Cursed Bug Quest

~呪われた装備を押し付けられた戦士、勇者パーティから戦力外通告を受け魔王軍からオファーが入る~
理乃碧王
理乃碧王

ep25.ゴールドアーマー

公開日時: 2023年3月2日(木) 23:15
文字数:3,167

 屋敷内にある広い豪勢な部屋。

 床にはスノータイガーの毛皮が敷かれ、周りには黄金の甲冑が置かれている。

 この露悪的な部屋はクリスタルディがベルタに与えたものである。


「フゥ――人間は何でこんなものが好きなのかしら」


 机には大量の宝石、装飾類が置かれている。

 血のような赤いシングルソファーに座るベルタ。

 足を組み、頬杖をつきながら、それら煌びやかに光るものを眺めていた。


「そういうお前も好きなんだろ」


 その傍には、ターバンを巻いた異国風の男がいる。

 選別試験の際にベルタに食ってかかった男だ。


「綺麗なものが好きなだけよ」


 ベルタは薬指にはめられた指環を眺めている。


「いつまでここにいるつもり」

「バグの死を確認するまでだ」

「それなら大丈夫、私の部下が殺しているはずよ」

「そうか? の情報では違うようだぞ」


 そうすると男は水晶玉を取り出した。

 そこには屋敷内を走るガルアと中年の男性がいた。


「これは!」


 ベルタは驚いた顔になった。

 ドビーダスと戦わせるように仕向けたハズだからだ。

 レッドレイメイルを装備するガルアに対し、体術が得意な強化コボルトをぶつければ仕留めることが出来ると計算していたのだ。


「お前がきちんと仕事するか、抜き打ち検査に来ておいて正解だったな」


 男はターバンを取ると長い黒髪が流れた。

 その正体はジル・ディオールであった。

 大聖師の命令でベルタの監視に来ていたのだ。


「それにしても台詞といい、誘惑魔法テンプテーションにかかったような表情といい素晴らしい演技だったわ。劇団でも開いたらどうかしら?」

「褒め言葉として受け取っておこう」


――コンコン


 二人が会話していると、ノックの音と共に屋敷の使用人が入って来た。

 顔の表情から察するにかなり焦っている様子だ。


「どうしたの血相を変えて」

「地下の闇カジノから火が!」

「火?」

「危険ですのでお逃げを!」


 使用人はそう伝えると急いで逃げていく。


「イベントは上手く進まないものだな」


 ジルはフッと息を吐き部屋から出て行こうとした。


「あの男の始末かしら」

「それは中ボスとしてのお前の役目だ。大聖師様に与えられた大役をこなせ」

「中ボスね」

「逃げるなよ、お前には前科があるからな」


 その言葉を聞くベルタ、黙ったままジルを睨みつけていた。

 ジルはベルタの心中を察してか、大聖師の言葉を伝えた。


「ガルアを始末したならば、大聖師様はお前の望みを何でも叶えると仰られている。この場にじっといればパーティは必ず来る。それが大聖師様がお作りになられる法――ゲームだ」


 最後にそう伝えるとジルの姿は消えた。

 ベルタは立ち上がるとため息交じりに言った。


「ゲームね……」


          ***


 ベルタのいる部屋まで向かう俺達パーティ。

 屋敷内にいる使用人や警備兵に発見されないよう最大限に警戒しているが――


「おかしい、屋敷内に人がいなくなっている」

「確かにな。ここまで人と遭遇しない」


 ラナンが催眠魔法ヒプノーションで侵入したならば、屋敷内は警戒態勢を強めるハズだ。

 それがどうだろう。ここまで全く人の姿を見ていない。


「このまま突入しよう。すぐそこがベルタの部屋だ」


 俺達は違和感を感じつつも、目の前の部屋の扉を勢いよく開けた。

 するとそこにはワインを一口飲むベルタの姿があった。


「いらっしゃい」


 ベルタは特に慌てる様子を見せなかった。

 そして、彼女はジェイドを見ながら言った。


「私の誘惑魔法テンプテーションにかからなかったの?」

「これのお陰でね」


 ジェイドは精霊石の指輪を見せつけた。


「それは……」


 指輪を見せられたベルタは驚いたような顔を見せる。

 これまで冷静な雰囲気だったベルタが慌てた様子だ。


「これは息子、ダミアンの遺品。――お前が殺した男の物だ」

「どういうこと?」


 息子――ダミアン――

 初めて聞くワードに、俺とラナンは理解出来ないでいた。


――ガチャ……ガチャ……


 金属音が鳴った、部屋にある黄金の甲冑が動き出したのだ。


「鎧が!」

「こいつらを殺しなさい」


――グルオオオォォ!!


