「ひ、一人でだと?」
「そうだ」
「や、やめるんだ……死にたいのか」
「ババヘラと言ったな。そこを動くなよ」
ババヘラの言葉はありがたい、が味方を援護するために来たのだ。
どの魔物も見たことがない種類――ゴルベガスの戦士達が目の前で苦戦している。
フサームとジェイトが四本腕の魔人と対峙していた。二人の体はダメージを受けボロボロだ。
――風烈斬!
「ギギギッ!」
「魔法剣で何度も斬りつけているのだがな」
「ちっ……タフなヤツだ」
彼らの周りにはゴブリンやオーク、武器を持った冒険者達の亡骸がある。
全員この魔物の群れにやられたのだろう。
そして、その後ろには武器を持たない街の住民達が震えているのが見えた。
このままではヤツらに殺されてしまう。俺は急いで援護に向かった。
「大丈夫か?」
「遅せぇぞ! さっさと手伝え!」
「ガルア、一匹一匹が一騎当千だ!」
「そうか……」
俺はアレイクの切っ先を敵に向け突撃する。
――発!
まずターゲットにしたのは四本腕の魔人。
魔人は拳骨の嵐を繰り出してきた。最低限の急所を避け当たりながらも――
――斬!
四本腕の魔人を真っ二つにした。
続いて巨大な魔獣がこちらに突進して来る。
俺は大きく跳躍し、魔獣の頭上に乗るとアレイクを突き刺した。
――突!
魔獣の返り血を浴びながらも、俺は次の敵に狙いを定める。
翠色の鱗を持つ双頭龍。
双頭龍の二つの頭が大きく口を開いて襲ってくるも――
――斬斬!
首を二つ同時にはねた。
フサームは口をあんぐりとしている。
「お、お前……ちょっと強すぎないか? 明らかにおかしい、お前こんなにデタラメな強さだったか」
「後は俺に任せろ。フサーム達は住民達やケガ人を連れて逃げろ」
「逃げろだァ? 逃げると言ってもどこへ逃げるんだよ」
「あそこの屋敷だ」
俺はゴルベガスの丘にある大きな建造物を指差した。
旧クリスタルディの屋敷、現在は修繕改築中でイオが根城にしようとしている場所だ。
「あれは魔王様が建設中の屋敷じゃねェか」
「イオの話ではあそこを拠点に戦うそうだ」
ジェイドが口髭を撫でながら言った。
「なるほどね。あそこで籠城しながら戦うということかな」
「そういうことだな」
フサームが刃こぼれした曲刀を前方に向けた。
「とはいえ敵はまだまだいるぜ、あいつらはどうするんだよ」
「俺一人でやる」
「一人でやるだと?! ガルア、てめえは――」
「フサーム、初めて俺の名前を呼んだな」
「えっ?」
フサームがきょとんとした顔をすると――
――パシッ!
「おうわっ!?」
ジェイドがフサームのしっぽを持った。
しっぽを持たれたフサームは不思議なことに全身の力が脱力してへたり込んだ。
「お言葉に甘えさせてもらう。魔力も回復アイテムも尽きかけて困っていたところだ」
「お、おっさん……しっぽは……しっぽを持つことだけはやめろ……」
「全員、一旦退却だ! あそこの丘まで全力で行くぞ!」
「わかった!」
そのままジェイドはフサームのしっぽを持ちながら退却していく。
またババヘラや生き残った人間と魔物の混成部隊、ゴルベガスの住民達も後を追って行く。
俺の前の血に飢えた魔物達は逃げていくジェイドを追いかけようとしている。
「逃がすか!」
「全員皆殺しだ!」
一本角を持つ悪魔風味の魔物、黄緑色のサソリ人間、竜と馬を掛け合わせたような魔獣等々。
見るからに強そうな魔物達だ。
「ここは通さん」
「なんだコイツ?」
「一人で勝てると思ってるのか」
「全員でコイツをなぶり殺しにするぞ!」
俺はアレイクを上段で構えた。
「長期戦になるな……」
***
――数刻後。
「バ、バカな……何度も斬りつけたはず……なのに……」
黄緑色のサソリ人間が地を這いながら俺を見ていた。
その周りには魔物達の肉塊が転がっている。
「何で死なないんだアアアァァァ!?」
何度も斬られ、突かれ、吐息での攻撃、魔法での攻撃を受けた。
だが、俺は無事だった。あの大魔王レフログスの一戦から様子がおかしい。何ともないのだ。
レフログス達の一斉攻撃を受けたが体が無事だった。それにアレイクを振っても倦怠感がない。
「そ、それにオレ様の毒針も効かねェ……どういう体の構造をしてやがる……」
「俺にもわからん」
「バグキャラめ……お前の勝ちだ、さっさと殺しやがれ」
「お前に構っているヒマはない」
とりあえず辺りを散策だ。生き残りがいるかもしれない。
それに戦力はなるべく削っておきたいのもある。
――ルビジウムイル!
「ぐわあ!?」
深紅色の炎が黄緑色のサソリ人間を包んだ。
この炎の魔法は見覚えがある。
攻撃してきた方向を見るとやはりマージルがいた。
「甘々ですね。敵はすぐに殺さないと」
「貴様味方を……」
「味方? 何を言っているんですか、我々は互いの信頼などありません。あるのは野心のみ」
「野心だと?」
「そう野心。次に大聖師様がお創りなる物語への登場、望む役割を与えられる」
「役割――お前は何になりたいんだ」
「私の場合はそうですね、ラスボスになりたいですね。いやそれは高望みか、終盤に出て来る強力なボスキャラがいい」
マージルは両腕から深紅色の炎を練り出している。
「ラナンさんと同じく連続魔法です。カラカラに焼き殺してあげましょう」
連続魔法か……あの強力な魔法で二回攻撃は厄介だ。
とはいえ今は戦うしかない、俺はアレイクを両手で持ち正眼の構えを取る。
「そういえばラナンさんの姿は見えませんね。処分致しましたか?」
「お前には関係ないだろ」
「関係あるでしょ。同僚なんですから」
「彼女は生きている」
「なんだ生きているんですか……残念だ」
「残念?」
「殺す予定でした。どうやらあの女もバグが発生してましたからね」
「バグだと……」
「この物語にある『迷宮の森』というダンジョン――あそこは元々サファウダ国を上書きして作った場所です」
迷宮の森……あそこは森が出来る前はサファウダ国という古代文明があったという伝承があった。
今思えばこの世界の各地にある民話や伝承は、大聖師が作った物語の断片ということだったのか。
イオの話を聞いた時に気付くべきだった、と今更ながら思う。
「あそこに大聖師様の『青鈍の書』というアイテムがございましてね。その重要アイテムを、データを消す際に落とされたのですが見つからなかった。そこで大聖師様はラナンに本の捜索を命じた……が何故かイオは先にあの本を入手していた」
「だからどうした」
「ラナンは既にあの本の場所を知っていたのです! そうでなければ辻褄が合わない!」
滾るマージル。手に練られた深紅色の炎はどんどん大きくなった。
「あなたもラナンも削除します! バグキャラは全員!」
俺は半身の姿勢になり攻撃に備えるが……。
――ハッハッハッ!
廃墟と化したゴルベガスに高笑いが木霊した。
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