「破亜亜亜亜亜亜亜亜ッ!」
手にしているはずのアレイクの感触はもはやない。
この激情、この破壊衝動――俺自身でも止めることが出来なかったのだ。
「ガルアの体が――」
ミラの声がした。
「奇怪な。これは一体どういうことだ!?」
トウリの声がした。
「アレイクが覚醒したんだ! 彼なら出来ると思っていた! この土壇場になり答えてくれた!」
イオの声がした。
「覚醒?」
ハンバルの声がした。
「だ、大聖師様!」
目の前に敵がいる!
「バカな! モブキャラがアレイクを使いこなすことなど出来ないはずだぞ!?」
そして、怒りと憎悪の対象がいる!
「まさか本当に『覚醒イベント』が――そんなことがあってたまるか! エーターナールゥ!!」
――グルオオオオオオオオオオオオオンッ!
俺はこの悪の魔神を倒す!
***
偽書。
内容、歴史が改変された偽りの書物のことである。
ラナンの教えてくれた本当の真実。あの物語の正式名称は『ルビナス戦記』である。
いや……正確にはバグを起こした主人公の予期せぬ行動で物語を改変したが正しい。
『私に刻まれる、龍族の戦闘方法をお前に授けよう』
アレイクが全てを教えてくれた!
戦いとは生命の歴史! 生き物の蓄積された経験!
剣を持たせぬとも、呪われた煉獄の魔装がガルアの体を自動機能で動かす!
――デロデロデーン!
ガルアの頭に嫌な音がした!
だが、今のガルアにとっては心地よい音色!
「返り討ちにしてやる!」
――ハイドロリックカリバー!
エーターナールから水圧の刃が発する!
オリハルコンを寸断するウォーターカッターがガルアを襲う!
そのダメージは6078!
「ありきたりな! 安っぽいイベントだ!」
――ラプトルハリケーン!
エーターナールから真空の刃が発する!
ドラゴンの鱗を切り裂く爪牙がガルアを襲う!
そのダメージは5800!
「こんな物語はつまらない!」
大聖師は上手く進まない物語、覚醒したアレイクに嫌悪していた。
「僕なら最高の物語を作れるはずだ――」
あの時と展開が同じだ!
ルビナスが殺された時! 僕はガルアと同じように覚醒した!
その後のエンディングは覚えている! 恐ろしい真実を伝えられた!
「いい加減にしろ大聖師――何をそんなに焦っている」
「うぐっ!」
「自分が引き起こしたフラグだろ!」
この世界は『ヤツ』が作り上げた仮想世界だったんだ!
そして『ヤツ』は僕に命令した『満足できる遊戯を作れ』と!
そうすれば彼女は蘇り、永遠の幸せを約束してくれると!
「何故それをお前が知っている!」
でも壊れた僕に満足できる物語を作れるわけもなく――
あいつはそろそろ僕を見限るだろう。創造主を変える気だ。
「サピロスの記憶が教えてくれた」
「あの小竜のデータが残っていたのか!?」
「ああ……成長してな」
あのサファウダ戦記の設定集は偽物。『ヤツ』はわざと改変した書物を作った!
僕自身を削除するためのヒントとなる重要アイテムとして!
開発室であの本の存在を知った時は背筋が凍る思いだった!
僕は急いで部下に探させた! 『青鈍の書』だと嘘まで伝えて!
でも見つからない! どこの城や街、ダンジョンにもなかった!
この僕、大聖師という絶対的な存在を倒せられるのは――
『ヤツ』が作った物語が改変され誕生したバグアイテムのみ!
そして、持ち主の仲間が死ぬことを条件に発動が早まる『煉獄の魔装』は!
この遊戯のバランスを破壊してしまうほどの威力であることを身をもって知っている!
「バカなあいつは、サファウダが飼っていた小竜で僕が消したはずだ!」
「原因はわからんがデータが残り、大きく成長したようだ。おそらくはバグで……」
「あんなザコモンスターにまでバグが起きたのか!」
「その傲りが敗因だ。勇者ソル!」
ジルは聞いた!
今、ガルアは確かに言ったのだ『勇者ソル』と!
「ゆ、勇者ソル? それはサファウダ戦記の主人公の名前ではないか」
「違う! 僕は大聖師だ!」
戦況を見つめるイオ達。既に怪我人はミラやハンバルの治療により何人かは意識を回復していた。
フサームは目の前にする巨大な魔神と紅蓮に包まれた鎧の戦士を見ている。
「ジェイドのおっさん、これは一体どうなっているんだ?」
「俺に聞くな。それよりも……」
「ああ……」
フサームとジェイドはイオに抱きかかえられたラナンを見ている。
そのイオは困惑した表情で、傍にいるサッドとハンバルに尋ねた。
「勇者ソル。確かにそう言ったかい?」
「ええ……」
「イオ様、あなたのお話ではソルは消されてしまったのではないのですか」
「わからない……ボクにもわからないよ」
困惑するイオ。
彼女が開発室でサファウダにインストールされた情報では、大聖師によりサファウダ国は消されたはずである。
女王サファウダも、魔竜王ルビナスも、そして勇者ソルも――
「ええいジル! こいつに魔法攻撃を浴びせてやれ!」
「ま、魔法攻撃ですか? エーターナールで攻撃した方が……」
「僕の言うことが聞けないのか!」
「ハ、ハハッ!」
――ヘルブリザード!
ジルは吹雪を浴びせるもガルアには効かない。
「わ、私の最強の魔法が……」
「それは大魔王レフログスとやらの戦いで経験済みだ」
「レフログス――そういえばあいつの姿が見えないが」
「この場にいないということはそういうことだ」
「まさか……」
「終わりか?」
「ならば切り札だ!」
――ポイズンフレア!
ジルが大聖師に与えられし新魔法。闇と火の合成魔法である。
触れたものの体を溶かし焼き尽くす紫炎の魔弾。
だがガルアは右手一本で弾き飛ばした。
「無駄だ」
「ポ、ポイズンフレアが……」
ジルが放った魔弾。
弾いたのはよいが、異色の合成魔法は避難している住民達の方向へと行く。
「こっちに飛んできたぞ!」
「か、勘弁してくれ」
「誰か……た、助け……」
――マジレクト!
何者かが魔導の防壁を作り上げ弾き防いだ。
それはいなくなっていた賢者クロノの姿だった。
「イオ、早くこいつらを避難させんかい!」
「クロノ!」
「賢者は仲間がピンチの時に駆けつけるのが伝統じゃ」
クロノはイオが抱えるラナンを見た。
「悲しいことが起きたようじゃの……」
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