 甲冑の兜から覗く顔はジャガーマン。ベルタの眷属魔物のようだ。

 ベルタが部屋の窓を開ける、それを見たラナンは叫んだ。


「あんた逃げる気!?」

「逃げるが勝ちってね」


 ベルタはそう述べ窓から飛び降りた。


「あっ……逃げた!!」


 ラナンは逃げたベルタを追うが鎧のジャガーマンが立ちはだかる。


「貴様らの相手は俺達だ!」

「八つ裂きにしてくれる」

「ザコどもに構っているヒマはない」


 ジェイドは鞘から剣を抜き放つも、固い黄金甲冑で歯が立たない。

 カンと音が部屋に響いただけだ。


「なんと!?」

「おじさん、どいて!」


――フレイムショット!


 火炎球が放たれるもビクともしない。

 この鎧は魔法攻撃耐性があるようだ。


「このゴールドアーマーに物理攻撃も魔法攻撃効かぬわ!」

「大聖師様がお造りになられたこの鎧! 鋼鉄の剣でも切り裂くことは不可能!」


 ダイセイシ――またこの言葉だ


「切り裂くことは不可能――か」


 ゴールドアーマーは特別製。

 ならば、ドビーダスの兜を割ったこのアレイクで試してみるか。

 正直は使いたくはないが、背に腹は代えられない。


「何だその赤い剣は?」

「自信満々のようだが、このゴールド――」

「破ッ!」


 戦闘中の無駄話の隙を突き、俺は一閃を放つ。

 自慢のゴールドアーマーをスライムの柔肌のように易々と切り裂いた。


「グワアアア?!」


 鎧武装のジャガーマンを一体倒した。次はもう一体のジャガーマンのターンだ。


「よくも!」

「ぐっ……」

「どうだ! 岩石を砕く鎧手甲の一撃は!」


 もう一体のウェアタイガーが俺に攻撃する。

 レッドレイメイルの呪いで物理攻撃のダメージはある。

 だが、これしきの攻撃なら耐えられる。


「これしき……」

「頑丈なヤツだ! ならばもう一発!」


 戦士である俺のHP生命力は高い。

 これまでの戦いで半分ほど減っているが、まだまだ余力はある。

 それにこのジャガーマンは気付いていない。

 大聖師はおそらく悪戯者だ。彼らの特性は理解しつつも活かそうとはしていない。


「その鎧では、獣人族の素早い動きや鋭い爪は出せまい」

「ゲッ?!」


 お返しとばかりに、ジャガーマンを一刀両断した。


「ベ、ベルタ様ァ!」


 自分の主の名を叫び倒れた。

 そこまで主人に尽くす魔物も珍しい。

 ここで戦ったウェアウルフを始めとする獣人族全てがそうだ。

 自分の命は惜しくないのだろうか。


「うっ……」


 それにしてもこのアレイクの切れ味は抜群だ。

 ひょっとすると鉄……いやダイアモンドも斬れる剣なのかもしれない。

 しかし、使用する度にHP生命力は削れる。

 リスキーソードと同等の効果だろう。威力は高いがリスクもある呪われた剣だ。


「大丈夫か?」

「あ、ああ……」


 よろめいた俺にジェイドが駆け寄った。

 俺が手に持つアレイクを見つめている。


「恐ろしい威力だな」


 額からは冷や汗が出ている。

 ジェイドが持つ武器はゲベシュと呼ばれる緑色をした鎌型の剣。

 冒険の上級者が使う威力の高い武器。

 その武器でさえゴールドアーマーとやらにキズを付けることは不可能だった。


「何か焦げ臭くない?」


 ラナンの言葉にハッとさせられた。

 そういえば先程から何かが焼けるような焦げた匂いがする。

 通路を確認すると火がこちらに迫って来ていた。


「窓から飛び降りるしかないな」

「ああ、ベルタもそこから逃げたしな」

「えっ……」


 逃げる場所は窓しかない。

 これまでの冒険で、ダンジョンに仕掛けられた落とし穴に落ちた経験が有る。

 この程度の高さから飛び降りても大丈夫だ。


「では、お先に失礼」


 まずジェイドが窓から飛び降りた。

 流石は経験ある冒険者だ。物怖じせずに飛び降りた。

 その光景を見てラナンの顔は青ざめている。


「ねえ……ここ結構高いんじゃない」

「怖いのか?」

「こ、怖くなんか――」


 言葉は強気なものの、顔の表情から明らかに怖がっている。


「子供だな」

「な、なによ! あんた――」


 俺はラナンを抱きかかえると、ジェイドの後を追い窓から勢いよく飛び降りた。


「キャ――ッ!!」

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