「手枷と足枷を外したけどよ、コイツはどうするンだ」
フサームはコンコンと鉄格子を叩く。
頑丈な鉄で作られた牢獄を出るにはカギが必要だからだ。
「簡単なことだ」
ハンバルはそう述べると掌を鉄格子当てる。
足を肩幅よりも少し開き、膝を折り曲げ腰を深く落とす。
――噴ッ!!
気合をかけると飴細工のように鉄格子がひしゃげた。
トロルのバカ力でこじ開けたというよりも拳法の技術のようなものだ。
「ヒュー♪」
フサームは口を尖らせて感心した様子である。
「どこでそんな器用なことを覚えたんだ」
「色々あってな」
「普通のトロルは棍棒を振り回すのがお似合いだろ」
「おしゃべりなヤツだ。それよりも――」
ハンバルは牢獄から出ると、先に進み隣の牢獄を叩く。
――グオオオオオン!!
額から斧に模した角が生えている馬が牢獄内で暴れている。
この馬はアックスブロンコという魔物である。
凶暴な馬の魔物で興奮すると仲間でさえ圧殺する。
「アックスブロンコが4匹か」
フサームは暴れ回るアックスブロンコ達を見て言った。
「随分と興奮しているな、コイツらを出せばいい暴れっぷりが見れそうだぜ」
ハンバルとフサームにはある作戦がある。
闘技用の魔物として潜入し、ベルタに協力する魔物を粛清するのと同時に囚われた魔物を解放することで闇カジノを混乱させることだ。
その混乱に乗じて、必ず闇カジノを経営するベルタが現れる。
そして、先に潜入したガルアとラナンが暗殺するという算段だ。
――ゴンゴン!!
「お、おい! そこにいるなら俺達も出してくれ!!」
向かい側の牢獄には魔法を扱えるオーク、オークメイジや猿型の獣人バッドエイプがいた。
「ハンバル、都合がいいことに言葉を話せるタイプの魔物がいたぜ」
「そのようだな」
「いいからここから出してくれよ、人間どもを八つ裂きにしてやりてェ!!」
囚われた魔物達はアックスブロンコに負けず凶暴で残忍な性格しているようだ。
フサームはニヤリと笑う。
「ハンバル、俺じゃあ無理だからこじ開けてやれよ」
「当然だ」
ハンバルは魔物達が囚われる牢獄を、身に付けた闘技で破壊していくのであった。
***
「あの野郎! どこへ消えやがったんだ!!」
一方、闘技場ではドビーダスが怒り狂っていた。
――自分より少し強いか、格下を倒して自己満足してただけだ。
聞きたくない一言だった。
自分自身でも気付いていたのだ。本当の強者と戦っていないと。
「へっ……頭に血が上ってても仕方がねェよな。大聖師様から与えられた能力はホンモノだ」
彼が持つ特技も魔法も全ては偽りの能力。
そう――大聖師と呼ばれる人間から与えられたものであった。
「ウギャアアア――ッ!!」
ガルアを探そうと向かいの通路へ移動しようとした時だ。
後ろから悲鳴が聞こえた。
すると闇カジノの従業員だった黒服の姿があった。
「お、お前、どうした急に」
「魔物が……牢獄に捕らえていたザコモンスターが……グバッ?!」
黒服はそう述べると血を吐き倒れた。
よく見ると剣が背中に突き刺さっていた。
「ケケケ……流石はバトルコロシアムってところだな、武器がごまんとありやがる」
ドビーダスが出て来た通路からは簡素な剣を持ったバッドエイプを始め、オークメイジ達がいた。
「き、貴様らどうやって……」
オークメイジはドビーダスを指差しながら言った。
「同じ魔物なのに人間どもの味方をしやがって、ぶっ殺してやるぜ!!」
「ゴーゴーッ!!」
――グオオオオオン!!
次にバッドエイプの掛け声を合図にアックスブロンコが4体飛び出して来た。
闇カジノの闘技場は魔物の軍勢に大混乱だ。
「ひ、ひえ――魔物どもが脱走したぞ?!」
「こんなところで死にたくない」
「逃げるザマス!」
――フレイムショット!!
「グワーッ!」
オークメイジは逃げ出そうとする観客達に目掛け火球を放った。
何人かの観客達に命中し、体が炎に包まれた。
先程の殺戮ショーの中で行われたことが身をもって再現されたのだ。
「なっ……ななっ?!」
「た、助けてくれ!」
闇カジノは大混乱である。
一目散に逃げ出そうと出口から出て行くも揉みくちゃの状態。
次第に場内は、オークメイジが放ったフレイムショットの火に包まれていく。
「ど、どう責任取ってくれるんだ!」
「魔物の管理はどうなってるザマスか!!」
「お、俺に聞くんじゃねぇ! ドビーダス、コイツらをぶっ殺せ!!」
責め立てられるクリスタルディは、何とか場を収めようとドビーダスに命令を出した。
「言われるまでもねェ!!」
「このクソコボルトが! 人間のモンクみたいな武器を装備しやがって!!」
「黙れサル野郎!」
――ザンッ!
「ぐへッ?!」
剣を持ったバッドエイプが襲いかかるも、襲撃の斬撃で返り討ちにした。
「こ、こいつ! フレイム……」
「ブタに魔法は似合わねえ!!」
――ズバッ!
「ギニャー!!」
フレイムショットを発動させる前にオークメイジを切り刻んだ。
特殊スキル『2回攻撃』での斬撃だ。
この特殊スキルも大聖師から与えらえた能力である。
――グオオオオオン!!
今度はアックスブロンコが群れを成して襲って来る。
ドビーダスは相手を見据え冷静に口元を動かす。
「炎と雷の輝き――二つの輝きをもって、爆炎の矢を放たん……」
――バーストアロー!!
両手からガルアに向けて発動させたバーストアローを放つ。
突撃するアックスブロンコに見事命中し、まとめて倒した。
「す、凄いぞドビーダス! お前は最強のコボルトだ!!」
クリスタルディは、魔物数体をものの数秒で片付けたドビーダスに賞賛の拍手を送る。
気分を良くしたドビーダスは残っている脱走した魔物達を挑発する。
「来な、全員俺様がぶっ殺してやるぜ」
身構えるドビーダスに魔物達はすくんでいた。
野生の性か自分より強いものには自然と恐怖を感じていた。
「情けねぇ……魔物が人間に褒められてどうする」
「……! お前は?!」
魔物の群れの間から一匹のコボルトが出て来た。
死んだバッドエイプが持っていた剣を取ると構えながら言った。
「まさかお前がパシリになってるなんてな」
「フ、フサーム!」
そのコボルトとはフサームであった。
剣を構えるとドビーダスを睨みつけながら言った。
「お前は越えてはならねェ一線を越えた」
その眼光は鋭いものの、どこか悲しい眼差しだった。
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