「尋常に勝負いたせィ! 大聖師様の命により貴様らを滅殺する!」
洞窟の外から声がする。
低くて太い声、敵と思われる魔物の声だ。
しかし、どうやってここを知ったのだろう。
誰かにつけられている気配は全く感じられなかった。
「だ、大聖師じゃと!? この洞窟はワシら以外は知らんはずじゃ!」
クロノが慌てた様子だ。
ラナンやフサームは息をのんで身構えている。
「敵襲……!?」
「何がどうなってるんだよ」
イオは冷たい表情で洞窟の出口を見る。
腰に差した簡素を剣を抜いた。
「ハンバル、後方から支援を頼む」
「委細承知!」
「クロノは魔那人形の準備だ」
「任せとけ! 実戦で試したかったしのう!」
イオはハンバルと共に出口へ。
一方のクロノは壁に手をかざすと、
「扉よ開け……オープン!」
魔法陣が現れ、左右に岩の壁が別れた。
どうやら隠し部屋の扉のようだ。
「銅の剣や兜、鎧を溶かしまくって作った試作機をようやく試せるわい!」
クロノは何故かニヤニヤしている。
どこか新しい玩具を手にした子供のような顔だ。
こんな緊急事態に何を考えているんだろうか。
それはラナンも同じだ。
「ちょ、ちょっと、何を笑っているのよ!」
「ウエヘッヘッ! ラナンには理解出来んじゃろうて」
「何でよ」
「お嬢ちゃんだからさ」
クロノは白い髭をなでると、奥の部屋に入っていった。
「誰がお嬢ちゃんよ!」
ラナンはムッとした表情だ。
そのやり取りを見ていたイオはやれやれといった顔だ。
「早くしなよ。これからイベントバトルだ」
***
「来たか……」
俺達が外に出ると黒い巨人が待ち構えていた。
上半身は筋骨隆々とした裸体だが鉄の光沢を放っている。
目の前の黒い魔人に、ラナンとフサームは攻撃の準備をする。
「ストーンゴーレム? それとも鉄巨人?」
「こ、こんな魔物見たことねェぞ」
魔人は俺達を睨みつけた。
「吾はシキナミ! うぬらをこの物語から退場させしものッ!!」
見る限りは生きる石像の類か。固い体は厄介だ。
イオは剣を肩に担ぎながら、俺を横目で見た。
「ボク達の世界では見たことがない魔物だね」
「ああ……見たところ魔法生命体のようだが」
「君のアレイクで斬れるかな」
「抜かなければならないか?」
「いや……ここはボクが先制させてもらうよ」
イオはそう述べると跳躍して一撃を放った。
「ハァッ!」
「ぬぐ……!」
雷のような速さの斬撃。
シキナミの首筋に刃を立てるが、
「この程度の一撃など吾には効かんわ!」
ほんの数ミリ斬り込んだだけでダメージはない。
シキナミは無雑作に手で払い、イオを吹き飛ばした。
「くっ!」
「イオ様!」
飛ばされたイオをハンバルが受け止める。
イオは少し笑いながら言った。
「1500スピナの鋼の剣じゃ斬れないか」
「ならば私の魔法で!」
――フレイムショット!
火球を一発。
「もう一発!」
フレイムショットの連続魔法。
シキナミは赤い炎に包まれる。
「や、やった!」
「小賢しい小娘が!」
「えっ……」
魔法のダメージも効いている様子がない。
シキナミは半身になった。
順手を開手にして下段に、引手は拳に形作り顎の方へと寄せている。
「邪鬼を滅さん!」
そして、シキナミは正拳突きを放った。
もちろん狙いはフレイムショットを放ったラナンだ。
「危ない!」
俺はギガスシールドでラナンを守った。
「むっ!」
衝撃はあるもののガードは出来た。
盾越しからのダメージはあるものの、この程度の攻撃なら何度も受け耐えきって来た自信がある。
「ガ、ガルア!」
「ラナンは後ろに下がれ」
「わ、わかったわ」
ラナンは洞窟の入り口付近まで下がった。
俺はシキナミの拳を盾で何とか防ぎ続ける。
「何だこの耐久力と防御力は……吾の攻撃力は、貴様程度のレベルでは耐えられぬほどに調整されたはず!」
「ボケッとするなよウスノロ野郎!」
フサームが素早い身のこなしで駆け抜ける。
イダテによる敏捷性の向上。
獣人族の伝統技、狙うはシキナミの右目だ。
「ヒュルルル――ッ!」
独特の呼吸音、気合を出しながら突き入れた。
鈍い音が聞こえた、どうやら技は成功したようだ。
「ぐぬゥ――!」
「よっしゃ! ザマァみろだぜ!」
シキナミは右目を抑えると二、三歩後退する。
すると不敵に笑い始めた。
「フフフ……圧倒的な耐久力と防御力を持つ戦士、それにクリティカルヒットあるいは即死攻撃が高確率で決まるザコモンスターか。なるほど、大聖師様が仰られるように物語にあってはならない存在だ」
「何がなるほどだよ。おいデカブツ、今度は左目に突き入れてやるぜ!!」
フサームが再び構える。
待て……何故か胸騒ぎがする。
長年の冒険での経験で培ってきた勘だ。
「フサーム! 迂闊に近寄るな!」
「今が絶好のチャンスだろ!」
――全てを微塵にせし烈風よ……肉と骨、全てを切り裂け!
シキナミが何かの魔法を詠唱している!
「吾が龍魔法ドラグトルネードをくらえ!」
ドラグトルネード。
その言葉を聞いたイオは驚いた表情になった。
「ド、ドラグトルネードだと!?」
――ドラグトルネード!
真空の渦が俺達を襲った。
それは全体攻撃、烈風の刃が体を切り裂いていった。
「きゃっ!」
「うわあっ!」
ラナンとフサームが倒れた。
服は切り裂かれ、皮膚が刻まれ血が流れている。
ハンバルもダメージを負ったが何とか立てるほどの状態だ。
「ハンバル、大丈夫かい?」
「何とか」
「二人の回復を頼む。いや、その前に君自身の回復が必要か」
「私は大丈夫です。二人の回復が先決でしょう」
「頼んだよ」
俺とイオもドラグトルネードの一撃を受けたが、互いに構えるほどの余裕は残してある。
イオはこちらを見ながら言った。
「まさかドラグトルネードを使用するなんてね」
「あの呪文を知っているのか」
「魔王ドラゼウフがボクと戦った時に使用した呪文だからね」
「ドラゼウフが!?」
「あのシキナミってやつ、ラスボスの魔法を使えるようだ」
魔王ドラゼウフの呪文が使えるだと……。
あのシキナミという魔物、何故そんな強力な呪文を扱えるのだ。
「うぬらの存在は物語に置いて邪魔だ!!」
――全てを微塵にせし烈風よ……肉と骨、全てを切り裂け!
シキナミが再びドラグトルネードを詠唱している。
もう一度、あの呪文を放つというのか。
「ガルア! 君のアレイクならばヤツを切り裂くことが出来るはずだ!」
俺は腰のアレイクを見る。
抜くなら今か!
「待て待てィ!」
その時だ。
上空からクロノの声がした。
宙に浮きながら構えを取っている。
「魔那人形の初実戦! クロノいっきまァーす!!」
「な、何だこれは――」
シキナミが詠唱を止めた。
クロノが動かす魔那人形が上空から突進してきたからだ。
「唸れ! ロケットパンチじゃ!」
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