「クカカカカカ!!」
高笑いを浮かべている、勝利を確信しているのだろうか。
「ここに少数の魔物だけしかおらず疑問に思わなかったか?」
「どういう意味よ?」
ラナンが苦虫を嚙み潰したような顔になっている。
でも言われてみると、この城に潜入した時から敵と遭遇していない。
魔王城なのに警護がザル過ぎる。
「我が新魔王軍の守護する神将達……即ちミノタウロスのラベロ、サイクロプスのガンマ、オーガキングのローゼンストライクと魔獣戦士団が待機しておる。我の呼びかけでしか動かないが、もうすぐこちらへと増援に向かうであろう」
何れも超ド級の魔物達だ。
「我の呼びかけでしか動かない」ということは何らかの形で洗脳処理したのか。
それとも調教したのかそれはわからない。
「さあ、さあ、さあ、来たれよ!! 魔城を守護する神将達よ!!」
ゲレドッツォは両手を天に衝き、芝居がかった口調だ。
「少し骨が折れそうだな」
「上級の魔物達を切り札にとっているだなんて」
俺とラナンは身構える。
――シーン……
――が一向に現れない。
時間がかかっているのだろうか。
緊張感からか、ラナンは少し額から汗をかいていた。
「こ、来ないわね」
「馳せ参じよ! 我が魔の子達よ!!」
ゲレドッツォの呼びかけにも魔物達は現れない。
「いでよ! ラベロ、竜巻の如き暴れっぷりを見せてやれ!!」
――しかし、何もおこらなかった。
「来たれよ! ガンマ、必殺のグランドスラムをお見舞いするのだ!!」
――しかし、何もおこらなかった。
「ならば、ローゼンストライクだ! その強力で破壊するのだ!!」
――しかし、何もおこらなかった。
「ま、魔獣戦士団はまだかァ!!」
――しかし、何もおこらなかった。
「そやつらが来ないということは、既に倒されたということであろう」
後ろからハンバルがやってきた。
どうやら入り口のリザードマン達は、既に倒して来たようだ。
「な、ななっ! どういうことだァー?!」
驚くゲレドッツォにハンバルは説明した。
「我らだけで奇襲をかけるか。サッド様が眷属の魔物達を引き連れ、あのお方と共に既に攻め入ってるハズだ」
「あのお方?」
――あのお方。
ハンバルの物言いは意味深だった。
「次代の新魔王となられるお方だ」
――新魔王?!
俺はてっきりサッドが新しい魔王軍のトップになると思い込んでいた。
新たな事実がわかり困惑する中、ゲレドッツォはやけになったのか飛びかかってきた。
「ええーい! こうなれば、我が魔拳で殴り殺してくれる!!」
両手にはエアパルトを発動させている。
全ての魔力が尽きたわけではなかったのか。
「残る魔力を我が右手に――貫けーッ!! 必殺の『風破掌』ぞよ!!」
魔法が扱える武闘家の特技『魔闘技』か!
ここまで色物的な匂いがしていたが、中々に器用だ。
俺は覚悟を決め、直撃を受けることを決心した。
(反撃の一撃を……)
握るカタストハンマー。汗で濡れていることがわかる。
ヤツの風破掌を受けたとて、反撃の一撃を放つことは出来るか。
――当たる確率は1/3。
「ヒャアアアアアッ!!」
破裂音と共に体に衝撃が加わる。
流石にまともに受けれるのは辛いか……。
いや待てよ、そういえば思ったより衝撃が少ない。
「受けてばかりでどうする」
そう述べたのはハンバルだ。
淡い黄色のオーラが俺を包み込んでいた。
これは土属性の補助魔法『プロテクト』だ!
「ありがたい」
俺は一言述べるとカタストハンマーを振りかぶる。
次は俺のターンだ。
攻撃を与えたゲレドッツォは焦った様子だ。
「ひ、卑怯! 卑怯なりィ!!」
「俺達はパーティだ。お互いが自分達の特徴や特技、魔法で補い合うことで力を発揮する」
「屁理屈を述べよって! しかし、そのようなギャンブル武器が我に……」
――会心の一撃! ゲレドッツォに大ダメージ!!
「ウギャアーッ!!」
カタストハンマーは見事命中。
フリーズミストで亀裂が入り、凍結された鉄の胸当ては粉々になる。
そして、ゲレドッツォは凍結されたドラゼウフの骸まで吹き飛ばされていった。
――バギャッ!!
硝子が砕けるような音が聞こえた。
ドラゼウフが凍らさられている氷塊にヒビが入ったのだ。
「ぐふっ?!」
氷塊に叩きつけられたゲレドッツォ。吐血しながら倒れた。
「これは?」
俺の足元には角……というよりも鉢金が落ちていた。
ゲレドッツォの頭部に装備していたものだ。
「これで龍族の角が生えているように見せかけていたのか……」
見ると山羊の角を取り付けた安っぽい鉢金だ。
普通なら騙されないが、ゲレドッツォの弁舌と魔力、更にはドラゼウフの骸を祭儀道具として使うことで魔物達を洗脳していったのだろう。
「うぐぐ……」
戦闘が終わり、フサームが立ち上がった。
やっと目を覚ましたようだ。
「あ、あのトカゲ野郎は!」
「もう終わったわよ」
フサームはラナンの指差す方向を見ていた。
そこには血と泡を吹いて倒れるゲレドッツォの姿があった。
「な、何だよ! 誰が倒したんだよ!!」
「そこの人間だ」
今度はハンバルが俺を指差した。
フサームが急いで俺に走り寄ってきた。
「て、てめえ! 何美味しいところを取ってんだよ!!」
俺は少し笑いながら言った。
「ワンターンキルだったぞ。防具に身を固めレベルを上げた方がいいな」
「ちっ!」
フサームは悔しそうな顔をしていた。
――懐かしい気分だ。
イグナス達との冒険の序盤は、こういったお互いの短所を補い合いながら死線を潜り抜けてきた。
どうしてあんなことになったのだろう……。
強力な敵が現れ、出てくるクエストのレベルが上がるに連れ、特技や特殊なスキルが必要になった。
他の仲間は冒険を進めるごとに魔法やスキルを会得していくが、俺はいつまでたっても特技を覚えなかった。
俺の努力不足……才能が足りなかったのだろうか。
そうやって過去のことを後悔と己の無力さを感じていた時だ。
入り口から二つの足音が聞こえた。
「流石は奇襲隊に抜擢しただけはある」
――サッド・デビルス!
金の装飾が散りばめられた豪勢な貴族服に身を包んでいる。
「……」
――その傍らには藤色の髪を持つ女性がいた。
美しく神秘的かつ幻想的な雰囲気。
着ているものは黒い革の鎧に赤いマントを羽織っている。
一目でわかる強者の薫り……。
体には青い血がついていた、明らかに魔物達を切り伏せた返り血だ。
「な、なな……」
俺の隣にいるフサームはしっぽを震わせている。
「どうした?」
俺の問いにフサームは唇を震わせて答えた。
「ゆ、勇者だ!」
(あの女が――)
彼女がサッドの言っていた魔王ドラゼウフを倒した女勇者か。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!