「ラナン!」
大聖師の放った閃光の矢に貫かれたラナン……。
目を閉じた、体温が下がった、全身が蒼白色に変わる。
それが何を意味するかは理解る。
命の灯火が消えようとしているのだ――
「こんなことって……」
「早く傷を回復しないと!」
――リカバル!
「ダメ……息を吹き返さない」
「そんな……」
「私が出来ることはこれが限界。残念だけど彼女は……」
ミラは顔を横に逸らした。リカバルを唱えるも傷が閉じる程度。
呼吸も心臓の音も聞こえない――それにラナンは目を開けてくれない。
「そうだハンバルなら……」
魔法を得意とするハンバルだ。以前もリカバルを使っていた。
彼もミラのような何かしらの回復魔法が出来るに違いない。
「私はミラのような本職の僧侶ではない。簡単な回復や補助魔法が使える程度だ」
「何か出来るはずだろ!」
「残酷な話だが……生命力が尽きたものを蘇らせることは出来ないのだ」
重苦しい空気、イオ達も街の住民達も俯くばかりだ。
「誰か回復や蘇生魔法が出来るものは!」
この場にいる全員に呼びかけた。だが誰も名乗り出ない。
俺は周りを見渡す。誰か……誰かいないのか!
その中に俺は一人の男を見つけた。商人のモヤネロだ、どうやら生き延びることが出来ていたようだ。
「モヤネロ!」
「お、俺ですかい?」
「何かアイテムはないのか」
「無茶言わないで下さいよ、店は壊されたんですから」
「何か持っているだろ!」
「アイテムはこのラストポーションくらいしか……」
「貸してくれ!」
俺はモヤネロからラストポーションを奪った。
ラストポーションは体力と魔力を完全回復させるレアアイテムだ。
「えっ……ちょ、ちょっと!」
「金なら後で払う!」
俺はラナンの元へ駆け寄ろうとするが、
「やめるんだ」
イオが立ちはだかった。
「どいてくれ」
「ダメだ」
「どけッ!」
俺が怒号を飛ばすと、イオは冷静かつ厳しい口調で言った。
「ハンバルの話を聞いていなかったのかい。どんな回復魔法やアイテムを使っても『生命力が尽きたものを蘇らせることは出来ない』のが現実だ」
「生命力が尽きた?」
「彼女は死んでしまった」
暗い何かが俺を襲った。
「ラナンが死んだ……」
余りにも残酷な現実だ……彼女はさっきまで俺と……。
「ヒャーハッハッハッハッハッ!」
大聖師の笑いが青い空に響き渡る。
「感動的で喜劇的な茶番劇を見せてくれてありがとう!」
何か言っているようだが聞き取れない。
俺はただラナンの顔を見ていた……冷たくなった彼女をそっと抱き寄せる。
「最高のラブコメだね!」
「貴様……」
「怒るのかい? おいおいヒロイン死亡の覚醒イベントはやめてくれよ」
大聖師はパチンと両手で指を鳴らした。
「怒りの覚醒イベントが発生する前に削除だ!」
大聖師の合図と共に、エーターナールは地鳴りのような咆哮をあげた。
――グオオオオオオオオン!
「戦るか……」
イオが剣を構えた。戦うようだ。
「拙者達に手に負えるバケモノなのか!?」
「それに街の人も……」
ここにはジルに倒されたフサーム達がいる。それに戦える力を持たない住民もいる。
彼らを巻き添えにせず、このエーターナールとどこまで戦えるか……。
「バグキャラどもめ覚悟しろよ」
「あの大聖師様……」
「何だよジル。これからが最高のショーなんだぞ」
「魔那人形達がこちらに――」
「ほへっ?」
ジルが指差す方向は後方。
黒い正義の心を持つ5体の魔那人形がやってきた。
「任務完了! 敵全てを駆逐!」
あれはマナレンジャー達だ。どうやら街にいる魔物の軍団を殲滅させたようだ。
「しかし、なんだこの怪物は!」
「ザコ狩り完了したと思ったら大ボスのご登場かよ」
「ワイらでいてまうで!」
「いけるのか!?」
「いくしかないわ! 魔那人形は伊達じゃない!」
マナレンジャー達は横一列に隊列を組んだ。
「陣形! フリーダムバトル! 作戦名はガンガンやろうぜ!」
空に浮かぶ大聖師は呆れ顔になっている。
「パチモンかよ。サファウダ戦記では、色んなデザインの魔那人形が登場したがどれもカッコよかった」
「いくぞみんな!」
「フフフ……お前らがやられるところをヤツらに見せて絶望を与えてやろう」
――バーニングビーム!
――アイシクルダスト!
――スーパービリビリダマ!
――風魔砲!
――ミステリアスブレス!
様々な属性魔法を応用した魔導兵器が繰り出される。
赤い熱線、冷凍光線、電撃弾、空気の塊、毒と酸がブレンドされたような息吹。
だがどれも――
「き、効かない!」
傷一つ負わせることは出来なかった。
次はエーターナールのターンだ。
「ヨシ! まずは一機潰すぞ!」
――フッ!
無雑作なナックルが繰り出され、
「は、速い! 避けられ――」
一体の魔那人形を破壊した。
「う、うわあああ――っ!?」
「ビューイ!」
撃墜された魔那人形がイオ達の目の前に落ちて来た。
燃える屋敷と同じく爆破炎上する魔那人形、イオは戦慄した表情となっていた。
「そんな……シキナミを基準に作り上げられた強化黒曜石のボディがあっけなく……」
シキナミ――あの動く仁王像の魔物か。
イオの言葉に反応した大聖師はせせら笑った。
「シキナミだと? あの玩具を参考に作ったのか。バカだなァ」
「くっ!」
「さてイオたん、お遊びはここまでだ。君に……いや君達に本物の破壊というものを見せてやろう」
――エレクトロニクス・プロミネンス砲!
「発射――ッ!」
エーターナールの口から紅蓮と雷が混ざり合った光線が放たれた。
「どうするベニ?」
「どうするもこうするも防ぎようが――ッ!?」
黒と灰の魔那人形は呑まれ破壊されていく。
そう、マナレンジャー達は全滅したのだ。
「さあて前菜は喰った! 次は貴様らだ!」
大聖師の次の狙いは俺達だ。俺は冷たいラナンを抱え覚悟を決めた。
俺達はもうすぐ死ぬのだ。あの圧倒的な破壊の魔神に――
――怒れ!
「いや……俺はやらなければならない」
――憎め!
「このアレイクも言っている」
――殲滅するのだ!
「大聖師、お前を殺す!」
――死者達の魂を供犠に『煉獄の魔装』を与えよう!
全・身・武・装!
全・力・破・壊!
目に映る画面は赤くなった。それはアレイクの刀身と同じ赤い色。
アレイクは突如変形し俺の体を包み込んだのだ。
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