中枢部――目の前にいるエピックビルダーは偽りの存在だと聞かされている」

「どういうことだ?」

「この空間全体がエピックビルダーなのだ」

「この空間が……」

「ガルア、今はそのハンマーを振るえ。想定外のデータが流入すれば機能が停止するはずだ」

「データ……? それは何だ」

「時間がない早く! チャンスは一回だけしかない! 振るのだ! 世界を救えるのはお前しかいない!」

「世界を救う……俺が……」

「そうだ……勇者ではない戦士のお前が……選択と偶然が重なり合い誕生し……自らの意志で考え行動したお前こそが英雄なのだ」


 俺は黙ってカタストハンマーを見る。

 チャンスは一回だけ――。


「破ッ!」


 そのまま強くカタストハンマーを叩きつけた。


――ガルアの会心の一撃!


『なっ……』


――WARNING!


『なんだ!?』


――WARNING!


『コンピューターウィルスが侵入したのか!?』


――WARNING!


 空間に警告音が鳴り響く。

 エピックビルダーの動きは止まり、練り出した光子弾は止まった。


『システムにエラーが……』


 すると白い空間が黒い空間へと変わっていく。

 ところどころ青い線が飛び交い、夜空に流れる流星群のようだった。


『これはどういうことなのだ! HDが焼け付く!?』


 エピックビルダーはジルを見た。


『何をした!』

「破損したデータをメインCPUが感受したか……やはりあの方の言う通りだ」

『破損したデータだと!?』

「あのカタストハンマーはバグアイテム、本来であれば存在していないもの……それをこの中枢部であるコア・プログラム内で使用すればどうなると思いますか?」

『そんなバカな……まさかあのアイテムは……ウソだ……そんなはずがない! カタストハンマーは私が作り出したアイテムだぞ!』

「元々迷宮の森に配置されていなかったのですよ。同じカタストハンマーでも別のカタストハンマー……何かしらの原因で誕生したバグアイテム……」

『何故処分しなかった!』

「消去対象はキャラのみ。アイテムの削除は私の仕事ではありませんので」


 ジルは亜空間を出現させた。


「ここから脱出しろ。仮想空間別世界上のお前達だけは生き残れるはずだ」

「それにしても、一体どういう風の吹き回しだ。俺達に協力するなんて」


 俺の質問にジルは笑って答えた。


「あの方の意志であり、俺の意志でもある」

「意志?」

「罪滅ぼしだ。命を弄んだ製作者側としてのな……」


 ジルは天を仰ぎ続けるサファウダを見ていた。


「それに彼女を置いていくのは気の毒だ」


 そして、ジルは言った。


「仮初の仲間とはいえ楽しかったぞ」

「待て! お前も……」


 イオは俺の手を掴んだ。


「ガルア、早くここから脱出しよう!」

「あ、ああ……」


 俺はイオと共にジルが作った亜空間に飛び込んだ。


『サ、サファウダ! ヤツらを追いかけろ!』

「私はヒロインになる。そして主人公と――」

『う、動かん! フリーズだとゥ!?』

「あなたが彼女を都合よく改変し過ぎて壊れたんですよ」

『わ、私は楽しい物語を__ツクリ__ツヅケル__』


 それには__

 選択は常に正しいものを選ばなければならない__

 主人公は主人公らしい行動を__

 決して、ルートから外れてはならない__


 そうでなければ_

 私を_

 感動させることは出来ない_


 私は_

 常に_

 正しく_


 美しい_

 物語を_


 ノゾ_

 ンデ_

 イル_


          ***


「終わったね」

「ああ……」

「何もないフィールドだけが拡がる」

「そうだな」


 俺達は元の世界へと帰った。だがそこには何もない。

 大地が拡がり、草や木、山々が続いているのみだ。


「だが俺達には仲間がいる」

「そうだね。これからボク達の手で色んなものを作ればいい」


 俺の周りにはイオだけでない。

 フサームやハンバル、クロノやサッド達がいる。

 それに彼らだけではないトウリやミラ、ゴルベガスの住民や魔物達もいる。

 全員どうやら無事だったようだ。


「これからの物語は俺達の手で作る」


 そして、俺は

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